研究課題
本研究の目的は、荷電レプトンフレーバー非保存現象であるμ-e転換過程を探索するために、COMET Phase-I実験をJ-PARCにて遂行することである。特に、COMET Phase-I実験の主たる検出器である円筒型ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber=CDC)と検出器ソレノイド磁石を製作する。以下に平成28年度の研究実績の概要を述べる。平成28年度当初は、平成27年度末に製作した強化プラスチック(CFRP)の500μm厚のCDC内筒を、外筒と端板(エンドプレート)からCDC構造体に組み入れた。これでCDC構造体が完成した。リーク試験をしてリーク箇所をシリコンゴムで補修した。フィールドワイヤーに高電圧をかけ、CDCの放電などがないことを確認した。読み出し装置を設置し、平成28年8月から宇宙線試験を開始した。宇宙線ミューオンの飛跡を解析し、CDCの位置分解能を測定した。また位置分解能のドリフト距離の依存性を調べた。これらの結果は予想通りの値を示した。これより製作したCDCの基本性能は要求条件を満足するものであることが分かった。また、試験中信号増幅率(ゲイン)が低くなることが時々あった。これはCDC内の混合ガス(He : イソブタン=85 : 15)の混合比が変わったためであることが判明した。これを防ぐために、ガス混合比を正確に制御するガスフローシステムを構築した。さらに、内筒の厚さは500μmと大変に薄いので、CDCの内圧と大気圧の差圧を正確に制御する必要があることがわかり、ガス圧制御システムを導入した。シミュレーション計算からCDCには大量のバックグラウンド事象ヒットがあり、トリガー率が高いことが分かった。これを減少させるために、新たにレベル1トリガーシステムを導入した。これはヒットのパターンを見て良い事象と悪い事象を区別するものである。また、tracking programの開発も行った。多重散乱の補正しシングルまたはマルチターンのトラックを個別に解析する解析プログラムを開発した。さらに、COMET実験の大量シミュレーションデータをフランスの大型計算機システムを使って生成した。これをベースにCDCの背景事象などを評価した。平成28年度、KEK/J-PARCは、4月と6月に2回、COMET技術審査委員会を開催した。我々は350ページのCOMET実験技術審査書(technical design report)を提出した。これが審査され、7月のJ-PARC PAC(=program advisory committee)において、COMET実験は第2段階実験採択を獲得した。これは実験開始前の最終的な承認であり、いつでも実験が開始できる状態となった。
2: おおむね順調に進展している
1. 円筒型ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber)の製作 :(1) 内筒を端板と外筒から構成されるCDC構造体に無事に組み上げることができた。CDCの構造体の製作が完成した。ほぼスケジュール通りである。(2) CDC構造体のガスリーク試験と高電圧試験をおこない、特に問題がないことを確認した。(3) 読み出し装置の放射線耐性について、他大学の加速器装置を使ってガンマ線照射試験をした。誤動作を起こさないことを確認することができた。(4) シミュレーション計算からトリガー計数率が多いことが判明したため、CDCD装置レベル1トリガーを導入した。(5) CDCの飛跡検出プログラムのソフトウエア開発も行った。2. CDCの宇宙線試験 : KEKの富士実験室で平成28年度8月より宇宙線試験を開始した。宇宙線試験ので一た解析から位置分解能やヒット効率など実験要求を満たすことが判明した。3. 技術評価 : KEK/J-PARCで2回のCOMET Phase-I技術評価委員会および安全評価委員会が開催された。それに伴い技術評価書(Technical Design Report)を提出した。KEK素粒子原子核研究所から第2段階実験採択を獲得した。これは実験開始前の最終的な承認であり、いつでも実験が開始できる状態となった。これは大きな進展である。
今後の推進方策は以下のようである。(1) CDC実機性能試験 : 引き続き宇宙線試験を行う。この宇宙線実験では、ワイヤー位置の較正、電子ドリフト速度のガス依存性と高電圧依存性の測定、ワイヤーのヒット効率、位置分解能のz軸依存性などを測定する。混合ガスや高電圧の条件を変える。宇宙線は計数率が低いので、宇宙線試験は時間がかかる。最終段階に近い状態のデータ取得システムで、CDC読み出し装置とトリガーシステムとDAQシステムをすべて連結し、実際にデータが取れることを確認する。そのために必要な装置を手配する。(2) CDCトリガーカウンター : CDCのトリガーカウンター実機の製作については、九州大学グループが中心となって準備をしている。このシステムは1対のチェレンコフカウンターとシンチレーターから構成される。各々のカウンターは傾斜角度を持ち4重コインシデンスが取れる構造になっている。平成29年度も中性子とガンマ線による性能劣化について試験する。サポートシステムの設計製作を行う。(3) トリガーシステムとDAQシステム : 平成28年度は、CDCのトリガーシステムの計数率が高いので、Online event selectionとしてレベル1トリガーシステムを導入した。ハードウエアは導入されたので、ファームウエアの最適化が必要である。これまで、英国グループを中心に、CDCのヒット情報を使って事象選択するアルゴリズムの開発が行われている。これを実際にFPGAのプログラムを書き直して試験する。KEKグループが行っているFPGAを搭載する読み出しボードについてもファームウエアのプログラム開発を行う。これらの性能評価を行う。また、韓国グループが担当しているCOMET全体のトリガーシステムに統合できるようにシステムを開発する。ここでは、FC7というボードと英国グループが開発したFCTというボードを使う。さらに英国グループはデータ読み出し(DAQ)シムテムと準備している。平成29年度の夏を目指して、全体のトリガーシステムとDAQシステムを構築する。(4) トラッキングソフトウエア開発 : CDCの解析ツールについては、正確さを期するために、独立に開発することが重要であると考える。そのため、大阪大学グループ、英国グループとIHEPグループで独自に開発する。多重散乱を補正することができるgenfit2を基本としている。解析ツールは、オンライントリガー(レベル1)と、トラックfindingとトラックfitting codeの組み合わせとなり、総合的に評価する。これらの性能評価を引き続き行う。性能が確認できたら、COMET実験グループの汎用解析プログラムICEDUSTにCDCや測定器ソレノイドの構造情報を入れて作業を行う。(5) 検出器ソレノイド : 検出器ソレノイド磁石については、現在検討しているブリッジソレノイド磁石と結合部についてクライオスタット構造の詳細を更に詰める。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 8件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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http://mlfv.hep.sci.osaka-u.ac.jp