研究実績の概要 |
1. 水の物理に関して : (1)粘性異常に代表される動的な異常について研究を行い、水のダイナミクスが、従来言われてきた臨界減速やガラス化に伴うものではなく、2種類の局所的構造の存在によることを発見し、水の静的・動的異常を統一的に説明することに成功した(田中G)。(2)Stillinger-Weberモデルを用い、温度・圧力に加え、正4面体構造形成能を第三の変数として相挙動を研究した結果、ある条件下で三つの結晶相と一つの液体相が共存する4相共存が実現されること、すなわち、Gibbsの相律を破る初めての例を発見した(田中G)。2. 液体・液体転移に関して : Triphenyl Phosphiteにおいて、X線散乱測定により、2nm程度の大きさを持つ局所安定構造の存在を発見した(PNAS 112,5956 (2015))。また、同液体において液体・液体転移の可逆性を、分子性液体において初めて明らかにした(田中G)。3. ガラス転移現象に関して : (1)多分散剛体球において、遅いダイナミクスの起源となる相関長を正しく見積もるには、並進秩序に加え配向秩序を評価することが重要であることを初めて示した(PNAS 112,6920 (2015))(田中G)。(2)過冷却液体の密度緩和の様式に、局所的・非局所的機構の二つのタイプがあることを明らかにした(古川G, 田中G)。(3)過冷却液体のシミュレーションにより、熱力学的な理想ガラス転移の存在を示唆する結果を得た(PNAS 112,6914 (2015))(宮崎G)。(4)アモルファス物質においては、応力の長距離相関を反映した弾性率の長距離相関が存在し、それによる散乱のため、従来考えられてきたよりもフォノンが過剰に散乱されることを発見した(田中G)。4. 結晶化に関して : 液体における結晶的な回転対称性の破れの度合いが、結晶核形成に対するエネルギー障壁の高さを支配していることを明らかにした(田中G)。5. 非線形流動に関して : せん断流れ下にある液体の、壁面におけるスリップの新しい機構を発見した。また、高密度な粒子系における運動拘束に流体力学的相互作用が多大な影響を与えることを明らかにした(古川G, 田中G)。6. ソフトマターに関して : (1)2成分流体系のドロップレット型相分離について、真の粗大化機構を解明した(Nat. Commun. 5, 7407 (2015))(田中G)。(2)2次元駆動粉体系において、自己組織化に伴うエネルギー散逸の効果を実験・理論の両面から明らかにした(Phys. Rev. X, 5, 031025 (2015))(田中G)。(3)外場下における相分離の特徴的長さが、従来信じられてきたドメインサイズではなく、平均曲率の逆数で与えられることを明らかにした(荒木G、田中G)。(4)ゲル化における運動凍結が、ガラス化ではなく結晶化により実現されるという新しい機構を発見した(田中G)。以上のように液体・ソフトマターの時空階層性に関して、いくつかの基本的な問題を解明することに成功した。
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