研究課題/領域番号 |
24890308
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部) |
研究代表者 |
沖 健司 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部), その他部局等, その他 (30638995)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | アルドステロン / アンギオテンシンII / 副腎皮質 |
研究概要 |
HAC15(ヒト副腎皮質癌細胞株)を用い,アンギオテンシンII(A-II)代謝産物がアルドステロン分泌に与える影響を検討した.まず,HAC15にA-IIを投与すると,6時間の経過で,A-IIは完全に代謝されることを同定した.A-IIが完全に消失した上清をHAC15に投与した際,アルドステロン分泌に変化は認めなかった.次に,A-IIが完全に消失した上清とA-IIをHAC15に共培養すると,A-II代謝産物の用量依存性にA-IIによるアルドステロン刺激は減弱することがわかった.さらに,real time PCRでステロイド合成酵素の発現解析を行ったところ,A-II代謝産物の上清投与群では,アルドステロン合成酵素(CYP11B2)の発現が低下しており,CYP11B2の抑制によりアルドステロン分泌が阻害されていると考えた.これらの結果から,A-IIの代謝産物は,アルドステロン分泌の直接調節作用を有さないものの,A-IIを介したアルドステロン分泌に対しCYP11B2発現を抑制することにより,その合成を抑制していることがわかった. 続いて,A-IIの代謝産物の化学物質(アンギオテンシンIV,アンギオテンシン1-7,アンギオテンシン3-7)を用い,個々の化学物質がアルドステロン分泌に与える影響を検討した.アンギオテンシンIVやアンギオテンシン3-7では,A-IIによるアルドステロン分泌を阻害しなかったが,アンギオテンシン1-7はA-IIによるアルドステロン分泌を部分的に抑制することを同定した. これらの結果を得て,アンギオテンシン1-7を前投与しA-IIを投与した群とA-IIのみを投与した群で,マイクロアレイ解析を施行した.アンギオテンシン1-7により過剰発現または抑制される複数の遺伝子の同定に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における当初の研究計画では,①アンギオテンシンII(A-II)代謝産物がアルドステロン分泌に与える影響,②A-II代謝産物投与サンプルに対するマイクロアレイ解析,③マイクロアレイ解析から,A-II代謝産物が刺激するシグナル伝達の予測,を予定した. ①に示した,「A-II代謝産物がアルドステロン分泌に与える影響」に関しては,A-II代謝産物がA-II刺激によるアルドステロン分泌を抑制することのみならず,アルドステロン合成酵素(CYP11B2)の抑制を介しアルドステロン分泌を抑えること,A-II代謝産物のなかでもアルドステロン分泌にはアンギオテンシン1-7が関与していることなど,当初の予定よりも詳細かつ十分な検討を行うことができた. ②に示す「A-II代謝産物投与産物に対するマイクロアレイ解析」については,A-II代謝産物を具体的に絞ることができたため,アルドステロン分泌により影響すると考えられるアンギオテンシン1-7を用いてサンプルの調整を行うことができた.実際のマイクロアレイ解析をLC Scienceに委託することにより実施し,完了した. ③に示す「マイクロアレイ解析から,A-II代謝産物が刺激するシグナル伝達の予測」であるが,現在そのシグナル伝達を過去のマイクロアレイ解析のデータや既報の報告などと比較している.複数のシグナル伝達やアルドステロン分泌を調節する機序が,アルドステロン分泌に関わっていることが推察されており,それらの中からいくらかに焦点をあてて,ウエスタンブロッティングやreal time PCRなどを行い検討中である.当初,実際のシグナル伝達を同定することを計画していたが,現在はそのシグナル伝達の同定中である.ただし,そのシグナルの同定にも,それほど時間を要さないと考えており,ほぼ順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
①「マイクロアレイ解析から,A-II代謝産物が刺激するシグナル伝達の同定」:実施したマイクロアレイ解析の結果と保持している多数のagonist(A-II,forskolin,カリウム)に対するマイクロアレイデータや生物情報科学データベースを用い,A-IIの代謝産物により影響を受けるシグナル伝達を,Real time PCRやウエスタンブロッティングなどを用いて確認する. ②「A-II代謝産物がシグナル伝達に与える影響を確認」:シグナル伝達を同定後,その拮抗薬や阻害薬を用い,A-II代謝産物がステロイド合成酵素やアルドステロン分泌に影響することを証明する.細胞膜電位の測定や細胞内カルシウム濃度の測定が必要となるが,応募者の過去の報告(Endocrinology 153:1774-81,2012)を応用することにより実施する.dominant negative効果を示すplasmidやmutationを持ったplasmidを作製し,受容体刺激に対するdominant negative効果やA-II代謝産物がステロイド合成酵素やアルドステロン分泌などに与える影響を検討する.また,シグナル伝達に影響する因子のover-expressionまたはshRNAによるknock downにより,A-II代謝産物の効果を評価する. ③「In vivoにおけるA-II代謝産物の効果」:レニン依存性高血圧症モデルラット(低食塩食で飼育したSplague-Dawley ratや腎動脈狭窄を人工的に作成したSplague-Dawley rat)に対し,アンギオテンシン1-7を投与し,血圧の変化や血中アルドステロン値に対する効果を検討する.
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