研究実績の概要 |
本研究の目的は、荷電レプトンフレーバー非保存現であるμ-e転過程を探索するために、COMETPhase-I実験を準備し東海村のJ-PARC陽子加速器施設にて遂行することである。COMET Phase-I実験では、現在の探索上限値を約100倍に向上することを目標としている。本研究では特に、COMET Phase-I実験の主たる検出器である円筒型ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber, 以下CDC)と検出器ソレノイド磁石を製作することである。 以下に、平成29年度の研究実績の概要を述べる。平成29年度には、前年度に完成したCDCの性能を宇宙線ミューオンを使って評価した。これは高エネルギー加速器研究機構(KEK)の富士実験室にて行った。途中CDCのワイヤー3本が断線するなどの問題も起きたが、再度ワイヤーを張り替えることによって解決した。2万本内の3本なので断線率は非常に低いことも分かった。また、HV側のケーブル取り付けは終了し、信号読み出し側の電子回路もほぼインストールを完了した。HVのコミッションニングも順調に終了した。スローモニターシステムも構築した。 CDCの性能を評価するため、より広いCDCの領域で宇宙線ミューオンの飛跡を解析した。CDCの位置分解能は、要求性能を満たす約200ミクロン以下を十分に達成した。また、位置分解能のドリフト距離依存性も調べた。高統計のデータを使い、位置分解能に寄与する成分をそれぞれ同定でき、初期イオン数からの寄与や拡散からの寄与などを個別に評価した。また、ワイヤー位置精度と整列度を宇宙ミューオンの直線の飛跡を用いて校正した。 また、μ-e転換過程のシグナル電子の飛跡再構成(tracking)のプログラムをより進展させた。特に、シグナル電子はCDCの中に内包されて多数のスパイラルの軌道を残すマルチターン事象がある。この事象については、1周目の飛跡と2周目以降の飛跡がオーバラップする。これを区別するためのアルゴリズムを日本と韓国と中国のグループで独立に作成して性能を競っている。また、トリガーシステムには、FPGAを使ったレベル1決定システムを導入した。CDCのヒット情報を機械学習、特にBoosted Decision Treeなどを使って最適化した。信号ヒットの取得率を98%で、バックグランドヒットを95%削除する性能を得た。FPGAでのコーディングも並行して進めた。 COMET実験は、平成28年度にKEK/J-PARCから最終段階である第2段階実験採択を獲得した。これを元に、平成29年度には、8GeVの陽子ビーム運転、特に加速の最適化や引き出しの最適化、そしてパルス運転などを開始した。これらの結果は十分に要求性能を満たしていた。このように、ミューオンビームを使ったCOMET Phase-I実験をすぐに始められる状況にあるといえる。
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