研究実績の概要 |
2014年度に得られた代表的な研究実績について以下に記す。1. 水の物理に関して : (1) 昨年度に引き続き、密度異常に代表される水の熱力学的異常の起源についてTIP4P, TIP5Pモデルを用いて数値シミュレーション研究を行い、以前に我々が提唱した水の二状態モデルを支持する、微視的レベルでの構造的証拠を見出した(田中G, Nature Commun. 5, 3556 (2014))。さらに、現在ST2モデルについて研究を行い、我々のモデルにより、第二臨界点近傍まで極めて高い精度でその挙動を再現できることが明らかとなった。(2) 水の結晶安定性の詳細な検討により、常圧付近に熱力学的には準安定であるものの、力学的には安定な新たな結晶相(Ice Oと命名)を発見し、氷の結晶化は、従来の常識に反し、I型の氷が直接形成されるのではなく、上記のIce Oがまず核形成し、それがI型の氷に変換していくことを発見した(田中G, Nature Mater. 13, 733 (2014))。また、Stillinger-Weber Siにおいて、高圧においてこれまで知られていなかった新しい結晶相(sc16と命名)が存在することを発見した。2. 液体・液体転移に関して : Triphenyl Phoshiteにおいて、時分割小角・広角X線散乱測定を行い、2nm程度の大きさを持つ局所安定構造の存在を発見し、その数密度が液体・液体転移の秩序変数である可能性を示した(PNASに掲載決定)(田中G)。3. ガラス転移現象に関して : (1) 多分散剛体球を用いその一部を熱平衡位置に凍結することで評価される静的相関長を測定したところ、従来の通説に反し、この長さは単に液体の2体相関の距離を反映したもので、過冷却液体の動的相関長とは関連がないことを明らかにした(田中G)。(2) 様々な系の粘性輸送の非局所性を研究し、フラジャイルな液体とストロングな液体に本質的な相違があることを明らかにした(古川G, 田中G)。(3) 過冷却液体の示す動的不均一性に臨界性を見い出すとともに(Phys. Rev. Lett. 113, 245701 (2014))、ガラスの平衡相転移の存在を示唆する結果を得た(宮崎G)。4. 結晶化に関して : 二つの結晶形が競合する共融点近傍ではガラスが形成されやすいことが知られているが、これまでその原因は未解明であった。我々は、液体の構造と結晶の構造の非類似性が、その鍵を握っていることを発見した(田中G)。5. 非線形流動に関して : 過冷却液体の単純せん断流下でのシアシックニングの起源を明らかにすべく、近距離の流体力学的相互作用を取り入れた数値シミュレーション法を新たに開発した(古川G, 田中G)。6. ソフトマターに関して : (1) 昨年度に引き続き2成分流体系のドロップレット型相分離の粗大化に関して数値的・理論的研究を行い、長年信じられてきたブラウン運動に伴う確率的な融合合体機構ではなく、マランゴニカによる決定論的なドロップレットの運動とそれに伴う衝突・合体が重要であることを明らかにした(田中G)。(2) 二次元流体中の自己回転粒子が流れ場の自己組織化だけにより多様な非平衡構造を形成することを発見した(Nature Commun. 6, 5994(2015))(田中G)。(3)液晶中の外場下のコロイドの運動、温度振動下での臨界溶液中のヤヌス粒子の運動について興味深い結果を得た(荒木G)。(4) これまで取り扱いが極めて困難であった膜系における流体力学的効果を取り入れた、新たな粗視化シミュレーション法を開発することに成功した(古川G, 田中G)。以上のように液体・ソフトマターの時空階層性に関していくつかの基本的な問題を解明することに成功した。最後に、我々の成果を発信すべく、本年3月に“Physics of Structural and Dynamical Hierarchy in Soft Matter”と題した国際会議を主催したことを付記しておく。
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現在までの達成度 (段落) |
まず、水型液体の研究について特に大きな進展があったので、以下に述べる。上述した通り、密度異常に代表される水の熱力学異常の微視的な起源を、新たにST2モデルに関して研究を行うことでモデルに依存しない普遍的な形で明らかにすることに成功した。どのモデルにおいても、「水の第二近接粒子の持つ並進秩序」が、密度と結合する秩序変数として、水の局所構造化の鍵を握ることを初めて示した。また、その局所構造化こそが、水の熱力学異常、水の均一核形成に必要な大きな過冷却度の起源を理解する上で鍵を握っていることを明らかにした(Nature Commun. 5, 3556(2014)に発表)。さらに、昨年も触れたが熱力学的には準安定であるものの、力学的には安定な新たな結晶相(Ice Oと命名)を発見し、氷の結晶化は、従来の常識に反し、我々が目にするI型の氷が直接形成されるのではなく、このIce Oがまず核形成し、それがI型の氷に変換していくことを発見した(Nature Mater. 13, 733 (2014))。このIce Oの存在はイギリスのグループによる量子力学的計算によっても確認された。さらに、Siにおいても、高圧にこれまで知られていない新たな結晶相が存在することを発見した(sc16相と命名)。又、水型液体の共融点近傍でのガラス形成能の上昇が、その付近で秩序間の競合により液体の構造が大きく乱れ、その結果、液体・結晶界面張力が異常に増大することに起因することを発見した。さらに、液体・液体転移の研究において、それを支配する秩序変数が、数分子から形成される局所安定構造の数密度である有力な実験的な証拠を発見し、液体・液体転移の秩序変数に始めて微視的に迫ることに成功した(PNASに掲載予定)。以上のように研究は極めて順調に進んでいると自負している。
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