研究課題/領域番号 |
25000004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久野 良孝 大阪大学, 理学研究科, 教授 (30170020)
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研究分担者 |
東城 順治 九州大学, 理学研究科, 准教授 (70360592)
佐藤 朗 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40362610)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2018-03-31
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キーワード | μ-e転換過程 / 荷電レプトンフレーバー / ミューオン / 円筒ドリフトチェンバー / COMET実験 |
研究概要 |
本研究では、μ-e転換過程探索の主たる検出器である円筒ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber =CDC)と検出器ソレノイドを製作し、COMET Phase-I実験を遂行することが目的である。平成25年度の研究実績としては、μ-e転換過程シグナルの実験感度向上と背景事象の除去という二つの観点から、CDCの設計理念の確認とその試作器による性能評価を行った。申請時、CDCは、設計・製作のリスクを軽減するために、すでに製作がスタートしていたBELLE-II実験のCDCと同じような仕様にする予定であった。平成25年度初めから、CDCによるμ-e転換過程シグナルの実験感度をより精密なシミュレーション計算をし始め、5月ごろにCDCのセル構造をBELLE-IIではなくて、イタリアのKLOE実験のようにCDCのワイヤー層をすべてステレオ層にすることに決定した。ちなみにBELLE-IIのCDCはアクシヤル層とステレオ層の混合である。これは、シグナル事象がCDC内に閉じ込められて回転するような軌道を描くために、すべてステレオ層にしてなるべくCDC軸方向の座標情報を多くするためである。また、CDCの運動量分解能は、ガスでの多重散乱によって決定されていることがわかり、様々な混合ガスについてシミュレーション計算を行った。当初のアルゴンとエタンの混合ガスではなく、ヘリウムとイソブタンの混合ガス(またはヘリウムとエタンの混合ガス)を使うと運動量分解能が良くなることが判明した。また、ソフトウェアのtracking codeとして、多重散乱を考慮するカルマンフィルターと呼ばれるアルゴリズムを使用することにより、運動量分解能が当初の500 kevから倍以上に改善した。これらの設計変更をテストするために、すべてステレオ層構造のCDC試作器を製作して、その性能を確認することにした。その結果、フィールドワイヤーでの電場の強さと経時効果、セル境界での電場の歪みやドリフト時間の最小化などの問題点を更に検討する必要があることが判明した。CDC読み出し装置については、BELLE-IIのCDCで使用する読み出し装置を使う予定であった。しかし、シグナルの増幅・波形整形・弁別のASICチップの形状仕様が変更になったために新たなプリントボード設計が必要になった。さらに、BELLE-II CDC読み出し装置の最終設計版の完成が遅れたために、本研究の読み出し装置の製作も遅れた。しかし、これは平成26年2月には決定されたので、平成26年度から製作に取りかかれる。また、検出器ソレノイドの設計も始めており、必要となる磁場の一様性などを検討した。この設計に基づいた超伝導線の仕様を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
COMET Phase-I実験のCDCの設計理念を再検討し新しい設計を確立した。そのために、期待される性能についてより精密かつ精力的なシミュレーション計算が行われた。それらの計算結果として、以下の点について新たな設計変更が確定された。すなわち、(1) CDCの層構造は(以前のアクシヤル層とステレオ層の混合から)すべてステレオ層とした。(2) CDCのセル構造として約16㎜幅の大きさとした。(3) CDCの構造体として、エンドプレートの厚さを10㎜に、外筒は5㎜のCFRP(=Carbon fiber re-enforced Pastic)、内筒は0.5㎜のCFRPを採用することにした。異なるエンドプレート形状について、CDCのワイヤーによる張力による機械的強度と歪みについてCAD計算を行い、最適化を図った。(4) エンドプレートに取り付けるフィールドスルーを決定した。(5)ミューオン原子核捕獲から発生する陽子を止めるためにCDCの内側に置く陽子吸収材の設計をし、CFRPの1㎜厚の筒構造とした。(6)検出器ソレノイドの設計も進め、具体的な磁場計算を行い、その磁場マップを使って運動量分解能や、μ-e転換過程シグナルのアクセプタンスを調べた。運動量分布については、当初の500 keV/c以上の運動量分解能が、約2倍以上良くなった。また、プロトタイプ試作器を製作し、期待される性能について評価した。また、これらの新しい設計仕様をCOMET Phase-I Technical Design Report (TDR)にまとめた。髙エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所(KEK/IPNS)は、COMET実験グループに対して、Technical Review Pannelを立ちあげ、平成26年1月に技術評価を行った。2月に評価書がまとめられ、CDC設計については、μ-e転換過程探索として十分な性能があることが評価された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、以下のようである。まず、CDCの構造体のエンドプレートについては設計が現在すでに完成しており、その階段型構造、ワイヤー穴位置、外筒と内筒との接続フランジ構造などの詳細が決定されている。これを踏まえ、エンドプレートの製作を平成26年度春から始め、平成26年9月までに機械加工を終了する。外筒のCFRPについては、平成26年度春からその製作を始め、9月までに完成させる。内筒をエンドプレートと結合させるフランジを9月までに製作し、CFRPを接着し加工する。10月にエンドプレートと外筒をフランジを介して繋げて、構造体を完成させる。CDCのワイヤー張りについては、平成26年10月までには、KEK/IPNSの富士実験室クリーンルームで作業していたBELLE-II CDCが完成し、筑波実験室に移設される予定になっている。COMET実験グループは、その直後11月からクリーンルームにCDC構造体を運びこみワイヤー張り作業を行う。ワイヤー総数は19548本でありその作業は約6ケ月かかる。したがって、平成27年の半ばに終了し、それからCDCの内筒を取り付けて完成となる。その後、CDCをJ-PARCに輸送し、平成27年夏以降は宇宙線を使って、CDCの試験を行う。このように、CDCの構造体の設計は当初より遅れたが、ワイヤー張り作業が平成26年11月以前には始められないので、スケジュール的に問題は発生していない。 CDCのトリガーカウンターについて、九州大学COMETグループが準備している。チェレンコフカウンターとシンチレーターの対となる構造をしていてシリコン光電子増倍管読み出しを検討している。試作器の製作・試験が平成26年度に行われる。中性子による性能劣化についても試験することになっている。CDCの読み出し装置については、中国髙能研究所(Institute of High Energy=IHEP)のCOMETグループが協力してくれることになった。読み出し装置のプリントボードや必要な部品を購入し、IHEPで組み立てと個々の試験をすることになった。読み出し装置の組み立てと個別試験を平成17年3月ごろまでに終了する予定である。遅くても、平成27年夏からのCDCの宇宙線試験までに読み出し装置が全数台完成してテストされている必要がある。 英国グループが準備しているデータ読み出し(DAQ)シムテムと連結するために、FCCと呼ばれるボードが必要であり、平成26年からこのFCCボードの設計を始める。CDCの解析ツールであるtracking codeについては、大阪大学グループと九州大学グループとIHEPグループで共同で開発する。track fitting codeはほぼ完成しているので、track finding codeの作成が平成26年度の主たる作業となる。全体の実験シミュレーションをおこなうために、COMET実験グループの汎用解析プログラムICEDUSTにCDCや測定器ソレノイドの構造情報を入れる。また解析プログラムもICEDUSTに入れる作業を行う 検出器ソレノイド磁石と、コリメータを設置するコリメータソレノイド磁石の設計も行われている。シミュレーション計算を行っており、それらの仕様概要が平成26年春に決定する。それから測定器ソレノイド製作の入札を平成26年夏ごろに行う。この製作には時間がかかるので、二年間契約で進める。測定器ソレノイド磁石に使用する超伝導線についても平成26年度春から入札をして、年度内に納入できるようにする。 九州大学グループでは平成26年1月から1名の博士研究員、大阪大学グループでは平成25年11月から1名、平成26年4月からさらに1名の特任助教を採用した。これらのCDCの設計と建設に係わっている。
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