研究課題
べん毛モーターの回転機構の解明をめざして進めてきたべん毛基部体のクライオ電子顕微鏡による構造解析では、昨年から一層の進捗があった。信号タンパク質CheY-Pの非存在下では反時計回りにのみ回転する野生型モーターと、時計回りにのみ回転する変異型モーターの、2つの構造モデルを構築して精密化し、回転スイッチに関わる構造変化を明らかにしたとともに、モーター回転子のコア部分で膜貫通型タンパク質FliF複合体のMSリング、その中心部に結合する3種類の膜タンパク質FliP, FliQ, FliRからなる3型べん毛タンパク質輸送ゲートのらせん状複合体、そしてさらにその上に5種類のタンパク質FliE, FlgB, FlgC, FlgF, FlgGが順番にらせん状に重合してドライブシャフトとして働くロッドの構造についても、この巨大な複合体の全体構造を5Å分解能で解析し、各構成タンパク質の結晶構造やクライオ電顕による高分解能MSリング構造を組合わせて、分子モデルを構築することに成功した。両成果ともに投稿論文作成中である。心筋のトロポミオシン・トロポニン・アクチン繊維からなる細いフィラメントのクライオ電顕による構造解析では、トロポミオシンの全長の分子モデルを初めて構築してトロポミオシン間のジャンクション構造を明らかにするとともに、トロポニンを構成するの3種類のサブユニットがアクチン繊維の極めて広い領域にわたって結合する様子を解明した。また、Caイオン存在下と非存在下における2状態の構造を明らかにし、筋収縮の制御のしくみを支える構造変化を明らかにした。当該研究課題と並行して2010年から日本電子(株)と共同開発し、2016年夏にプロトタイプが完成した高度に自動化した新型クライオ電子顕微鏡CRYO ARM 200(加速電圧200kV)では、2017年夏に3日間の自動撮影で収集した約2500枚のβガラクトシダーゼの電顕像(35万粒子像)から2.4Å分解能を達成したが、その商用製品1号機として2018年6月に理研SPring-8センターに導入設置されたCRYO ARM 300(300kV)ではアポフェリチン球殻状構造のクライオ電顕像を撮影し、1日で自動撮影したわずか840枚の電顕像(12万粒子像)から、世界最高となる1.53Å分解能を達成した。この商用機はプロトタイプにはない冷陰極電界放射型電子銃(Cold FEG)が装備されているため電子線の干渉性がより高く、しかも300kVという高い加速電圧も寄与して電子光学系の解像度は1.0Å分解能に近いことがわかっている。今回得たアポフェリチンの3次元像マップでは、トリプトファン側鎖の五員環に孔が空き、メチオニン側鎖の炭素原子と硫黄原子のサイズに明確な違いが見えるなど、その解像度は原子分解能に近いもので、生体分子水溶液試料の構造解析における原子分解能の達成にむけて、Cold FEGを装備したクライオ電子顕微鏡の極めて大きなポテンシャルを示した。
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mBio
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Structure
Sciences Advances
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http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/general/lab/02/result/