研究実績の概要 |
地熱熱構造 : 高温島弧の地熱熱構造と地熱流体解析を目的として, 地殻深部から現在の地表面まで, 深度に応じた地球科学的現象を配列し, 地熱資源の類型化を行った. 具体的には, マントルからの高温流体上昇域(Hot Finger), 地殻上部への熱移送媒体(Magma Input)と熱上昇域(Geothermal gradient), 深部熱水貯留層(Self-sealingあるいはFracture cloud), 表層部への熱水循環(火山性高温温泉), および浅所地熱兆候(熱水変質帯など)であり, それらを総合的に示す場として, カルデラや現世火山をデータベース化した. これを用いて, 高温島弧の地熱資源および地熱有望地域を, 即効性(promising)蓋然性(probability), 可能性(possibility), 発展性(potentiality)という4つの概念を用いて整理, 評価した. この結果, 高温島弧の地熱熱構造と地熱流体解析のデータの解析技術を開発し, 地熱資源と開発可能性の定量的評価方法を提案することができた. また, 有望地域周辺域での超臨界地熱資源のナチュラルアナログ研究を実施し, 超臨界地熱貯留層の実態を明らかにした. 地熱流体解析 : 高温高圧の地熱流体には多量の岩石成分(特にシリカ)が溶け込んでおり, 流体からのシリカの析出は, スケール問題を引き起こすとともに, 地下の亀裂や断層を閉塞させ, 抽熱の効率にも大きな影響を与える. 地熱地帯深部のシリカの析出が水理学的特性に与える影響を評価するために, 独自装置により超臨界条件(410℃, 30 MPa)における流通式水熱実験を行い, 析出に伴う流体圧(浸透率)の時間変化と, マイクロX線CTによって間隙構造の発達を調べた. その結果, 流体の差圧(上流と下流の差)の特徴的な振動が見出された. この振動は, 100秒くらいかけてゆっくりと上昇し, 1秒で降下するというノコギリ刃のような波形を示す. 一方, CT観察から, 高過飽和な流体からシリカの微粒子が形成し, 運搬, 管内に均質に付着したことがわかり, 上記の振動は, ポアスロートの閉塞と破壊の繰り返しによって説明されることが明らかにされた. 「フラクチャークラウド創成実験装置」を用いて, 超臨界水環境下におかれた岩石試料の急減圧にともなう岩石内き裂の発生について実験を行った. 500℃から610℃・28から43MPaの実験条件下において, 実験温度が上昇するに伴って空隙率が初期状態の0.5%程度から約3.2%まで増加し, 500℃以上では急減圧破壊により, より空隙率が大きくなる. さらにP波伝播速度も顕著な低下が観察された. 特に. 600℃から急減圧を行うと, Vpが水中の伝播速度(1.5km/s)よりも低下した. このことは, 変形が生じて破壊しづらいと考えられていた延性領域でも, 流体との相互作用により岩石がもろく破壊する実験的事実をつかむことができた. また, 急減圧を繰り返す事によるき裂が進展する様子を捉えることに成功した. このことは, 超臨界(延性領域)でも岩石が脆性的振る舞いをし, この性質を利用して, 貯留層の透水率の向上や掘削技術への展開ができることを示している. これらは学術上の大きな発見であり, 超臨界地熱掘削技術への展開が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで, 地震サイクルを説明するモデルとして, (1) 流体圧上昇による強度の低下, (2) 地震による瞬間的な浸透率の上昇, (3) 断層のシーリングによる浸透率低下と強度の回復という一連のプロセス(Fault-valve model)が提唱されているが, 検証された例は存在しない. シリカによるシーリングによって引き起こされた今回の流体圧振動は, このFault-valve modelを室内実験において再現した初めての例である. 地熱地帯のような岩石-水相互作用が激しく起こるところでは, 地震によって流体流動が引き起こされ, 高過飽和な流体からシリカの微粒子が形成することにより, 流体圧にダイナミックな変動を与えることが示唆された. 従来, 力学的な現象としてアプローチされてきた地震発生過程に対して, 地下の熱水-岩石の化学的な相互作用が大きな影響を与えることを示しており, 地震学への波及効果は高いものがある. 本研究は, 地熱エネルギー開発を直接の目的としているが, 地震発生メカニズムの解明にもつながる研究成果が得られている. このため, 当初の予定以上の研究成果が得られていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
新装置を開発が終了し, 最終年度では, この装置を用いた研究を進める. 実験については, ほぼ順調に推移しているが, 貯留層内の流体流動シミュレーションについて今後の展開を図る必要がある. 延性岩体に形成されたき裂型貯留層内の流体流動を予測するためには, 熱水および水蒸気の二相流動の取り扱いが可能なシミュレータの開発が必要であり, 二相流動の取り扱いを可能とするためにはき裂ネットワークの相対浸透率曲線を明らかにし, 定式化することが求められる. 実際のき裂ネットワークにおいては, ν型およびX型相対浸透率曲線をもつき裂が混在していると考えられ, またこれらのき裂の存在割合は常に一定ではないと予想される. そこで, き裂型貯留層の相対浸透率曲線を表す相対浸透率曲線モデルの一般形として, ν型およびX型相対浸透率曲線のモデル式およびそれらの寄与率(0~1)を考慮した相対浸透率曲線モデルを考案した. さらにこの相対浸透率曲線モデルを用いて, アイスランドの地熱フィールドで得られた熱水および水蒸気の相対浸透率の関係の再現を試みた結果, 既存のどのモデルでも再現できていないフィールドデータが相対浸透率曲線モデルでは再現可能であることがわかり, 相対浸透率曲線モデルが実際の地熱貯留層の相対浸透率曲線モデルとして適用可能であることを実証した. これらの研究成果は, 地熱貯留層の開発・生産のみならず石油・天然ガスのき裂型貯留層の開発・生産あるいはCO2地中貯留におけるリスク評価などの他分野にも直接応用展開可能な貯留層工学の発展に大きく貢献する重要な成果であり, 今後いっそうの発展を進めたい. 29年度はこの特別推進研究の最終年度であり, 研究のとりまとめと, 今後の展開を図りたい.
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