研究課題
導入した電子線直接検知型CMOSカメラは安定稼働し、高感度・高解像度・高速画像記録を活かして格段に高解像度の電子顕微鏡像データ収集が可能になった。ロンドンCancer Centerグループとの共同研究では、免疫センサーであるタンパク質受容体DNGR-1とアクチン繊維の複合体の構造から損傷細胞のアクチン繊維を認識する分子機構を解明。論文はImmunityに掲載予定である。ダイニンストーク微小管複合体の構造解析ではモーターの一方向運動に必須なチューブリンのアミノ酸残基が一対の逆向き分子間イオン結合に関与することを同定。論文はJ. Cell Biol.に掲載された。骨格筋の細いフィラメントでは、効率のよい単離精製条件と急速凍結氷包埋によってもトロポミオシン・トロポニンが解離しない緩やかな化学架橋法を確立し、構造解析を進めた結果トロポニンの構造が見え始め、その結合部位のアクチンにも大きな構造変化を見いだした。トロポニンへのCaイオン結合によるアクチン・ミオシン相互作用のOn-Off制御にアクチンの構造変化も関与することを示しており、筋収縮のCa制御機構に大きな手掛かりを得た。アクチン・ミオシン複合体の構造では、ミオシンへのATPの結合解離と共役したアクチン・ミオシンの結合解離の仕組みを解明し、弱結合構造がブラウン・ラチェットとして働く仕組みを発見した。べん毛モーターの固定子プロトンチャネル複合体については、特殊な界面活性剤を活用して単離精製法を確立し、構造解析に向けて大きな進展があった。べん毛モーターの機能解析では、超高速カメラとレーザー光学系による高時間空間分解能の回転ナノ計測により高速回転ステップの速度分布の計測に成功し、固定子なしで回転ブラウン運動するモーターの速度分布との類似性からブラウン・ラチェットとしてトルクを発生する仕組みに強い手掛かりを得た。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度に設計仕様を固めたクライオ電子顕微鏡の低温試料ステージと電子光学系の改造については、当初の計画どおり平成26年度中に装置の製作を完了し、電子顕微鏡への実装は平成27年5月の予定で、高解像度像データの自動収集が可能になる。超分子の構造解析では、骨格筋の細いフィラメント(トロポミオシン・トロポニンの結合したアクチン繊維複合体)の構造解析が当初の計画より早く進展し、予想外の構造が見え始めたことは大きな成果である。高速カメラとレーザー光学系を組合せた光学顕微ナノ計測システムによるべん毛モーター高速回転ステップの速度計測は、当初の計画では平成27年度に実施の予定であったが、開発した光学顕微装置が高精度で安定稼働し多くの高分解能計測データが収集できたため、定量的なステップ速度分布からブラウン・ラチェット機構を示す確かな手掛かりを得ることができた。アクチン・ミオシン複合体の構造から、ミオシンへのATPの結合解離と共役したアクチン・ミオシンの結合解離の仕組みを解明し、弱結合構造がブラウン・ラチェットとして働く仕組みを発見できたことも計画にはなかったことである。
クライオ電子顕微鏡による構造解析法に一段と工夫を加え、当初の計画に沿って様々な超分子モーターの立体構造解析を進める。骨格筋の細いフィラメントではCaイオン非存在下でミオシンの結合できないOff構造の構造解析を進め、2次構造の見える分解能を目指すとともに、Caイオン存在下のOn構造の像データ収集も開始する。べん毛モーター固定子プロトンチャネルについても、まずはヘリックスの配置が見える分解能での構造解析をめざす。べん毛基部体やニードル複合体についても固定子の可溶化・安定化に用いた特殊な界面活性剤を活用し、単分散した急速凍結氷包埋試料の作成法を早期に確立して高分解能での構造解析を目指す。べん毛モーターのトルク発生とその制御機構の解明をめざす光学顕微ナノ計測では、昨年度中に高速回転ステップの計測が可能になり、ブラウン・ラチェットとして働くメカニズムに手掛かりが得られたことから、今後は様々な変異モーターについての計測や、温度や細胞内プロトン濃度の変化の影響を定量的に計測してデータを蓄積し、ブラウン・ラチェット機構の一層明確な基盤の確立を目指す。
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