研究課題
骨格筋アクトミオシンの構造からその高速運動の仕組みを解明した(Nature Communications 2017a)。細胞質ミオシンとの比較により、骨格筋ではアクチン繊維に強結合した際ATP結合ポケットがより大きく開くことでADPとPiが即座に解離し、ATP再結合によりミオシンがアクチン繊維から急速に解離する仕組みを捉えた。さらに弱結合構造モデルにおける結合ボンドの繊維軸に非対称分布から、ミオシン解離時にそのブラウン運動を一方向に偏らせて筋収縮力を発生するブラウニアン・ラチェット機構に手掛かりを得た。これら2つが骨格筋アクトミオシンモーターの高速性と高いエネルギー効率を実現している。骨格筋の細いフィラメントの構造解析でも高分解能達成の目処が立ち、世界初のトロポニンの全体像が見え始めている。相同性の高いべん毛ロッドとフックの構成タンパク質では、複合体構造中での分子の向きと相対配置のわずかな相違がドライブシャフトとして堅く真っ直ぐなロッドと自在継ぎ手として柔軟に曲がるフックの違いを実現していることをクライオ電顕で明らかにし(Nature Communications 2017b)、同定した原因変異をフックタンパク質に導入してそれを証明した(Scientific Reports 2017)。べん毛モーターの回転子では34回回転対称性のリング構造を原子レベルで明らかにしつつある。固定子でも回転子と相互作用してトルク発生に関与する細胞質ドメインの形状を明らかにした(Scientific Reports 2016)。べん毛モーターの機能解析では高速回転モーターのステップ動作解析により、固定子プロトンチャネル中のプロトン移動と共役した固定子の構造変化が固定子・回転子の結合解離を制御し、その非対称な弱結合構造が回転ブラウン運動を一方向に偏らせるブラウニアン・ラチェット機構を提案した。
2: おおむね順調に進展している
骨格筋アクトミオシンのクライオ電顕による構造から分子モーターとしての高速性と高いエネルギー効率の仕組みを解明し、Nature Communicationsに論文発表した。べん毛ロッドとフックのクライオ電顕による構造からは、相同性の高いタンパク質が機械的性質のまったく異なる超分子複合体を実現できるというタンパク質の興味深い性質を解明し、これもNature CommunicationsとScientific Reportsに論文発表した。骨格筋の細いフィラメントの構造も詳細に見え始めており、筋収縮制御の仕組みを解明できる日も間近であると期待される。べん毛モーターの回転子・固定子の構造解析も原子レベルに近づいており、光学顕微ナノ計測による高速回転モーターの機能解析から得たトルク発生のブラウニアン・ラチェット機構モデルを構造的に検証できる日も近いと思われる。
当該科研費によるプロジェクトと並行して日本電子(株)と共同開発してきた、高度に自動化した新型クライオ電子顕微鏡が2016年夏に稼働し、その制御ソフトの開発にもおおよそ目処がたって、テスト試料の酵素複合体では2日間のデータ収集と数日の画像解析により3.2Å分解能を達成した。この電子顕微鏡に冷陰極電界放射型電子銃を装着した試作装置では、X線結晶構造解析に匹敵する1.0Åに近い分解能を達成できる可能性も見え始めている。今後もクライオ電子顕微鏡と単粒子像解析法において一層の工夫をし、この技術を一段と進歩させて到達分解能と計測解析の時間短縮を図ることで、構造生命科学の主たる手法としての汎用化を目指す。そして、こういった技術進歩の結果を活用することで、べん毛モーターの回転子や固定子、骨格筋のアクトミオシンモーターやトロポミオシン・トロポニンを含む細いフィラメントのCaイオンによる筋収縮制御系、その他さまざまな生体超分子の立体構造解析を一層高い分解能で行い、分子モーターのブラウニアン・ラチェット機構など、動作メカニズムの解明と高効率なエネルギー変換機構の一層明確な基盤の確立を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 3件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (54件) (うち国際学会 13件、 招待講演 16件) 備考 (1件)
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