研究概要 |
1 高温島弧の地熱熱構造と地熱流体解析 花崗岩類とその上部に発達するき裂系と鉱化帯を野外観察し, 脆性領域よりも高い温度環境でき裂が発生し, 鉱物充填脈が生じることを明らかにした. 野外観察と岩石学的解析に基づくナチュラルアナログ研究の結果. 温度圧力の高い岩石圧領域でも, 脆性破壊が生じ, また地殻自体も加水作用が生じている. 天然においては, 中部から上部地殻の環境下で, 脆性破壊が生じていること, これにより地殻に流体が付加され, この流体が上部流体と連結することにより, 地殻自体の水理構造が形成されることを系統的に示した. さらに, シリカの溶解度も大きく変動し, 特に超臨界点を含む350℃から430℃の領域では, シリカの溶解度は極大と極小をもつことを明かにして, 地殻は, 地球化学的に不透水ゾーンと透水ゾーンに区分されることを明確に示した. 2 延性領域掘削の基礎技術の開発 上述した急激な相変化を伴う岩石破壊(Flash Vaporization, 熱水角レキ脈)を実験的に再現し, その条件を明確化するために, 水熱実験により, 岩石(石英)の破壊実験を行った. この実験により, 岩石は, 流体の相変化だけで破壊に至ることを示すことに成功し, さらに応力シミュレータを使った計算機解析でもその現象を定量的に示すことができた. また, X線CTを用いて, 熱応力で形成したき裂の分布を計測することが可能となった. 3 き裂型貯留層の多相流動シミュレータの開発 岩石き裂内の3次元のチャネリングフロー・シミュレータを開発した. これを用いて, き裂型貯留層の生産性に関する評価を行い, き裂型貯留層の特性を明らかにした. このほかICDP-JBBPサポートについても国際ワークショップを開催するとともに, 既存地熱のEGSの新展開のための提案を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で示したとおり, 項目1~3まではほぼ予定通りに進行し, あわせて, 4 ICDP-JBBPサポート(国際プロジェクトのサポート)および5 既存地熱のEGSの新展開についても学会発表等を通じて研究成果の公表が行われている. しかしながら, 新装置(UNIT-I : フラクチャー・クラウド創成基礎実験装置)の製作だけは年度内に間に合わなかった. この装置は, 「2 延性領域掘削の基礎技術の開発」を実験的に解明する装置で, 岩石試料内に模擬ボアホールを作り, ここに熱水を注入し, さらにこの熱水の急減圧により相変化(沸騰)を生じさせて, き裂の形成と進展現象を解明する装置であり, き裂の形成と進展は, 弾性波により計測するものとした. この装置は独自設計による特注装置であるが, 岩石内に模擬ボアホールを作成し, これの圧力シールを確実に行う必要がある. このため, 圧力シールの方法について, 専用の予備実験装置を製作して, 岩石試料の作成方法や仕様(テーパーのあるなし, 表面仕上げ精度)を検討し, あわせて圧力シール方法について検討を行つた. しかしながら, 金属シール材と岩石試料の親和性が悪く, ある程度の実験条件(280℃・5.5MPa)までは圧力保持に成功したが, 当初予定していた実験条件(600℃・60MPa)には到達できなかった. 原因として, 試験片自体の強度や多結晶性, 内部微小き裂の存在など, 岩石固有の性質によるものである事が判明した. また, プラグの押さえ方やシール厚などを工夫することにより多少の改善は見られたが, 根本的な解決には至らない事が判明し, 装置の設計仕様の全面見直しを行い, 平成26年度に発注・製作することととした.
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今後の研究の推進方策 |
1 高温島弧の地熱熱構造と地熱流体解析 地殻中部から表層部までの, 地殻横断面について流体の存在形態と温度・圧力環境を解析し, 超臨界から亜臨界にかけての環境下での, 鉱物充填脈の形成, 鉱物組織の解析と流体環境の推定ならびに, 流体流動様式についての解析を実験とフィールド調査により研究を進める. フィールド調査は, 地殻下部から中部域のモデルとして, 東南極セール・ロンダーネ山地, モンゴル西部のツェール地域(現地調査), 島弧地殻の中部から上部域のモデルフィールドとして, 東北日本の花崗岩類分布域(田沢湖北西部)ならびに北アルプス滝谷花崗閃緑岩隊分布域を選定する. 田沢湖北西部域は, 斑岩銅鉱床のナチュラルアナログ地域としても有望であり, 花崗岩マグマの形成, シュードータキライト, 石英充填脈ならびに熱水角レキ脈などの多様な流体と岩石の相互作用に関しての観察が可能であり, 急激な相変化を伴う岩石破壊(Flash Vaporization, 熱水角レキ脈)によって, 静水圧(Hydrostatic環境)へ移行する超臨界地熱貯留層から亜臨界領域への遷移を観察することができるであろう. 2 延性領域掘削の基礎技術の開発 急激な相変化を伴う岩石破壊(Flash Vaporization, 熱水角レキ脈)を実験的に再現し, その条件を明確化するために, 水熱実験により, 岩石(石英)の破壊実験を行い, この現象における熱応力破壊の数値シミュレーションコードを開発して, 流体存在下においては, 流体の相変化による岩石(地殻)の破壊が生じ, このことを利用して延性領域の掘削技術や地殻の透水性の改善に応用できる可能性を実験と数値計算を含む多面的な検討を行う. き裂の進展と岩石の破壊現象については, X線CTを用いて, 熱応力で形成したき裂の分布様式を高精度でマッピングして, 数値計算との比較検討を試みる. また, 新装置(UNIT-I : フラクチャー・クラウド創成基礎実験装置)の設計と製作を鋭意進めて, 流体の減圧に伴う相変化と岩石の破壊とき裂進展の実験的検証を行い, 実際の掘削プロセスでの技術導入の方向性を明らかにする. 新装置(UNIT-II : 流体流動解析の基礎実験装置)開発し, 高温かつ封圧下での流体流動を実験的に解明して, 貯留層シミュレーター開発の基礎パラメーターを取得することとする. この装置により, 高温, 封圧下での, 流体と岩石との相互作用や弾性波伝搬速度の変化などを追跡できるものと考えている. 3 き裂型貯留層の多相流動シミュレータの開発 岩石き裂内の流体流動はチャネリングフローであり, 3次元のチャネリングフロー・シミュレータを開発する. き裂型地熱貯留層シミュレータの機能としては, 3Dき裂分布, き裂内流動, 不均質流(気液2相流)を具備する必要がある. き裂型地熱貯留層の3D貯留層シミュレータを開発し, 実験結果とのマッチングを検討し, 拡張性の高い貯留層シミュレータの開発を行う. 4 ICDP-JBBPサポート(国際プロジェクトのサポート) 延性領域の地熱資源の実態と利用を目指した新たな陸上掘削計画(IBBP : Iapan Beyond Brittle Project)を提案し, この提案は, ICDPのプロジェクトのひとつとしてワークショップ開催が認められた. この掘削を成功させるためには, 地下の延性領域の実態を十分に理解をしておく必要がある. ICDP-JBBPの室内実験サポートを行い, ICDP本申請に向けた科学的サポートを推進する. 第12回International Workshop On Water Dynamicsを主催する(平成27年3月開催予定)。 5 既存地熱のEGSの新展開 既存地熱貯留層の可採量を増大させるために熱応力き裂により, 流体流動特性の性能向上を図り, 貯留層の透水性やき裂のコネクティビティの向上技術へ展開する.
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