研究課題
当初の計画どおりに電子線直接検知型の高感度・高解像度CMOSカメラを導入し、加速電圧300 kVのクライオ電子顕微鏡に装備した。高感度・高解像度の画像記録性能を確認するとともに、毎秒5フレームの高速画像収集能を活用し、試料ステージの機械的な動きや電子線照射による帯電等で生じる像ブレを画像処理により補正して像の解像度を格段に高めるモーショントラッキングの効果を確認した。CMOSチップは1600万画素(4k×4k)であるが、毎秒400フレームで記録される各画像を実時間処理して実現される超高解像度モードでは総画素数6400万(8k×8k)で画像データは128メガバイトになる。実際の像記録では0.2秒ごとに積算するが、超高解像度モード安定動作のため照射電子線密度を落として5秒露出にすると3.2ギガバイトとなる。この計25フレームをモーショントラッキングによる像ブレ補正に使う。大容量データを高速転送にも対応して通常の顕微鏡像撮影に効率よく使えるよう様々な技術的課題を洗い出し、記憶媒体にSSDを導入するなどして問題の解決策を講じた。生体超分子の構造解析も並行して進めた。武藤グループと共同で進めているダイニンストーク微小管複合体の構造解析では、3次元密度マップをもとに構築した分子モデルに、チューブリン遺伝子の改変でモーター括性ごに必須と同定された2つのアミノ酸残基が関与する一対の逆向きイオン結合を同定し、機能と構造の重要な相関を明らかにした。骨格筋の細いフィラメントでは、クライオ電子顕微鏡像による低分解能構造を指標にして、ワタリガニからアクチン繊維トロポミオシン・トロポニン複合体を効率よく単離精製できる条件を検討した。試料の生化学的解析では収縮制御能を持つ複合体が安定に存在するにもかかわらず、急速凍結グリッドでクライオ電子顕微鏡像を解析するとアクチン繊維の75%からトロポミオシン・トロポニンが脱離していたため、低濃度グルタルアルデヒドで緩やかに架橋して複合体の安定化を試み、ほぼすべてのアクチン繊維にトロポミオシン・トロポニンの結合した構造を確認した。べん毛モーターやニードル複合体の構造解析についても高分解能をめざした努力と工夫により一定の成果が得られている。顕微光学ナノ計測によるべん毛モーターやその変異体の機能解析では高速カメラとレーザー光学系による高時間分解能の回転計測を行い、高速回転におけるステップ動作が見え始めている。
2: おおむね順調に進展している
計画通り初年度予算で導入した電子線直接検知型の高感度・高解像度CMOSカメラは、これまで使用してきた電子光子変換受容型CCDカメラと性質や動作がかなり異なるため、性能確認と通常の連続使用のための環境整備に予測以上の時間と労力を要したが、さまざまな技術的課題を克服し、通常のクライオ電子顕微鏡による像データ収集が可能となった。低温試料ステージの改造についても、電子顕微鏡メーカーの技術者との協議による設計仕様の策定に長時間を費やしたが、これも年度内に終えることができた。ダイニンストーク微小管複合体の構造解析では、機能解析でモーター活性に必須と同定されたチューブリンの2つのアミノ酸残基が分子モデル上で一対の逆向きイオン結合に寄与していることを見出し、機能構造相関を明らかにして論文を投稿した。筋収縮制御メカニズムの解明を目指す骨格筋の細いフィラメントの構造解析では、単離精製試料の生化学的解析では収縮制御機能を持つ複合体が安定であるにもかかわらず、急速凍結グリッドで観察される繊維構造ではアクチン繊維の75%からトロポミオシン・トロポニンが脱離しており、像データ収集に多大な困難が予想されたが、緩やかな架橋で問題を解決することができた。べん毛モーターやニードル複合体についても、クライオ電子顕微鏡像の解析の工夫により高分解能構造解析への目処がつきつつある。べん毛モーターや変異体の顕徴光学ナノ計測による機能解析では、高速カメラとレーザー光学系により高速回転でのステップ動作が見え、本格的なデータ収集を開始した。当初は導入計画のなかった倒立型リサーチ顕微鏡と画像解析ソフトウェアにより蛍光像で長時間の間欠的経時観察が可能になり、べん毛のモーター回転やタンパク質輸送に関わる構成タンパク質の離合集散を安定に観察できるようになった。
初年度に設計仕様を固めたクライオ電子顕微鏡の低温試料ステージと電子工学系の改造については、繰り越した平成25年度予算でメーカー(日本電子(株))に詳細設計を依頼し、詳細設計完了後は平成26年度予算により装置の製作を完了する予定である。電子顕微鏡への実装は平成27年度初めとなるが、高解像度像データの自動収集も可能になる。装置開発と並行して、現有のクライオ電子顕微鏡と初年度に導入した高感度・高解像度CMOSカメラの性能を最大限に活用して、高分解能の像データを多数収集することにより、当初の計測に沿って様々な超分子モーターの立体構造解析を進める。ダイニンストーク微小管複合体の構造解析では、すでに3次元密度マップをもとに複合体の分子モデルを構築し、モーター活性に必須と同定された2つのアミノ酸残基が関与する一対の逆向きイオン結合を同定したが、ダイニンストークと微小菅の結合が安定でなく、立体構造の分解能は微小管部分で8Å、ダイニンストークでは10Å程度に留まり、すべての2次構造が明確に見えているとは言い難い。骨格筋の細いフィラメントでも同様の結合不安定性が観察され、単離精製した試料水溶液の生化学的解析では収縮制御機能を有するアクチン繊維トロポミオシン・トロポニン複合体が安定に存在するにもかかわらず、急速凍結氷包埋グリッドで撮影したクライオ電子顕微鏡像ではアクチン繊維の75%からトロポミオシン・トロポニンが脱離していた。そこで、低濃度グルタルアルデヒドによる緩やかな架橋を試みたところ、ほぼすべてのアクチン繊維にトロポミオシン・トロポニンの結合した構造を確認することに成功した。よって、この緩やかな架橋法を、ダイニンストーク微小管複合体やべん毛モーターなどさまざまな超分子複合体にも応用し、複合体の構造をできる限り安定化することで高分解能の立体構造解析ができるものと期待する。べん毛モーターのトルク発生とその制御機構を解明するための一分子光学ナノ計測法による回転計測では、これまで1~3 Hzの低速回転でしか見えなかったステップ動作が、超高速カメラとレーザー光学系により100 Hz以上の高速回転でも見えるようになった。今後は固定子や回転子構成タンパク質に様々な変異を持つモーターについても多くのデータを収集して詳細に解析することにより、トルク発生の素過程に迫る。倒立型リサーチ顕微鏡による蛍光像の間欠的経時観察でも、今後さまざまなべん毛タンパク質のダイナミックな離合集散を観察することで、トルク発生やタンパク質輸送の制御をつかさどるしくみの解明をめざす。
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