| 研究課題/領域番号 |
24K07076
|
| 研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大山 雄一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30213896)
|
| 研究分担者 |
多田 將 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (00391706)
関口 哲郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (20450356)
石田 卓 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 講師 (70290856)
|
| 研究期間 (年度) |
2024-04-01 – 2027-03-31
|
| キーワード | トリチウム / J-PARC / ニュートリノビームライン / 放射能 |
| 研究実績の概要 |
J-PARCニュートリノビームラインにおいて、ビームから生じる熱からビームライン機器を守るために冷却水は必要不可欠である。この冷却水の酸素原子がビームからの中性子によって核破壊を起こすことにより高濃度の放射能が生じる。これを適宜除去することはビームラインの安定的な運転に欠かせない。放射化水中の3H以外の放射能はイオン交換樹脂を用いて除去する。先行研究により、放射能除去のためのイオン交換樹脂の種類や通水時間、放射化水のpH調整等十分な除去を達成するためのノウハウを確立した。 3Hを除去するためには希釈排水しか方法が無いのであるが、2024年度はそれまでに設置した2つの排水関連設備の本格運用の年になった。1つはニュートリノ第2設備棟に増設された2基の252m^3の希釈排水タンクであり、もう1つは希釈排水用の工水から泥を除去するための工水浄化装置である。これらの新しい設備を用いて、2024年度は4.6x10^20 POT(Proton on Target)から生じた3H189.3GBqの希釈排水処理を行った。かつて2017年度に195.4GBqの3Hの処理を行うのに満水希釈排水タンク103基相当の排水が必要だったのに対し、2024年度は40基相当の満水希釈排水タンクで処理を終えた。将来ハイパーカミオカンデ実験で年間1100GBqの3H処理が必要である。2024年度の5.8倍であり、現在の排水能力に余裕があるものの将来に渡って排水能力がビーム増強の足枷にならないようにノウハウの確立が必要である。2024年度の設備運用実績はそのための第一歩になった。
|
| 現在までの達成度 |
現在までの達成度
3: やや遅れている
理由
本研究はJ-PARCニュートリノビーム運転によって生じた放射能の処理に関する研究である。ビーム運転が休止している状態では研究の進展には限りがある。 J-PARCでは2022年度に50GeVシンクロトロンの大幅なアップグレードがあり、1年以上に渡ってニュートリノ実験施設へのビーム運転が休止された後、2023年度にビーム運転が再開された。しかしながら、2011年のビーム運転開始から10年以上が経ち、いろいろなビームライン機器で老朽化が目立ち故障が絶えない。上流の加速器から下流のニュートリノビームラインまで、一か所でも故障が起きるとビーム運転が不可能で、修理には月オーダーの時間がかかるのが現状である。2025年3月にはニュートリノビームラインターゲット冷却ヘリウムの漏れが見つかり、修理には少なくとも半年が掛かることが予想されている。 J-PARC全体で、故障すると長期間のシャットダウンが必要な古いビームライン機器に対しては、できるだけ故障前に予め交換するべきという認識が広まりつつある。このため老朽化対策のためにできるだけ予算をつける方針で動き始めているが、古い機器を全面交換するにはまだ時間がかかるのが現状である。
|
| 今後の研究の推進方策 |
ニュートリノ第2設備棟の放射化水希釈排水設備に関しては、これ以上の設備の拡充は不可能で、年間1100GBqの3H希釈排水を現在の設備で行う必要がある。このため設備の効率的な使用による排水設備の有効利用を検討する必要がある。具体的には放射能濃度測定の充実による放射化水採水から排水許可までの時間の短縮や、排水作業者の雇用についての効率化の検討である。いずれにせよ、処理の必要な放射能増加に伴い徐々に排水処理能力の拡充を目指す。 今後の研究のもう1つの大きな柱は鉄板からの水や空気への3H流出問題である。鉄原子の核破壊で生じる3Hが鉄板中に溜まっており、これが徐々に冷却水に流出する。放射化水中の3Hのうち、約半分は鉄板からの3Hであると考えられる。鉄板からの3Hの流出は3Hが鉄板の中をどの程度の速さで移動するかを示すパラメータ(diffusivity)と、金属表面に達した3Hがどの程度鉄板と接する水・水蒸気との間で水素-3H交換を行うチャンスがあるかを示すパラメータ(solubility)に依存する。鉄板からの3Hの流出を防ぐために、鉄板の表面をsolubilityの小さい金属でコーティングすれば良いという可能性が見えてきた。最も可能性が高い金属はアルミニウムである。これを証明して定量的に議論するために、ターゲットステーションのターゲット近くにアルミニウムでコーティングした鉄板を設置して取り出し、いろいろな試験をすることを考えている。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
2024年度の研究のうち、希釈排水設備を用いた3H放射化水の排水手順の確立に多くの時間が割かれ、もう1つの研究の柱である鉄板からの3Hの流出に携わる時間が取れなかったのが研究費の使用額が想定よりも少額になった主な理由である。 2024年度はさらに希釈排水サイクルの短縮化を目指して放射能測定の時間短縮についての検討を行いたい。 一方、2024年度はアルミニウム等でコーティングした鉄の試料を用いた実験も計画しているが、ニュートリノビーム運転のスケジュールが確定していないので実施は不透明である。2024年は研究成果発表の機会を検討したが、発表の機会は日本物理学会の1回しかなかった。2025年は別の機会を検討し、研究費を成果発表の旅費にも使用したい。
|