研究課題/領域番号 |
25000005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
相田 卓三 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (00167769)
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研究分担者 |
伊藤 喜光 東京大学, 大学院工学系研究科, 助教 (00531071)
大黒 耕 東京大学, 大学院工学系研究科, 助教 (60614360)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2017
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キーワード | 超分子化学 / 複合材料・物性 / 物理的摂動 / 異方性 / 巨視的スケール |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、生体内の組織化に学び、「物理的摂動の存在下での組織構造の形成」に焦点をあて、分子スケールからナノ・メゾスケールを超え、巨視スケールにいたる高度に制御された階層的異方構造からなるソフトマテリアルを設計するとともに、その異方性に由来する格別な物性・機能の開拓を目指す。具体的には、(1)『高速電場応答強誘電性カラムナー液晶』の開拓とメモリー素子としての初の実験的検証、(2)『イオン性無機ナノシート間の二次元静電反発』によるアクアマテリアルの異方的力学特性、(3)グラフェン高濃度分散系を用いる『構造異方的ソフトナノカーボン』の創製と物性開拓、の3つを遂行する。 1. 『高速電場応答強誘電性カラムナー液晶』の開拓 : これまで当研究室で開発してきた強誘電性カラムナー液晶に新たに開発した添加物を10-30%割合で混合することで電場応答速度を向上することに成功してきた。今年度はさらに母体となる液晶自身の分子デザインを工夫することで、電場配向特性・応答特性の向上を実現した。また同時に、スピンコートにより作成した強誘電性液晶薄膜にSPMプローブで電圧を印加することで、分極を書き込めることを実験により確認した。 2. 『イオン性無機ナノシート間の二次元静電反発』による異方的アクアマテリアル : 水中に分散されたイオン性コロイド粒子一般の性質として、系内のイオン濃度を下げる程、コロイド粒子間の静電反発力が指数関数的に増大することが分かっている。そこで、酸化チタンナノシートの水分散液について、徹底的な脱塩処理を施したところ、ナノシート間の距離が可視光や近赤外光を回折可能なレベル(最大で675ナノメートル)まで拡張し、ほとんどが水(>99.5%)よりなる、フォトニック材料として機能することが分かった。フォトニック材料としての前例なきユニークな性質(ナノシートの磁場配向能・系の流動性・酸化チタン特有の高屈折率)を利用し、様々な応用を検討した。 3. グラフェン高濃度分散系を用いる『構造異方的ソフトナノカーボン』 : これまで当研究室ではイミダゾリウム塩のオリゴマーを用いた高濃度グラフェン分散系を開発してきた。この系はこれまで報告されてきた方法と比べて最も効率よくグラファイトを単層グラフェンに分散させる事ができる。そのメカニズムに関して精査したところ、イミダゾリウム塩の対アニオンから発生するHFが高効率分散の鍵となっていることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題を進めている最中、二次元電解質の研究の一環として、基板上にイオン性自己組織化単分子膜を作成し、そこへの分子吸着を検討していた。その結果、イオン性のゲスト分子が結合する際のエネルギーが、吸着点近傍に存在する疎水性部位の構造によって大きく異なることを見いだした。吸着点と疎水性部位がナノメートルスケールで接近すると結合のエネルギーが強くなるのである。このことは約60年前に理論的に予言され、生体分子認識の基礎的な理解としてとらえられてきたが、実験的にこのことを理解示した例はこの研究以外には皆無であった。本知見は、今後強靱なハイドロゲルの設計に生かしていけると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は平成27年度に得られた成果を元に研究を遂行していくが、セレンディピティーを大切に新しい学理を追求していく。 1, 『高速電場応答強誘電性カラムナー液晶』の開拓 : SPM測定による薄膜状態での分極状態の可視化に成功した。今後は測定法をさらに改良し、自発分極を保持できる最小単位を調査していく(すなわち自発分極の最小単位はドメインごとか? ある有限のカラムの集まりか? もしくはカラム1本1本なのか? ) 2, 『イオン性無機ナノシート間の二次元静電反発』による異方的アクアマテリアル : 今年度明らかとなったように、系の脱塩によりナノシート間の静電反発力は劇的に増大する。言い換えると、脱塩処理をしていない水分散液のみを用いていた昨年度までの研究では、ナノシート間の静電反発力のごく一部しか使えていなかったことになる。そこで今後、脱塩処理によりナノシート間の静電反発力を高めた水分散液を用いた異方的アクアマテリアルを合成し、免震機能やアクチュエータ機能を検討する。 3, グラフェン高濃度分散系を用いる『構造異方的ソフトナノカーボン』 : 昨年度に引き続き、得られたグラフェン-MoS混合剥離系を用いたLiイオン電池の作製を進めていく。また、グラフェンの剥離に用いたイミダゾリウム塩オリゴマーをもちいて、キャパシタやFET材料に展開を進めていく。
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