研究課題/領域番号 |
25000003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩佐 義宏 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (20184864)
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研究分担者 |
秋光 純 青山学院大学, 理工学部, 教授 (80013522)
渡邊 正義 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (60158657)
塚崎 敦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50400396)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2018-03-31
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キーワード | イオントロニクス / 電気二重層トランジスタ / 電子相制御 / イオン液体・ゲル / 超伝導 / 機能デバイス / 分子線エピタキシー |
研究概要 |
本研究は、電気化学的手法、とくに電気二重層(EDL)を用いて新しい固体物性と機能の創成を目指すもので、本年度は共同研究のための基礎固めに重きを置いた研究を実施した。岩佐は、従来から行ってきた電気二重層トランジスタを2次元層状物質や強相関酸化物に適用して、主に電子相制御の研究を推進した。秋光は、独自の観点から新規超伝導体の開発を行うとともに、電気化学的な手法によるキャリヤドープを開始した。また、渡邊はプロトン性イオン液体、およびリチウム溶媒和イオン液体の合成を行い、従来のイオン液体とはことなり、バルク中にプロトン、リチウムイオンを効率的に導入する準備を整えた。塚崎は、新たに薄膜作製装置と物性評価装置を導入し、研究室を立ち上げた。以下では、電子物性制御と機能デバイス研究での成果をまとめる。 マンガン酸化物の8ケタにわたる巨大電界効果をEDLTで実現した(Scientific Reports 3, 3023 (2913))。白金薄膜のEDLTによって、磁性を誘起することに成功した(Physical Review Letters 111, 216803 (2013))。遷移金属ダイカルコゲナイドにおいて、WSe2でha電界によるゼーマン分極を発見し、MoS2では電界によるpn接合の形成ならびにストレッチャブルな電界効果トランジスタ(FET)の作製に成功した(Nature Physics 9, 563 (2013)、Nano Letters 13, 3023 (2013)、Applied Physics Letters 103, 023505 (2013))。半導体量子ドットでは、ドット中に束縛された電子のエネルギー準位やg因子を、従来に比べて大きく変調することができた(Nature Commnications 4, 3664 (2013))。いずれにおいても、化学ドーピングや全固体FETでは到達困難なものであり、EDLTが様々な電子相や電子機能の制御に展開できることが実証された。 一方、SrTiO3における電界誘起超伝導の上部臨界磁場の角度依存性を測定することより、超伝導層の厚みが超伝導コヒーレンス長よりも極めて短い、純粋な2次元超伝導が実現していることを明らかにした(Physical Reveiw B89, 020508 (R)(2014))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、電気二重層トランジスタを中心とした物性物理研究と、イオン液体を中心とした材料・科学分野の融合分野として、イオン制御による電子機能学理『イオントロニクス』を創成し、それを格段に発展させることを目的としている。具体的には、(1)EDLTによる電界効果、およびより広範囲の電気化学プロセスによる電子相制御技術と概念の確立、および新物質相の創成、(2)電子伝導体、イオン伝導体の開発と界面構造および電気化学過程の解明、(3)電気化学過程を利用した電子デバイスの基礎研究、である。 以上の研究目的に基づき、平成25年度から2,3年にわたる課題として、以下の課題を開始した。(1)高温超伝導体をはじめとして、強相関電子系におけるモット転移、磁性半導体や金属における電子相の電界制御と、スピンー軌道相互作用の電界制御、(2)電子伝導体の開発、イオン伝導体の最適化、電子伝導体・イオン伝導体界面の構造電子状態の解明、(3)機能デバイスの開発と高機能化。 当初の計画通りに、EDLTが強相関電子系のモット絶縁体物質(マンガン酸化物)や金属(白金)といった様々な物質系に拡張できることが示されただけでなく、当初の計画にはなかった無機半導体量子ドットというゼロ次元系まで拡張できたことは、当初の予想を超えてEDLによる電界制御が幅広い拡張性をもつことを如実に示すものである。また、常磁性金属である白金を電界により強磁性にすることは、電界誘起超伝導とともに長年、研究者が抱いてきた課題であったが、これを初年度にして実現した。さらに、フレキシブルかつストレッチャブルなEDLTデバイスの実現にも成功している。これにより、今後の機能性デバイスへの展開に見通しをたてることができた。これらの成果は、2,3年の期間のうちに徐々に達成することを想定していたが、初年度に達成できたこともあり、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度から開始した研究方策を一層、精力的に推進するが、H26年度以降は物性物理研究、物質開発、機能性開発といった研究分野を独立に進めるのではなく、互いの連携を強化し、物理現象の開拓、デバイスの高機能化、新しい原理に基づいたデイバス応用の研究に展開、発展させる。具体的な方策は、以下の通りである。 (1)電子伝導体、イオン伝導体の開発と最適化 (2)界面構造、電子状態の解明によるデバイス機能の最適化 (3)モットトランジスタ、光デバイス、アクチュエータデバイスの開発 (1)ついては、従来の研究方針の継続であるが、本研究のさらなる発展と新分野の形成にとって核となる部分である。したがって、(1)の研究は継続するとともに、各研究グループで得られた成果を目的に応じて最適化する。例えば、物性物理研究グループとイオン伝導大開発グループの協力により、イオン伝導体の選択についての指針を明らかにし、超伝導, 磁性や高易動度を得るための界面設計指針を明らかにする。特にH25年度、渡邊グループが新規イオン液体としてプロトン性イオン液体などの特性向上に成功したので、これを用いた電気化学セルによる物性制御に展開してゆく計画である。 (2)では、より基礎的な部分として、キャリヤ蓄積層の厚みの決定、常伝導・超伝導状態におけるキャリヤの2次元性、放射光X線、表面増強ラマン分光, 光吸収, ESR、イオン液体の電子分光などといったプローブにより、界面における微視的な構造・電子状態を明らかにし、電気伝統特性との相関を明らかにすることで実デバイスの高精度化にフィードバックする。また、新たなプローブとして熱起電力測定技術の立ち上げも行っており、電気抵抗測定だけでは得られないフォノンに関するプローブも可能になることが期待される。 (3)では、EDLTによって従来のデバイスに付加価値をつけるだけではなく、EDLTによってはじめて実現するデバイスの開発を目指す。EDLTによってモット絶縁体における金属-絶縁体転移の電界制御が可能となった。これは、わずかな電圧で大幅に電気伝導度を制御できるものであり、従来の動作原理とは全く異なっている。この動作原理を解明するとともに、微細化、高速応答を実現することで、従来のシリコン素子を越えたデバイスへの展開を図る。 両極性半導体を用いたEDLTによって形成される発光トランジスタ、発光性EDLTを開発する。EDLTの特徴は非常に高い電流密度が稼げることであり、有機半導体レーザーや偏光制御光デバイスなどへと展開する。一方、H25年度の研究から有機半導体だけではなく、WSe2などの層状物質あるいはその単層デバイスも、電界効果でPN接合が形成できることが明らかになったため、この物質のバレー自由度を生かした新規発光機能の開拓を行う。 電子伝導体だけでなく、イオン伝導体の機能を利用したデバイスの開発も行う。そのひとつが、アクチュエータである。イオンゲルで見出されている、電場によるゲルの変形を利用して、アクチュエータデバイスを開発するとともに、その機能の高度化を図る。 H26年度の特徴は、塚崎の研究室が本格的に立ち上がり、酸化物薄膜の合成が活発化するとともに、竹延が正式に分担者として加わることである。彼らの参画によって、機能デバイス、特に新しい光機能の研究が活発化すると期待される。全体的に、若手研究者の本格的な参入と、共同研究の本格化によって、本研究をピークに持ってゆく計画である。
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