研究課題
◆平成26年度にプルキンエ細胞で高い発現を示す候補遺伝子204個を新たにスクリーニングした。これらを5個から10個ずつのグループに分け、胎生12日のマウスプルキンエ細胞にこれらの遺伝子のノックダウン(KD)ベクターを子宮内電気穿孔法で導入して標的分子のKDとGFP発現を実現した。生後19-30日に小脳スライスを作製し、複数の標的分子がKDされたプルキンエ細胞(GFP陽性)と正常プルキンエ細胞(GFP陰性)から記録して、電気生理学的に登上線維の支配様式を調べた。異常が見られたグループでは、含まれる遺伝子を2グループに分割して同様の解析を行い、異常が見られたグループの遺伝子をさらに分割してKDと解析を繰り返すことで、シナプス除去に関わる候補遺伝子を新たに8種類同定した。平成25年度にスクリーニングした60遺伝子に加え、平成26年度までにプルキンエ細胞に発現する候補遺伝子264個のスクリーニングが終了した。◆自閉症患者にみられるneuroligin 3の点変異を再現したマウスにおいて、登上線維シナプス刈り込みの異常を認めた。また、脳由来神経栄養因子(BDNF)のプルキンエ細胞特異的ノックアウト(KO)マウス及び分泌性細胞認識分子granulinのプルキンエ細胞特異的KOマウスを作製し、解析を開始した。◆BDNFの受容体であるTrkB、P75およびgranulinの受容体の候補を生後1~2日のマウス延髄の下オリーブ核にKDベクターを注入して登上線維特異的にKDし、生後12-14日および生後22-30日に電気生理学的解析を行った。その結果、BDNFは登上線維のTrkBに作用してシナプス除去を促進すること、またgranulinの受容体候補のKDはシナプス刈り込みを促進するという予備的結果を得た。◆アストログリア特異的なプロモーターとレンチウイルスベクターを用い、幼若期からバーグマンググリア特異的に遺伝子発現させる技術を確立した。◆登上線維にGFPを発現するマウスを用い、生後10~15日に登上線維の挙動をin vivoで観察する技術を確立した。◆生後第1週目と2週目のマウス小脳から多数のプルキンエ細胞の活動を、2光子顕微鏡によるin vivoの多細胞同時Ca(2+)imagingにより計測し、登上線維応答の生後発達を調べた。◆鳥取大学の畠との連携により、大脳視覚野の機能的神経回路発達に内因性カンナビノイドの2-アラキドノイルグリセロールが関与するという予備的結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
当初平成26年度に計画した研究内容については順調に達成し、ほぼ満足できる結果を得られた。中には、当初の予想をはるかに超えて進展したものもある。「1. プルキンエ細胞発現分子の網羅的スクリーニングと候補分子の絞り込み」及び「2. プルキンエ細胞に存在する候補分子のin vivo実験系による解析」では、約300個の逆行性シグナル関連候補遺伝子がスクリーニングの対象となった。平成25年度にプルキンエ細胞で高い発現を示すものから60個のスクリーニングを行ったのに引き続き、平成26年度には204個のスクリーニングを行い、これまで264個のスクリーニングを終了した。スクリーニングは、ほぼプルキンエ細胞に強い発現を示すものから順番に行っており、一般的に発現レベルの低いものはpositiveな結果が得られる見込みが低いので、実質的には、スクリーニングはほぼ終了したと言える。現在まで10種類以上の遺伝子がシナプス刈り込みに関わる逆行性シグナルの候補として絞り込まれており、今後はその詳しい解析を進めることになる。「3. 登上線維に発現する分子の解析」においては、候補分子のプロファイリングを終了し、プルキンエ細胞側からのシグナルの受容体の候補を登上線維側でノックダウンし、BDNFとgranulinが、登上線維に発現するそれぞれの受容体に作用してシナプス刈り込みを制御することを見出した。これらの成果は論文にまとめ、現在投稿間際の状態にある。これら以外の研究項目については、バーグマングリアに発現する候補遺伝子のスクリーニングをはじめとして、平成27年度からの本格的に研究に備えて実験系を確立するなど、ほぼ予定どおりに進行した。以上から、全体としてみれば、当初の計画以上に進展していると考えることができる。
平成25、26年度の進展を踏まえ、今後は以下の方策のもとに研究を推進する。1. プルキンエ細胞に存在する候補分子の登上線維シナプス刈り込みへの関与の解析 : プルキンエ細胞に発現する候補遺伝子のスクリーニングがほぼ終了し候補遺伝子が絞り込まれたので、平成27年度以降はこれらの詳しい電気生理学的解析を行う。また、シナプス刈り込みに関与する分子に関して、insitu hybridizationや免疫染色による発現解析を行う(狩野担当)。既存のKOマウスの解析を平成29年度まで継続する(橋本担当)。これまでに崎村が作製した候補遺伝子のKOマウスについて、シナプス刈り込みの異常の有無についての解析を行う(狩野、橋本担当)。新たに同定した逆行性シグナル関連分子のうち、既存のKOマウスが入手できないものや、部位特異的KOマウスの作製が必要なものを新たに作製する(崎村担当)。これらは、いずれも平成29年度まで継続する。2. 登上線維に存在する候補分子のシナプス刈り込みへの関与の解析 : プルキンエ細胞からの逆行性シグナル候補分子と相互作用することが予測される候補分子を中心に、下オリーブ核においてKDし、発達期の登上線維シナプスに与える影響を電気生理学的に解析する。平成29年度まで継続する(狩野担当)。既存のノックアウトマウスを解析するとともに(橋本担当)、必要に応じて、新たにKOマウスを作製する(崎村担当)。これらは平成29年度まで継続する。3. バーグマングリアに発現する候補分子の登上線維シナプス刈り込みへの関与の解析 : 候補分子のmiRNAをバーグマングリアに発現させるレンチウイルスベクターを生後1日のマウス小脳に注入し、生後12-14日または生後19-30日にプルキンエ細胞の登上線維の支配様式を電気生理学的に解析する(狩野、橋本担当)。必要に応じて新たにKOマウスを作製する(崎村担当)。平成29年度まで継続する。4. 登上線維の挙動のリアルタイム解析 : 下オリーブ核にCa(2+)indicatorのGCaMPを発現させ、2光子顕微鏡によりin vivoで登上線維の活動によるCa(2+)signalと登上線維の挙動をリアルタイム観察する(山梨大・喜多村と連携)。平成27年度に野生型マウスで条件検討を行い、適宜、代表的な逆行性シグナル分子のKDまたはKOマウスの解析を開始し、平成29年度まで継続する(狩野担当)。5. 小脳神経回路の動作の解析 : 登上線維シナプス刈り込みに異常があるKDまたはKOマウスにおいて、in vivoでプルキンエ細胞集団のCa(2+)imagingにより登上線維活動の時空間パターンを計測し、刈り込み異常がin vivoの神経回路機能に影響するかを調べる。平成29年度まで継続する(狩野担当)。6. 大脳皮質のシナプス機能と発達の解析 : 平成27年度から29年度まで実施する。小脳においてシナプス刈り込みに関わることが判明した分子のうち、代表的な分子のKDが、大脳バレル皮質または前頭皮質のシナプス機能と発達に果たす役割を調べる(狩野担当)。7. 内因性カンナビノイドによる逆行性シナプス伝達の機能的神経回路形成における役割 : DGLαとCB1のKOマウスを中心に、内因性カンナビノイド系がシナプス伝達と機能的神経回路発達に果たす役割を、海馬、大脳バレル皮質(大阪大・木村と連携)、大脳視覚野(鳥取大・畠と連携)を中心に解析する(狩野、少作担当)。平成29年度まで継続する。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 1件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (28件) (うち招待講演 4件)
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