研究課題/領域番号 |
25000003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩佐 義宏 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (20184864)
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研究分担者 |
秋光 純 岡山大学, 異分野基礎研究所, 教授 (80013522)
渡邉 正義 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (60158657)
塚崎 敦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50400396)
竹延 大志 名古屋大学, 大学院工学研究科, 教授 (70343035)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2017
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キーワード | イオントロニクス / 電気二重層トランジスタ / 電子相制御 / イオン液体・ゲル / 超伝導 / 機能デバイス / 分子線エピタキシー |
研究実績の概要 |
岩佐は、電気二重層トランジスタを用いて、熱電係数のゲート制御に成功し、SrTiO3, WSe2, カーボンナノチューブにおいてパワーファクターの最適化が可能であることを示した。また、電界誘起超伝導が非常に理想的な2次元超伝導体を形成していることを示し、以下の2つの特筆すべき性質を発見した。磁場を面直に印加した場合、2次元特有のきわめて弱いピニングの影響により基底状態が量子金属となる。、磁場を面内に印加した場合は、スピンーバレーロッキングの影響で、上部臨界磁場が大きく増強される。 秋光は新しい高温超伝導体の開発を目的としてこれまでバレンススキップ超伝導体Agl-xSn1-xSe1.9S0.1(Tc~6.5K)を発見した。また、スピン軌道相互作用の強い5d遷移金属化合物の超伝導現象に着目しLi2IrSi2(Tc~3.8K)およびLaves相を有するSrIr2(Tc~5.8K)を発見した。 上記の超伝導探索に加え新奇かつ高温超伝導の発見を目的としてスピン-軌道相互作用の強いSr2IrO4に対するキャリアドーピングを試みている。従来、La置換が困難であったSr2-xLaxIrO4に対しメカニカルアロイ法を用いることにより磁気転移温度が240Kから70Kまで減少し、磁気転移温度の大幅な抑制に成功した。また、Sr2-xLaxIrO4(0<x<0.08)単結晶試料を用いたARPES測定では銅酸化物で超伝導の前駆現象として観測されるギャップ内状態がIr系でも同様に観測され、La置換量に伴いギャップ内状態が発達する傾向を見出した。 渡邉は、イオン液体を用いたイオントロニクス・イオニクス材料の創製を進めている。EDLT適用のための基礎データを収集するために、11種類のイオン液体の電位窓と電気二重層容量を測定した。そして有機半導体とイオン液体を用いてEDLTを試作し出力特性、伝達特性を評価した。また、均一網目構造を有する高分子をマトリックスとし、イオン液体と混合することで、力学強度とイオン伝導性が優れた「イオンゲル」の創製に成功し、高分子アクチュエータに適用した。このアクチュエータは両極の電気二重層に貯まる総イオン体積差に伴う電極の膨潤/収縮に基づき、素子が変形する。高い力学強度を有するため、作製したアクチュエータは長期的に安定な動作が確認された。 塚﨑グループでは、平成28年度にイオン液体を用いた電気化学的エッチング手法を活用した極薄膜物性研究を推進した。特に、二次元超伝導分野において世界的に活発に研究されているFeSeの極薄膜高温超伝導現象に対して、膜厚と超伝導転移温度の関係を明らかにすると同時に、下部酸化物基板依存性と電荷密度依存性を明らかにして、高い評価を得た。また、本手法をメゾスコピックサイズの素子に適用する手法の開発にも成功し、現在さらに研究を推し進めている。 竹延は、昨年度に引き続きCVD法に作製した大面積な遷移金属ダイカルコゲナイド単層膜に電解質を組み合わせた各種機能性素子作製を行った。具体的には、CVD法により合成した大面積な遷移金属ダイカルコゲナイド単層膜と電解質を組み合わせた高性能な発光素子の作製と熱電変換素子の高性能化に成功した。特に、発光素子作製技術は汎用性に優れ、ZnOやGaN、有機単結晶にも適用可能であることを明らかにした。加えて、電解質と発光性高分子材料を組み合わせた電気化学発光セルの高性能化にも取り組んだ。具体的には、定常電圧とパルス電圧の併用により、電流励起レーザー発振に不可欠な大電流密度とパルス駆動の両立に成功した。並行して、グレーティング構造を導入した電気化学発光セル作製にも成功しており、今後の電解質を用いた有機発光素子作製の基盤技術を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、電気二重層およびそのトランジスタを基本に、新たな物性概念と機能を開拓すことにあった。物性では特に超伝導体の開発と物性解明、機能性としてはトランジスタ機能の高度化が主眼であった。前者では岩佐グループが、電界誘起超伝導の強い2次元性を反映した物性を報告した。一方、機能性では竹延グループが、大面積の遷移金属カルコゲナイド薄膜をCVD法によってガラス基板、およびプラスチック基板上に作製することに成功し、CMOSインバータのデモを行った。これらは研究の目的に沿って順調に進展した成果である。 一方、2016年度は以下の2件に示す通り、イオントロニクスの熱電効果への応用において、予想を上回る進展があった。まず第1に、岩佐グループは、電気二重層トランジスタ(EDLT)を用いて、様々な半導体における熱電性能の最適化があげられる。酸化亜鉛ZnOにおいて2次元電子系を形成すると、そのパワーファクターが40mV/cmK2に達することを見出した(PNAS(2016))。この値は実用材料に比肩去れる世界最高レベルものであるとともに、バルクの酸化亜鉛では決して得られない値である。このことから、EDLTにより形成される2次元電子系が、熱電性能の最適化のための強力なツールであることが明らかになった。 第2は岩佐グループと塚崎グループの共同研究による、巨大熱電効果の発見である。昨年、塚崎グループは、イオン液体を用いて電気化学的にFeSeをエッチングすることに成功し、単層セレン化鉄(FeSe)の臨界温度を40Kまで上昇させることに成功した。本年度は、この試料に対しする熱電性能を測定し、そのパワーファクターが1500mV/cmK2に達することを発見した。これは、熱電パワーファクターの従来の記録を数10倍も上回るものであり、EDLTから形成される2次元電子系が、従来のバルク材料の常識を覆してしまう可能性を示したものである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたり、これまでの研究をさらに強力に推進してゆくとともに、イオントロニクスの学理としてのまとめを行いたい。 岩佐は、イオントロニクスを用いた半導体デバイス機能と2次元超伝導の高度化を中心に研究を推進してきた。現在、これらを取りまとめた英語の総合的な解説論文を投稿中であり、今年度の早い時期に出版を目指したい。岩佐は、2015年とには応用物理学会誌に、日本語の総合解説を出版しており(応用物理学会、解説論文賞を受賞)、これに続く英語の総合解説の出版により、本特別推進研究の成果とイオントロニクス学理を世に問いたいと考えている。一方、最近の研究で、イオントロニクスが、熱電機能の高度化に強力な武器になりうることが明らかになりつつあり、最終年度は、超伝導と熱電機能の研究を強力に進めてゆきたいと考えている。 秋光はトポロジカル超伝導が期待されるSnl-xInxTeに着目して物質開発を進める。本物質はx=0.4まで合成可能であるが、超高圧合成を用いることにより固溶領域が広がり、現在Tc~5.5Kの超伝導も発見している。そこで本物質群の開発を超高圧合成を中心に進めていく。また、Sr2-xLaxIrO4についてはこれまでのキャリアドーピングの知見をもとに電子相関が最も強く超伝導化と期待されるSr2-xCaxIrO4に対して電子ドーピングを行う試みを行う。さらにLaの固溶域を広げた単結晶育成もすすめARPES測定で観測されたギャップ内状態のLa濃度依存性やd波的なエネルギーギャップの温度依存性を合わせて測定し銅酸化物超伝導体との類似性も議論する。 渡邉は、光応答性イオン液体と有機半導体を用いて、新規光応答性EDLTの構築に取り組む。UV光照射/可視光照射によって分子の極性が変化する。この現象を利用することで照射光の波長によって電気二重層容量が制御されることが期待される。また、均一網目構造を有する高分子にイオン液体でなく固体塩を混合させることで、高強度固体電解質を創製する。これは高分子内でイオンが解離しているため、イオン伝導を示す。これを電解質とした高分子アクチュエータ開発を推進する。 塚﨑グループでは、独自開発した電気化学エッチング手法を他の層状物質系に適用して、極薄膜における巨大な物性発現と電界制御に対して研究を行う。岩佐グループとの有機的な共同研究により、FeSe極薄膜の巨大な熱電効果をすでに見出しており、さらなる物質開拓研究に向けて、層状薄膜の提供とともに共同研究を推進する。 竹延は、遷移金属ダイカルコゲナイド単層膜に関する研究をさらに推進し、これまでのトップダウン的な素子作製ではなく、素子集積化に有利なボトムアップ的な素子作製に挑戦する。また、昨年度大幅な向上に成功した発光素子の機能向上を目指す。具体的には、フレキシブル化やStark効果によるスペクトル変調・円偏向発光・レーザー発振などに挑戦する。加えて、本技術を適用可能な材料群の・拡大しつつ、有機材料を用いたイオントロニクスをさらに発展させる。特に、有機材料への高密キャリアドーピングや伝導特性・熱電変換特性の解明や電流励起レーザー発振などに挑戦する。
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