研究課題/領域番号 |
25000004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久野 良孝 大阪大学, 理学研究科, 教授 (30170020)
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研究分担者 |
東城 順治 九州大学, 理学研究科, 准教授 (70360592)
佐藤 朗 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40362610)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2017
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キーワード | μ-e転換過程 / 荷電レプトンフレーバー / ミューオン / 円筒ドリフトチェンパー / COMET実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、荷電レプトンフレーバー非保存現象であるμ-e転換過程を探索するCOMET Phase-I実験をJ-PARCにて遂行する準備をすることである。特に、COMET Phase-I実験の主たる検出器である円筒型ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber=CDC)と検出器ソレノイド磁石を製作する。 以下に平成27年度の研究実績の概要を述べる。平成27年度当初は、平成26年度に製作した強化プラスチック(CFRP)の5mm厚のCDC外筒と2枚のアルミニウムの端板(エンドプレート)を組み上げて構造体を作成した。端板には19548個のワイヤ穴を加工されている。この組み上げが終わった後、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の富士実験室のクリーンルームにおいて、CDCのワイヤー張りを5月に開始した。アノードワイヤーは25μm径で全部で4986本、フィールドワイヤーは126μm径で14562本である。1日に約200本の割合でワイヤー張り作業が進められた。1日分で張られたワイヤーについては、その張力の確認作業をその日のうちに行った。ワイヤー張り作業は非常に時間がかかるが、予定どおり12月ごろには完了した。完成後、再度ワイヤー張力測定を行い、時間が経った後も張力にほぼ変化がないことを確認した。しかし一部のワイヤーには変化があったため、ワイヤーの張り直しをした。強化プラスチックでできた500μm厚の内筒の製作も完了した。ここに、表面の電荷蓄積量を削減するためにアルミニウムの薄膜を張るのであるが、張った後、アルミ薄上にしわができてしまった。しわによる凹凸は放電の原因にもなるので引き続き改善作業を平成28年度に続けることになった。 実機の製作と平行して、CDCに使用する混合ガスおよび引加電圧の最適化を行った。この最適化をするために昨年製作したCDC試作機を使用した。実験はSPring-8加速器からの電子ビームを使って行った。3種類の混合ガス(ヘリウムとイソブタン、ヘリウムとエタン、ヘリウムとメタン)を試し、さまざまな値の引加電圧について性能を調べた。これよりヘリウムとイソブタンで1900Vの電圧が最適であると決定した。読み出し電子回路装置についても必要な120台分の製作が完了した。その読み出し装置のFPGAプログラミングについても基本的な部分については完成している。それに付随しているADCとTDCの性能も120台分すべてについて個々に検査した。 検出器ソレノイドについては、平成26年度に購入した超伝導線を使い、14個の超伝導コイルを製作した。平成27年度末までにこの製作は完了し、製作したコイルを連結して組み上げて一体とした。これを平成28年3月に高エネルギー加速器研究機構に納品した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 円筒型ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber)の製作 : (1) 外筒と端板から構成されるCDC構造体が完成し、半年以上かけて19548本のワイヤー張りも完了した。前述のようにアルミニウム薄膜接着作業が残っているが、内筒の製作も完了している。これでほぼ大柄の構造体の製作は終了した。 (2) 使用する混合ガスと引加する電圧について、試作機を使ってデータを取った。ヘリウムとイソブタンの混合ガスで1900Vを引加するという案を固めることができた。 (3) 120台のCDCの読み出し装置の製作が完了した。読み出し装置のプログラミングを進んでいる。 (4) 読み出し装置の放射線耐性について、他大学の加速器装置を使って中性子照射試験をした。これはJ-PARC実験室での中性子量に対して誤動作を起こさないことを確認することができた。 (5) CDCトリガーカウンターの設計を詳細に行った。J-PARC実験環境での計数率を評価し対策を検討した。4重コインシデンスを取るシステムを設計した。この新しいシステムについて、トリガー頻度を評価しデータ量についても問題ないことを確認した。 (6) CDCの飛跡検出プログラムのソフトウエア開発も行った。 2. 検出器ソレノイド磁石コイルの製作 : 14個の検出器ソレノイドコイルを製作した。これらを組み上げて、高エネルギー加速器研究機構に納品することができた。 3. 技術評価 : KEKで第2回COMET Phase-I技術評価委員会で概ね良いという答申を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は以下のようである。 (1) CDC実機性能試験 : 内筒を取り付けてCDCが完成となった後、平成28年夏ごろから宇宙線を使ってCDC実機の試験をおこなう。高エネルギー加速器研究機構(KEK)の富士実験室を使う。この宇宙線実験では、ワイヤー位置の構成、電子ドリフトの速度測定、ワイヤーのヒット効率、位置分解能などを測定する。製作完了した読み出し装置を設置し、トリガーシステムとDAQシステムと連結し、実際のデータ取得システムでデータが取れることを確認する。中国グループもこの宇宙線試験に参加する。そのために必要な装置(たとえばケーブル、カウンターなど)を手配する。 (2) CDCトリガーカウンター : CDCのトリガーカウンター実機の製作については、九州大学グループが中心となって準備をしている。このシステムは1対のチェレンコフカウンターとシンチレーターから構成される。各々のカウンターは傾斜角度を持ち4重コインシデンスが取れる構造になっている。平成28年度も中性子による性能劣化について試験する。トリガーカウンターの計数率はJ-PARCの実験環境で非常に高いため厚い鉛のシールドを設置する。これを含めたサポートシステムの設計製作を行う。 (3) トリガーシステムとDAQシステム : 韓国グループがトリガーシステムを準備している。これはFC7というボードと英国グループが開発したFCTというボードを使う。さらに英国グループはデータ読み出し(DAQ)シムテムと準備している。これらの装置を連結しCDCの宇宙線実験で行う。 CDCのトリガーシステムの計数率はまだ高いので、Online event selectionの必要性が認識されている。英国グループを中心に、CDCのヒット情報を使って事象選択するアルゴリズムの開発はすでに終わっている。これを実際にFPGAのプログラムを書き直して試験する必要がある。このため、平成28年度英国グループの大学院生が日本に長期に滞在してFPGA開発を行う。KEKグループが行っているFPGAを搭載する読み出しボードについても試作機から実機製作に移行する。 (4) トラッキングソフトウエア開発 : CDCの解析ツールであるtracking codeについては、大阪大学グループ、英国グループとIHEPグループで共同で開発しているが、genfit2をベースにしたtrack fitting codeとHough transformationをベースにしたtrack finding codeはほぼ完成している。さらにトラッキング効率と運動量分解能を向上するように最適化を続ける。全体の実験シミュレーションをおこなうために、COMET実験グループの汎用解析プログラムICEDUSTにCDCや測定器ソレノイドの構造情報を入れた。次は解析プログラムもICEDUSTに入れる作業を行う。 (5) 検出器ソレノイド : 検出器ソレノイド磁石については、14個のコイル製作が完了した。これから、クライオスタットの設計製作について検討を行う。CDCやCDCトリガーシステムを検出器ソレノイド内にインストールする構造を設計する。 (6) KEKの技術評価委員会 : 平成28年度に再度技術評価委員会が開催される。この準備をする。 九州大学グループでは1名の博士研究員、大阪大学グループでは平成26年4月から3名の特任助教を採用している。これらの特任助教や研究員はフル稼働して研究を進めている。
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