研究課題
べん毛モーター回転機構の解明をめざして進めてきたべん毛基部体のクライオ電子顕微鏡による構造解析が有意に進捗し、αヘリックスやβシートなど2次構造が確認できるまで分解能が向上した。その結果、構成タンパク質の部分X線結晶構造を3次元密度マップに当てはめて信頼性の高い原子モデルを構築できるようになった。基部体の細胞質側にあってモーターのトルク発生と回転方向の切り替えに関わるCリングでは、反時計方向あるいは時計方向にのみ回転する2種類のモーター基部体の密度マップに構成タンパク質FliG、FliM、FliNの部分結晶構造を当てはめることで、回転方向に依存した構造の違いを解明した。Cリングの最上部にあって、膜貫通型プロトンチャネルである固定子複合体の細胞質ドメインと結合解離を繰り返すことでトルク発生を駆動するFliGのC末端ドメインは、反時計方向と時計方向にのみ回転するモーターではほぼ180°向きを変えることが明らかとなった。固定子は2回回転対称性を持ち、その細胞質ドメインも180°回転した部分構造を同時に有するため、それぞれが180°向きを変えたFliGのC末端ドメインと結合解離することでトルクを両方向に発生でき、モーターの反転も可能になると考えられる。細胞膜を貫通するMSリング、それに結合したロッド、そして輸送ゲートの構造についても2構造が明確に見えるようになった。FliFを大量発現して精製したMSリングの構造解析でも明らかとなった34回回転対称性のリング構造とともに、それぞれ数分子から十数分子のFlgE、FlgB、FlgC、FlgF、FlgGからなるロッドの構造、そしてロッドの基部でMリングの中心部に位置するべん毛タンパク質3型輸送ゲートの構造も解像できた。固定子複合体についても原子レベルの構造解析を目指してナノディスクへの再構成によりクライオ電顕解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
細菌細菌べん毛モーターの回転機構の解明のために進めてきたべん毛基部体の構造解析は、細菌の細胞膜と外膜の両方を貫通する巨大な膜タンパク質複合体であるとともに、細胞質側にあってトルク発生と回転方向スイッチに関与するCリングの結合が不安定であるため、長年の努力にもかかわらず困難を極めた。しかし、全体構造を安定化できる水溶液条件の発見、クライオ電顕像の解析法における工夫の着実な積み重ね、そして反時計方向および時計方向に回転する2種類のモーター基部体のそれぞれについて10,000枚を超える膨大数のクライオ電顕像の収集と解析により、ようやく両者ともに立体構造の分解能が2次構造を解像できるレベルに到達した。その結果、構成タンパク質の部分X線結晶構造を当てはめて信頼性の高い原子モデルの構築が可能になり、モーターのトルク発生と回転スイッチの機構について興味深いメカニズムが明らかになるとともに、多数のタンパク質が順序よく自己集合して構築されるべん毛基部体の自己構築メカニズムについても理解が深まった。
当該科研費によるプロジェクトと並行して2010年から日本電子(株)と共同開発し、2016年夏にプロトタイプが完成した、高度に自動化された新型クライオ電子顕微鏡CRYO ARMが2017年春に安定稼働し、当初3.2Å分解能を達成したテスト試料の酵素複合体の構造解析では、2017年夏に自動撮影が可能になったこともあり、3日間で撮影した2500枚のクライオ電顕像から35万の分子像を得て2.6Åの分解能を達成し、局所分解能は2.0Åに近いことを確認した。今後はこのCRYO ARMを活用し、単粒子像解析法の一層の工夫により到達分解能と計測解析の時間短縮を図ることで、べん毛モーターの回転子や固定子、骨格筋のアクトミオシンモーター、トロポミオシン・トロポニンを含む心筋の細いフィラメントのCaイオンによる筋収縮制御系、その他さまざまな生体超分子の立体構造解析を一層高い分解能で行う。そして、分子モーターのブラウニアン・ラチェット機構など、その動作メカニズムと高効率なエネルギー変換機構を解明し、生体分子ナノマシンが熱ゆらぎを活用することで実現している、人工機械には達成不可能なほど高効率なエネルギー変換のための動的分子構造メカニズムについて、一層明確な構造基盤の確立を目指す。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 1件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (48件) (うち国際学会 7件、 招待講演 9件) 図書 (7件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (3件)
Sciences Advances
巻: 4 ページ: eaao7054
10.1126/sciadv.aao7054
BBRC
巻: 495 ページ: 1789-1794
10.1016/j.bbrc.2017.12.037
巻: 496 ページ: 12-17
10.1016/j.bbrc.2017.12.118
Sci. Rep.
巻: 8 ページ: 1787
10.1038/s41598-018-20209-3
Biophysics and Physicobiology
巻: 15 ページ: 28-32
10.2142/biophysico.15.0_28
Cell Rep.
巻: 19 ページ: 895-901
10.1016/j.celrep.2017.04.030
Mol. Microbiol.
巻: 105 ページ: 572-588
10.1111/mmi.13718
PLOS Biol.
巻: 15 号: 8 ページ: e2002281
10.1371/journal.pbio.2002281
巻: 491 ページ: 1040-1046
10.1016/j.bbrc.2017.08.007
巻: 106 ページ: 646-658
10.1111/mmi.13843
Science Advances
巻: 3 ページ: eaao0419
10.1126/sciadv.aao4119
巻: 14 ページ: 191-198
10.2142/biophysico.14.0_191
Genes to Cells
巻: 23 ページ: 241-247
10.1111/gtc.12565
Bio-protocol
巻: 7 号: 1 ページ: e2529
10.21769/BioProtoc.2529
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/general/lab/02/result/