研究課題
分裂酵母のリン酸化酵素カゼインキナーゼ(CK1)の減数分裂期における機能解析を進めた結果、CK1が組換え反応に必要であり、その制御はCK1によるコヒーシン複合体のサブユニットの一つであるRec11のリン酸化を介していることを明らかにした。また、このRec11のリン酸化は軸様構造体の構成因子であるRec10との結合に必要であり、この結合を介して軸様構造体が形成されることも示した。さらに、コヒーシンは、この軸様構造体を形成することにより、組換え反応の開始に必須な因子を染色体へと呼び込んでいることも明らかにした(Dev Cell 2015)。今回明らかになった機構がヒトでも保存されていると考えられ、本研究の成果は将来的にはヒトの不妊あるいはダウン症などの原因解明に寄与すると期待される。減数分裂の染色体分配の特徴の一つは、姉妹動原体が同じ極から伸びた微小管によって捉えられることにある。我々は、マウスの生殖細胞で特異的に発現する新規の動原体タンパク質MEIKINを同定し解析を進め、MEIKINは、Moa1と同様にPolo-likeキナーゼを動原体に呼び込む働きがあり、それにより動原体の一方向性が成立することを明らかにした。また、減数第一分裂のときに、染色体接着保護因子シュゴシンと協調して、セントロメアの接着を保護する機能を合わせもつことも明らかにした(Nature 2015)。シュゴシンの欠損と染色体不安定性の関係において、培養細胞レベルで強い相関が見いだされた。コヒーシンの局在とヒストンH3のK9のメチル化がシュゴシンの機能を増強しており、癌細胞などでこれらの経路に異変がある可能性が示唆された。多くのがん細胞株において、シュゴシンを正しく局在するように修正することにより、染色体分配の不安定性が戻ることを示す実験に成功した(論文準備中)。
2: おおむね順調に進展している
コヒーシンが染色体軸形成を促進する分子機構を明らかにできた。また、酵母の研究をベースにして8年がかりで進めてきた、マウスの新規動原体タンパク質MEIKINの仕事がNature(Article)に論文として発表できたことは大きい。シュゴシンと癌の関係については、そこに関わる分子経路の解析が大きく進んだので、論文作成の段階にきている。
現在、ヒトの細胞で、癌化における染色体不安定化機構に、シュゴシンの局在不全が中心的な働きをしていることを示唆するデータを得た。今後は、ヒトの腫瘍を多数採取して、シュゴシンの局在に異変があるか調べる。マウスの生殖細胞でテロメアを中心とした染色体運動に関わる新規タンパク質の解析を進める。スピンドル形成チェックポイント(SAC)の解析を進める中で、SAC因子の全く新しい機能(染色体を整列させる機能)を見いだした。これについては、最終的な詰めの実験を進め、論文作成をめざす。マウスの生殖細胞で特異的に発現する因子の検索を網羅的に進めており、その中で減数分裂特異的に中心体に局在する新規因子を見いだした。これらの因子の機能解析のために、CHRISPR/CAS9のノックアウトマウス作製法を自身の研究室で動かせるようにする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Developmental Cell
巻: 32 ページ: 220-230
10.1016/j.devcel.2014.11.033
Nature
巻: 517 ページ: 466-471
10.1038/nature14097
Cell cycle
巻: 13 ページ: 2024-2028
10.4161/cc.29350.014
http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/watanabe_lab/Home.html