研究課題
本研究の目的は、強固な生体バリア(血液脳関門 : BBB)を克服して脳神経系に核酸医薬(siRNA, mRNA, pDNAなど)を送達する高分子ミセルを構築し、アルツハイマー病などの脳神経系難治疾患の分子治療における有効性を実証することである。本年度は、これまでに確立したBBBを効率的に通過する直径30 nmのグルコース結合高分子ミセル(Gluc/m)をさらにブラッシュアップし、BBB通過用のグルコースリガンドに加え、2ndリガンドとして脳実質内での挙動を制御する断片化抗体を搭載したデュアルリガンド搭載高分子ミセルを構築し体内動態評価を行ったところ、BBB通過に関して抗体導入数の閾値があることを見出した。pDNAを封入したグルコース搭載高分子ミセルについては、全身投与により脳内に集積していることを確認するとともに、血管内皮細胞で遺伝子発現させることに成功した。また1本鎖核酸(ASO)と2本鎖核酸(siRNA)を用いた安定性比較実験を通じて、1本鎖核酸からなるPICの方が多分子会合体(高分子ミセル)を安定化させることを見出し、血中滞留性を比較したところ、ASO内包高分子ミセルの方が10倍近く長い血中半減期を示すことを見出した。一方、mRNAについては、全身投与に向けて、ミセルの安定化に取り組んでいる。PEG相とmRNA担持内核との間に疎水性の防御層を持つミセルが、静脈内投与において防御層のないミセルと比較して有意な血中滞留性の向上を示したほか、内核を化学架橋することで酵素耐性が向上することも見出した。さらに、ポリマーがRNA分解酵素を阻害することを利用し、ミセルに精密設計したポリマーを添加することで、ミセルの血中滞留性を飛躍的に向上させることにも成功した。以上、各検討項目について当初の研究計画調書に沿って進捗しているとともに、実験動物における評価に関しては一部計画を前倒しする形で成果が得られている。
1: 当初の計画以上に進展している
高分子の分子設計からin vitroおよびin vivoでの機能評価、さらには疾患動物モデルにおける治療効果の確認へと展開される本研究計画においては、分子設計・機能評価・展開研究の各グループ間の密接な連携が必須である。そこで、緊密な連携体制に基づいて研究を進めた結果、下記の特筆すべき成果を得ることに成功した。1) 脳内での挙動を制御する目的で、2^<nd>リガンドとして断片化抗体を導入したデュアルリガンド搭載高分子を構築し、BBB通過に関して抗体導入数の閾値があることを確認した。2) pDNA内包ミセルに、最適化したリガンド密度でグルコースを結合させた高分子ミセルを構築し、全身投与による脳への集積を確認するとともに、血管内皮細胞において送達遺伝子の発現を認めた。血管内皮細胞に遺伝子導入し、脳神経系疾患を治療する戦略が実現可能であることを確認した。3) mRNA内包ミセルの安定化に関して、疎水性の防御層の搭載、ミセル内核の架橋、RNA分解酵素を阻害する安定化剤の添加といった要素技術の開発に成功した。以上のように、全身投与で脳へ核酸医薬を効率的に送達し、分子レベルで機能するシステムを創出することに成功している。
「11. 現在までの達成度」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。したがって、今後の研究については、当初の計画を超える成果を挙げる予定である。なお、研究を遂行する上で生じた問題点については、以下に示す様な対応を行う事によって解決の見通しを得ており、今後の研究計画は予定通りの進捗が見込まれる。1) これまでに、BBB通過用のグルコースと脳実質内での挙動を制御する2ndリガンド分子(アミノ酸、断片化抗体、ペプチドなど)を搭載したデュアルリガンド搭載高分子ミセルを構築することに成功した。今後は、脳実質内で2ndリガンドが機能するかどうかを脳の培養切片を用いて評価する。特に高い選択性を示したシステムに対しては、全身投与による特定細胞の認識に関して2光子レーザーを搭載したin vivo共焦点顕微鏡を用いて評価する。2)血糖操作に伴う脳血管内皮細胞でのGLUT1の細胞内動態の解明、およびこの動態の変化に寄与する生物学的・薬理学的方法の探索を実施する。3) アルツハイマー病をはじめとした疾患のモデル動物におけるグルコース搭載高分子ミセルの中枢神経系へのデリバリーの評価および最適化を実施する。4) pDNA内包ミセルについては、脳に集積することならびに血管内皮細胞への遺伝子発現を確認したことから、それらに対するミセルのサイズ、形態、リガンド密度の効果を検討し、最適化を進めることで到達効率と遺伝子導入効率の強化を進める。5) siRNAについては、前年度までに全身投与によって脳のニューロンまで送達させ、さらに標的とする遺伝子発現を抑制する効果が得られている。そこで今後は、アルツハイマー病モデルマウス(APP/PS1マウス)および水迷路等を用いて行動試験を行い、記憶や学習といった「能力」への寄与を検証する。6) グルコースリガンド搭載ASO内包ミセルを用いて、培養細胞およびマウスを用いた実験へと展開する。7) mRNA内包ミセルの安定化に関する要素技術を組み合わせることで、長期血中滞留を実現するとともに、ミセル表面にグルコースリガンドを担持することで、全身投与による脳へのmRNA送達を目指す。
すべて 2017 2016 2014 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (43件) (うち国際学会 30件、 招待講演 26件) 図書 (2件) 産業財産権 (7件) (うち外国 3件)
Biomaterials
巻: 126 ページ: 31-38
10.1016/j.biomaterials.2017.02.012
Eur. Polym. J.
巻: 88 ページ: 553-561
10.1016/j.eurpolymj.2016.11.029
Curr. Alzheimer Res.
巻: 14 ページ: 295-302
10.2174/1567205013666161108110031
Biomacromolecules
巻: 18 ページ: 36-43
10.1021/acs.biomac.6b01247
J. Control. Release
巻: 244 PartB ページ: 247-256
10.1016/j.jconrel.2016.08.041
Nat. Commun.
巻: 7 ページ: 13616
10.1038/ncomms13616
巻: 113 ページ: 253-265
10.1016/j.biomaterials.2016.10.042
巻: 235 ページ: 268-275
10.1016/j.jconrel.2016.06.001
Nat. Nanotechnol.
巻: 11 ページ: 724-730
10.1038/nnano.2016.72
Adv. Drug Deliv. Rev.
巻: 104 ページ: 61-77
10.1016/j.addr.2016.06.011
神経治療学
巻: 33 ページ: 303-306
10.15082/jsnt.33.3_303
J. Biomater. Sci. Polym.
10.1080/09205063.2017.1301775