研究課題/領域番号 |
25000006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片岡 一則 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (00130245)
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研究分担者 |
横田 隆徳 東京医科歯科大学, 医歯学総合研究科, 教授 (90231688)
位高 啓史 東京大学, 大学院医学系研究科, 特任准教授 (60292926)
津本 浩平 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授 (90271866)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2018-03-31
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キーワード | 高分子ミセル / 薬物送達システム / 遺伝子治療 / 脳―血液関門 / アルツハイマー病 / siRNA / メッセンジャーRNA / グルコーストランスポ-ター |
研究概要 |
脳は高度に発達した生体バリアに守られているため薬剤の送達が極めて困難な部位である。本研究の目的は、この様な強固な生体バリアを克服して脳神経系に核酸医薬を送達する高分子ミセルを構築し、アルツハイマー病などの脳神経系難治疾患の分子治療における有効性を実証することである。生体内安定性と生体適合性を有し、粒子径を極小化させた高分子ミセルを構築するため、本年度は、核酸毎に最適なパッケージング法の開発を行い、順次、血中滞留性を検証した。その結果、siRNAあるいはpDNAを内包し、血液-脳関門の通過が期待出来る粒径50nm以下でかつ血中滞留性に優れるミセルを構築することに成功した。さらに、脳血管内皮細胞に発現するグルコーストランスポーターに対して高い結合能を有するグルコース結合高分子ミセルの作成を行い、これまで報告されているBBB通過型キャリアより一桁以上高い脳内集積を達成するとともに、脳内の神経細胞にまで到達していることを確認した。一方、mRNA内包ミセルの分子設計が順調に進展したことにより、次年度から開始予定であったアルツハイマー病の治療効果確認に向けた実験として、アミロイド分解酵素であるネプリライシン(NEP)を選定し、培養細胞や実験動物を用いた機能評価を開始した。NEP発現mRNAをアミロイド前駆タンパク質(APP)の過剰発現細胞に導入したところ、細胞内のAPPを効果的に分解しただけでなく、培地中に添加したAPPも分解できることを見いだした。続いて、NEP mRNAを、ミセルを用いて正常マウスの脳室内へ投与したところ、脳内のNEP濃度を約1.5倍高める事に成功した。以上、各検討項目について、当初の研究計画調書に沿って進捗しているとともに、実験動物内での治療酵素の発現確認等一部は計画を前倒しする形での成果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新しい高分子の分子設計からin vitro、in vivoでの機能評価、さらには、動物モデルにおける治療効果の確認へと進む本研究計画の推進においては、検討課題が分子設計・機能評価・展開研究の各グループ内で閉じることなく、密接な連携を通じた研究の進捗が必至である。そこで、緊密な連携体制を構築し、研究を進めた結果、下記の様な特筆すべき成果を得ることが出来た。 1)ミセル内核径の最小化と表層を覆うポリエチレングリコール(PEG)密度の最大化が血中滞留性に与える影響を分子設計Gと機能評価G間の連携により短期間で解明し、血液-脳関門(BBB)突破に有望な粒径50nm以下で血中滞留性に優れる核酸内包ミセルの構築に成功した。 2)BBBを突破するグルコース結合ミセルに関しては、分子設計Gが作成した表面グルコース密度と粒径を精密に制御した高分子ミセルについて、機能評価Gが中心となってin vivo共焦点顕微鏡解析により密度と粒径に関する最適値を決定し、さらに展開研究Gが組織切片観察に基づいて、研究開始の初年度において、これらのミセルがニューロンにまで到達していることを証明することが出来た。 3)分子設計Gと展開研究Gの連携により、細胞質内に効率良くmRNAを送達出来るポリカチオン構造の特定を行い、さらに、この構造を組み込んだミセルを用いることによって、次年度計画を前倒しで行い、マウス脳内においてADの原因物質であるアミロイドβ(Aβ)を分解する酵素であるネプリライシンを発現させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
「11. 現在までの達成度」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。したがって、今後の研究については、当初の計画に沿って推進して行く予定である。なお、本年度に研究を遂行する上で生じた問題点については、以下に示す様な対応を行う事によって解決の見通しを得ており、今後の研究計画は予定通りの進捗が見込まれる。 1)高分子ミセル表層のPEG密度と血中滞留性の定量的相関解析手法の確立 : 本研究で必要となる生体内の安定性と粒子径の極小化を満足する高分子ミセルを構築していくためには、ステルス性を担うPEGの密度と血中滞留性との相関を明らかにするとともに、核酸をより小さい形状にパッケージングする方法論を開発しなければならない。そこで、ミセル内核表面のPEG密度を算出する方法論を新たに確立し、血中滞留性との相関を解析する事によって、ステルス性強化のための具体的目標値を設定することが出来た。さらに、DNAの二重らせん構造固有の剛直性の寄与に着目しこれを制御する事によって粒径を極小化する方法の開発に成功した。以上の基礎検討から、生体内の安定性と血液-脳関門さらには細胞内核膜孔突破を可能とする粒子径(<50nm)のpDNA内包ミセルの確立に向けた見通しを立てることが出来た。 2)高分子ミセルの脳内分布確認手法の確立 : 今後は、脳の部位による高分子ミセルのBBB通過特性の相違についても検討を進めていく必要があるが、その場合、現在使用しているin vivo共焦点顕微鏡では観察可能な深さに限界があり(200μm)、評価が難しいことが懸念される。しかし、本年度の後期に導入された2光子レーザーを搭載したシステムを用いることで、1,000μm(従来の約5倍)の深さまで血管構造を鮮明に観察できる事が確認されたので、観察限界に関する問題の解決に見通しが立ったと言える。 3)アルツハイマー病の治療因子としてのネプリライシン(NEP)の有用性検証 : NEPは、ニューロンの細胞内においてAβを効率的に分解する作用が広く知られており、治療因子として用いる際ニューロンにおける発現が必須と考えられていた。一方で、GFP発現mRNAをくも膜下腔へ導入したところ、主に髄膜の細胞に強い発現が見られ、ニューロンにおける発現効率が低いことが問題となった。ニューロン以外の細胞に発現したNEPが治療に寄与するには、分泌されたAβを分解し、脳内のAβ量を減少させることが必要となる。この点を培養細胞にて検証したところ、NEPは細胞膜上に強く発現し、細胞外のAβを分解する高い能力を有する事が明らかとなった。これより、NEPmRNAミセルのくも膜下腔投与によっても治療効果が得られるという見通しを得る事が出来た。
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