研究課題
ヒトの正常細胞では46本の染色体が安定に維持されているのに対して、がん化した細胞では染色体の異数性が頻繁に見られる。細胞分裂のときの染色体分配の異常は、染色体数およびゲノムの不安定性を誘発し、細胞のがん化およびその悪性化を促進すると考えられている。この染色体の分配異常を引き起こす分子機構については、その主要な分子機構は不明であった。今回、染色体分配異常を示すがん組織由来の細胞株の多くで、染色体のセントロメアの特異的な制御機構インナーセントロメア・シュゴシン(ICS)ネットワークが不安定になっていることを見出した(Science 2015)。本研究は、細胞のがん化の鍵となるゲノムの不安定性を引き起こす普遍的な分子機構を明らかにした可能性が高く、制がん剤の開発に新たな方向性を与える成果といえる。生殖細胞の減数分裂過程では、染色体の末端「テロメア」が中心的な役割をすると考えられているが、その分子メカニズムの理解は進展していなかった。本研究では、マウスの生殖細胞において、テロメアの構造を減数分裂に特化した構造へと変化させる特殊なタンパク質MAJINとTERB2を発見した。MAJIN-TERB2は、テロメアを保護するシェルタリンをDNAから外すことで直接テロメアDNAに結合し、テロメアDNAを核膜に融合させる活性を持つことが明らかとなった。さらに、MAJINおよびTERB2遺伝子のノックアウトマウスの解析から、MAJIN-TERB2が形作るテロメア構造が生殖細胞の形成に必要不可欠な構造であることを証明した(Cell 2015)。
2: おおむね順調に進展している
シュゴシンの機能不全が、がん細胞の産生につながっていることを示唆する結果を得ることが出来、論文にすることが出来た。また、酵母を用いた研究より、染色体の整列に関わる重要な分子機構を発見し論文として出版することが出来た。マウスを用いた研究において、研究室の柱となる新規動原体タンパク質MEIKINの論文を出版することができた。
がん細胞の産生に関わるICSネットワークの分子機構の解析を進めており、特にその中に重要な制御因子ハスピン・キナーゼの局在分子機構を解明する予定である。また、複数のがん原因遺伝子のICSネットワークへの関与についても検討を加え、その分子機構を解析する予定である。減数分裂細胞の動原体制御の司令塔因子MEIKINの分子機能の一つとして、シュゴシンを正しく局在化させる働きがあることを見つけ、現在その分子機能を解析している。また、減数分裂に先立ち、相同染色体がペアする相手を探す過程があるが、その分子機構は分かっていない。酵母およびマウスを用いた研究により、その分子機構を明らかにする予定である。
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http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/watanabe_lab/Home.html