研究課題
岩佐は、イオントロニクス学理の構築に向け、電界誘起超伝導、2次元物質のバレートロニクス、熱電機能の最適化を中心に本研究を進めてきた。2017年度には、電界による反転対称性の破れに起因する非相反超伝導輸送現象、バレー自由度を用いた励起子ホール効果、2次元物質や量子ドット物質における巨大な熱電効果を発見した。秋光はメカニカルアロイ法によるSr2-xLaxIrO4の合成を行うことにより従来のLa固溶領域を拡大し、これまで単結晶試料で報告されている諸物性を多結晶試料においても実現することを見出した。また、μSR法を用いることによりLa置換量の増加に伴い常磁性相に短距離反強磁性クラスターが存在するGriffiths相が存在することを発見し、本系の磁気相図の全体像を明らかにした。渡邉は、イオン液体を用いたイオントロニクス・イオニクス材料の創製を進めてきた。2017年度は、イオン液体の電気二重層容量が駆動電圧と相関があることや、カチオン・アニオンのサイズ差が伝達特性に影響を与えることを明らかにした。また、イオン液体構造を高分子内に有する「ポリイオン液体」から成る固体高分子電解質を作製した。高分子膜の機械強度を向上させるため、高強度高分子マトリックス内にポリイオン液体を混合した高分子電解質を作製し、これを高分子アクチュエータに適用した。塚﨑は、FeSeにおける界面高温超伝導現象の探求を推し進め、東大岩佐研との有機的な共同研究によって、イオン液体種の最適化による超伝導Tcを約50Kに更新した。さらに、超伝導臨界電流密度の膜厚依存性を明らかにし、薄くなるほど高い超伝導電流を流すという増強効果を見出した。加えて、デバイスプロセスと酸化物薄膜研究を進め、電気二重層トランジスタの新たなチャネル物質として有望な、高伝導度の層状酸化物の薄膜化に成功した。竹延は、電解質を用いた発光素子作製技術を異種遷移金属ダイカルコゲナイド単層膜を面内で接合させた新奇なヘテロ接合材料に適応し、本材料系としては初めてのタイプI型発光素子の実現に成功した。また、電解質と発光性高分子材料を組み合わせた電気化学発光セルの高性能化にも取り組んだ。具体的には、新たなイオン液体と高分子材料やホスト・ゲストシステムの導入によりRGB発光を実現し、白色照明素子実現への基盤技術を確立した。
1: 当初の計画以上に進展している
2017年度は、以下の点で、当初の予想を上回る成果が上がった。まず、岩佐と塚崎の共同研究において、Tc~40Kの超伝導を示すFeSe単層薄膜が、室温で280μW/K/cm2の巨大な熱電電力因子を示すことが見いだされた。従来の値は多くの場合40~80、最高でも200であり、この値は室温での熱電性能指数の世界最高値である。また、熱電効果の研究を、量子ドットの2次元超格子に拡張した結果、この物質系においても、室温で800μW/K/cm2を超えるけた違いに大きい電力因子を見出した。これらの、巨大な熱電効果の発見は、イオントロニクスの技術が、最適な膜厚とキャリヤ数を最適化し物質固有の究極の物性を抽出するのに非常に強力な武器となることを示したものであり、今後の材料展開に大きな発展が期待される。竹延は、岩佐が機械的剥離法によるミクロンサイズの2次元物質で展開してきたバレートロニクスの基礎研究をさらに発展させ、CVD法により作成した大面積遷移金属ダイカルコゲナイド単層膜を用いて、高性能薄膜トランジスタやCMOS素子、ホモ接合・ヘテロ接合発光素子や室温円偏光発光素子などの発光機能の実現に成功した。本研究における有機的な連携が、基礎だけではなく実デバイスへの道を開いた重要な成果である。一方、渡邉は、これまで岩佐とともに種々のイオン液体をEDLTに適用することで、イオン液体の物性がELDT特性に与える因子を解明した。一方で、ポリイオン液体の機械強度を向上させるために、均一網目構造を有する高分子と複合化した固体高分子電解質を作製し、この電解質はポリイオン液体単独と比べ飛躍的に高いイオン伝導率を示すことを見出した。このような高い機械強度・イオン伝導性を兼ね備えた電解質は、変形を伴う高分子アクチュエータ用電解質として最適の材料である。
本特別推進は、H29年度修了を予定して進めてきたが、最終年度前項で記したとおり、イオントロニクスを用いた熱電材料の探索において、非常に驚くべき進展があった。一方で、11月に、TMDC超伝導体薄膜の超伝導物性の膜厚依存性を評価した結果、当初の予想に反し、厚さ1nm以下の超薄膜でも超伝導転移を示すことが明らかとなった。巨大熱電効果と、極薄膜超伝導の研究を完成させることは、本研究の成果を最終的に確定するうえで必要不可欠であることから、追加実験が必要であると考え、H30年度まで本研究を延長することを決定した。FeSe単層薄膜とPbS量子ドット2次元格子における巨大な熱電効果については、条件を可能な範囲で最適化するとともに、無次元性能指数を計算するための追加実験を行う。一方、2次元超伝導においては、薄膜を作製するプロセスを改善・最適化した上で、電気二重層トランジスタ(EDLT)を利用して超伝導物性を詳細に評価する実験を追加で実施する計画である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (38件) (うち国際共著 12件、 査読あり 38件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (167件) (うち国際学会 96件、 招待講演 64件) 図書 (1件)
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