研究課題
(1)約300種類の逆行性シグナル関連候補遺伝子のうち、プルキンエ細胞で高い発現を示す60種類のスクリーニングを終了した。延髄と小脳の共培養系において、ノックダウン(KD)ベクターを用いて、プルキンエ細胞特異的に標的分子をmicroRNAによりKDし、共培養開始後15-18日において登上線維刺激によるシナプス電流をプルキンエ細胞から記録し、シナプス刈り込みに影響を与える分子として4個を同定した。(2)この4分子について、生後2日のマウス小脳にKDベクターを注入し、プルキンエ細胞特異的に標的分子のKDとGFP発現を生じさせた。生後8-11日、生後12-14日、生後22-30日に小脳スライスを作製し、標的分子がKDされたプルキンエ細胞(GFP陽性)と正常プルキンエ細胞(GFP陰性)から記録をして、電気生理学的に登上線維の支配パターンを調べた。その結果、Sema3AのKDでシナプス刈り込みの促進が、Sema7AのKDでは刈り込みの阻害がみられた。また、細胞認識分子であるneuroligin 2のノックアウト(KO)マウスにおいて、後期刈り込みに障害をみとめた。また、分泌性細胞認識分子のプルキンエ細胞特異的KOマウス作製を開始した。(3)Seina3Aの受容体Plexin A4、及びSema7Aの受容体Plexin C1またはIntegrin B1のmRNAが登上線維の起始核である下オリーブ核に強く発現することを確認した。これらを登上線維でKDするために、生後2日のマウス延髄の下オリーブ核にKDベクターを注入し、生後12-14日および生後22-30日に電気生理学的解析を行った。Plexin A4およびPlexin C1/Integrin B1のKDの効果はSema3A及びSema7AのKDと同じであった。(4)麻酔下のマウス小脳に膜透過性のCa(2+)指示薬OGB-1を注入して多数のプルキンエ細胞に取り込ませ、2光子顕微鏡による多細胞同時Ca(2+)メージングにより、登上線維活動を計測した。野生型マウスの生後発進を解析するとともに、新たなCa(2+)指示薬Cal-520の性能評価を行った。(5)内因性カンナビノイド(2-アラキドノイルグリセロール : 2-AG)の合成酵素DGLαと受容体CB1のKOマウスの小脳登上線維シナプスの刈り込みを調べたが、顕著な異常はなかった。また、側坐核の電気生理学的解析から、DGL α KOマウスでは興奮性シ十プスにおいてGluN2Bを含むNMDA受容体機能が低下していることを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度の交付申請書に記載した研究計画については、殆どの項目において達成し、ほぼ満足できる結果を得られた。中には、当初の予想をはるかに超えて進展しているものもある。特に、1. プルキンエ細胞発現分子の網羅的スクリーニングと候補分子の絞り込みは、約300種類の逆行性シグナル関連候補遺伝子のうち、プルキンエ細胞で高い発現を示す60種類のスクリーニングを終了している。この実験は、プルキンエ細胞に強い発現を示すものを優先的に行っており、一般的に発現レベルの低いものはpositiveな結果が得られる見込みが低いことを考慮すると、実質的には、スクリーニングを7割程度終了したと言える。これを踏まえて、2. プルキンエ細胞に存在する候補分子のin vivo実験系による解析もきわめて順調に進み、Sema3AとSema7Aがシナプス刈り込みを制御する逆行性シグナル伝達分子であることを明らかにした。さらに、3. 登上繊維に発現する分子の解析において、Sema3AとSema7Aが、登上線維に発現するそれぞれの受容体に作用してシナプス刈り込みを制御することを見出した。これらの成果は論文にまとめ、現在revisionの段階に来ている。一方、当初平成25年度に予定していた下オリーブ核に発現する候補分子のプロファイリングであるが、これに必要な下オリーブ核でGFPを発現するトランスジェニックマウスの精子を購入しようとした。しかし、提供先から精子の状態が悪く、再作成する必要があるとの連絡を受け、平成26年1月にようやく入手できたが、平成25年度中のプロファイリングが実施不可能となり、5ヶ月延長変更し平成26年度に計画を遂行せざるを得ななった。しかしながら、全体としてみれば、当初の計画以上に進展していると考えることができる。
1. プルキンエ細胞発現分子の網羅的スクリーニングと候補分子の絞り込み :2. プルキンエ細胞に存在する候補分子のin vivo実験系における登上線維シナプス刈り込みへの関与の解析 : 現在、in vivoでのスクリーニング系の効率が格段に進歩しているので、今後は、in vitroの共培養標本を用いることなく、直接in vivoの実験系でスクリーニングを進める。プルキンエ細胞での発現レベルが高いものを中心に候補遺伝子のスクリーニングを平成26年度にほぼ終了する。シナプス刈り込みに関与する分子に関して、in situ hybrydyzationや免疫染色による発現解析を行う。(狩野担当)。既存のKOマウスの解析を平成29年度まで継続する(橋本担当)。平成25年度に作製を開始した分泌性細胞認識分子のプルキンエ細胞特異的KOマウスをはじめとして、新たに作製した逆行性シグナル関連分子のKOマウスの解析を行う。(狩野、橋本担当)。新たに同定した逆行性シグナル関連分子のうち、既存のKOマウスが入手できないものや、部位特異的KOマウスの作製が必要なものを新たに作製する(崎村担当)。これらは、いずれも平成29年度まで継続する。3. 登上線維に存在する候補分子のシナプス刈り込みへの関与の解析 : 平成25年度に引き続き、下オリーブ核細胞にmRNAが発現する分子のプロファイリングを行う。候補分子を下オリーブ核においてKDし、発達期の登上線維シナプスに与える影響を電気生理学的に解析する。平成29年度まで継続する。(狩野担当)。既存のノックアウトマウスを解析するとともに(橋本担当)、必要に応じて、新たにKOマウスを作製する(崎村担当)。これらは平成29年度まで継続する。4. バーグマングリアに発現する候補分子の登上線維シナプス刈り込みへの関与の解析 : 平成26年度に、バーグマングリアに発現する候補遺伝子のプロファイリングを行い(狩野担当)、平成27年度から登上線維シナプス刈り込みの解析を開始し、平成29年度まで継続する(狩野、橋本担当)。必要に応じて、新たにKOマウスを作製する(崎村担当)。平成29年度まで継続する。5. 登上線維の挙動のリアルタイム解析 : 2光子顕微鏡によりin vivoで登上線維の挙動を観察する。平成26年度に野生型マウスで条件検討し、平成27~29年度にKDまたはKOマウスを解析する(狩野担当)。6. 小脳神経回路の動作の解析 : 登上線維シナプス刈り込みに異常があるKDまたはKOマウスにおいて、in vivoでプルキンエ細胞集団のCa(2+)メージングにより登上線維活動の時空間パターンを計測し、刈り込み異常がin vivoの神経回路機能に影響するかを調べる。平成29年度まで継続する(狩野担当)。7. 大脳バレル皮質の受容野マップ形成の解析 : 平成27年度から29年度まで実施する。小脳においてシナプス刈り込みに関わることが判明した分子のうち、代表的な分子のKDが、大脳バレル皮質のシナプス機能と受容野マップ形成に果たす役割を調べる(狩野担当)。8. 内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達の機能的神経回路形成における役割 : DGLαとCB1のKOマウスを中心に、内因性カンナビノイド系がシナプス伝達と機能的神経回路発達に果たす役割を、海馬と大脳バレル皮質を中心に解析する(狩野、少作担当)。平成29年度まで継続する。
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