研究課題/領域番号 |
24890306
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
永井 千晶 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (30633648)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 心不全 / バイオマーカー / グライコプロテオーム解析 |
研究概要 |
【目的】本研究は、心不全時にタンパク質の糖鎖修飾が変動するという仮説に基づき、グライコプロテオーム解析により心不全関連タンパク質を同定し、心不全マーカーへ応用することを目的とする。本年度は、心不全モデルラットを用いてこの仮説を検証するとともに、どのような糖鎖修飾が変動しているかを解析した。 【方法】心不全モデルとして、Dahl salt sensitive (SS) ratを使用した。6週齢のオスラットに8% NaCl(HS群:心不全群)または0.3% NaCl(LS群:対照群)を含む固形食を与え、高血圧性心不全を発症させた。経時的に生理的基礎パラメータ(体重、血圧、心エコー)を測定し、12週齢(発症期)および16週齢(確立期)に組織および血漿を採取した。 【結果】各群における血圧、心エコー、心重量、血漿ANP・BNP濃度の測定結果は、心不全の発症を明確に示した。定量PCRアレイにより、左心室組織における糖転移酵素の遺伝子発現を網羅的に解析したところ、HS群ではGALNT群をはじめとするO-Glycan合成酵素系、およびその他4種の酵素の発現上昇が認められた。一方、左心室組織ライセートを用いたレクチンアレイにおいて、LS群と比較してHS群では、ハイマンノース型N-glycanの減少、コアフコースの減少、シアル酸の減少などが認められた。この結果を踏まえ、再度、定量PCR法やウエスタンブロット法、ELISA法にて糖転移酵素のタンパク質発現量を解析した結果、O-Glycan合成酵素系を中心に7種の酵素において、12週から16週、LS群に対してHS群で有意な増加を示すことが確認できた。これらの結果から、心不全の発症・重症化に伴うO-Glycan付加が心室組織で一般的に起こる現象であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では、心不全モデルラットにおける心不全時糖鎖付加タンパク質の同定および心不全マーカー候補タンパク質の選別を予定していた。しかし、本年度は、予定を一部変更し、それらのタンパク質の同定よりも、心不全の発症・重症化に伴い変動する糖鎖構造の解析に焦点を絞った。糖転移酵素の発現解析やレクチンアレイの結果から、心不全時に変動する糖鎖構造を絞り込むことができた。このことにより、組織の総タンパク質を対象とした場合と比較して、対象とするタンパク質が絞り込まれるとともに、回収に最適なレクチンが判明した。これらの結果から、より確度の高いグライコプロテオーム解析が行える条件が調ったといえる。また、心不全時に変動する糖鎖構造を絞り込んだことにより、既知の糖タンパク質から心不全関連タンパク質の候補分子を予測することが可能となった。このように、心不全マーカー探索および心不全発症の分子基盤の理解において重要な結果が得られたため、本年度の計画に相当する進展があったものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまでに得られた知見をもとに、(1)ラットにおける心不全関連タンパク質の同定、(2)ラットにおける心不全マーカー候補タンパク質の選別、の2項目を実施する。研究が順調に進んだ場合には、(3)ヒト組織での心不全マーカー候補タンパク質の評価、も実施する。各項目について、下記に詳細を示す。 (1) ラットにおける心不全関連タンパク質の同定:ラットの左心室組織および血漿を試料とし、タンパク質総体およびレクチンやフェニルボロン酸ベース担体を用いて回収した糖タンパク質画分を用いて、プロテオーム解析を行う。プロテオーム解析は、2D-DIGEによるHS群とLS群とのディファレンシャル解析を主体とする。糖タンパク質の回収が困難である場合には、2D-PAGEとレクチンブロット法による糖タンパク質の網羅的解析を行い、その中からHS群とLS群とで糖鎖修飾に変動が認められるタンパク質を見出す。 (2) ラットにおける心不全マーカー候補タンパク質の選別:ウエスタンブロット法、レクチンブロット法などにより、タンパク質量、糖鎖量の変動を評価する。変動が確認されたら、組織中や血漿中での濃度および発現の心臓特異性などを検討し、心不全マーカーとして妥当な候補タンパク質を絞り込む。 (3) ヒト組織での心不全マーカー候補タンパク質の評価:(2)項に示した内容を拡張型心筋症剖検症例の左心室組織について実施し、心不全マーカーとして妥当な候補タンパク質を絞り込む。
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