研究課題/領域番号 |
25000007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北川 進 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (20140303)
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研究分担者 |
佐藤 弘志 東京大学, 工学系研究科, 講師 (20598586)
有川 敬 京都大学, 理学研究科, 助教 (70598490)
KIM Franklin 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定拠点准教授 (10608566)
細野 暢彦 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定助教 (00612160)
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研究期間 (年度) |
2013 – 2017
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キーワード | 細孔 / 錯体 / 吸着 / 階層化 / 複合化 / メンブレン |
研究実績の概要 |
1. 究極分離細孔 (1) 多孔性配位高分子(PCP)内への水の特異な吸着状態を明らかにするため、赤外分光法を用いてPCPの1次元ナノ空間に閉じ込められた配位水分子の水素結合状態を調べた。その結果、配位水は「PCP骨格構造を安定化させる」、「後から入ってきたゲスト水の吸着の役割を担う」等の重要な役割を果たしていることを明らかにした。赤外分光法で得られる吸収スペクトルを詳しく解析することにより、分子の吸着状態や吸着過程、エネルギー散逸過程等を明らかにできる事を実証した。 2. 物質変換細孔 (1) 異性化制御に基づく物質変換細孔 ビニルアルコール-アセトアルデヒドの平衡を、細孔内部で大きく偏らせることでポリビニルアルコールの直接合成に挑戦している。前年度までにルイス酸点および水素結合サイトを空間的に適切に配置するためのフレームワークおよび配位子設計を完了し、実際にそれらが細孔内で規則的に配列したPCPを得ることに成功した。 3. 異方的物質輸送細孔 (1) 3次元から2次元シートへの異方的構造変換 ある一次元細孔を持つPCPが特殊な環境下で異方的に大きく変形することを発見した。この変形は一次元細孔の軸方向から起こり、可逆的であることから、本現象を利用すれば一次元細孔の内部に蠕動運動を引き起こし、異方的なゲスト輸送が達成できる可能性がある。現在、その最適条件を探索中である。 (2) 階層的構造における構造変化と物質移動 PCPの構造転移現象がどのようなプロセスで進行するのか、メカニズムには未だ謎が多い。この機構解明は、異方的物質輸送細孔を実現するためにきわめて重要である。本年度は昨年度に引き続き、超高分解能高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いてPCP結晶表面構造の実空間・実時間観察をおこなった。AFM観察を続けながらゲスト置換を試み、様々な条件を探索した結果、原子レベルの高解像度で構造変化前後の結晶表面の観察に成功した。 (3) 中空有機金属錯体のフィルム化による物質分離膜 PCPを柔軟なフィルムへと成形加工することで、異方的に物質を透過させる膜材料の合成に挑戦した。PCPは結晶性であるがために柔軟なメンブレンへと成形加工ができないという問題点を抱えている。そこで、PCPの最小構造単位である単孔性中空有機金属錯体(MOP)に着目し、MOPと汎用高分子を複合化することで非常に柔軟なメンブレンの合成に成功した。現在、本メンブレンの物質(ガス)分離性能を評価中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つの具体的目標(「分離」「変換」「輸送」)達成に向けて順調に進展している。「究極分離細孔」については、PCP内部に吸着された水分子がさらなる水分子の導入を助けるという、これまで全く知られていなかったメカニズムについて明らかにすることができた。「物質変換細孔」については目的を達成し得るPCPのデザインに手間取ったものの、その合成を完了し、今後の飛躍的な進展が期待できる。「異方的物質輸送細孔」は、これまで多角的に検討を重ねていた幾つかのテーマについて興味深い実験成果が得られた。高分子化学や超分子、自己集合といった材料化学分野との融合により、新しい物質分離膜の創出などにも繋がる進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
それぞれのグループが本研究の各テーマを慎重に遂行し、本年度にはこれまでの研究の芽が出始めたと言える。論文の出版数こそ少なかったものの、それぞれのテーマは確実に萌芽期に達しており、次年度の飛躍が見込まれる。「階層的配位空間」の化学をひとつの学問領域として築き上げるため、これまでそれぞれのテーマは多角的に進められてきた。今後はその成果を紐付けし、体系化を図る。配位空間での現象の解明には分光学的な解析が不可欠であることから、研究分担者感の連携に合わせて、特殊な分光法や構造解析法に関しても他の研究機関の研究者と共同に進めていく必要がある。例えば、時間分解粉末X線測定や超短パルスレーザー技術によるテラヘルツ分光法を用いることで、PCP内の分子の吸着・脱着ダイナミクスを詳細に知ることができるかもしれない。また、材料科学分野との連例も強めていき、具体的な高機能材料の創出にもつなげていく。
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