研究課題
本研究は、放射線や環境変異原による体細胞や生殖幹細胞の突然変異リスクを、組織細胞の「場」、つまり組織の構築を壊すことなく生きたままの状態で測定するマウスおよびメダカシステムを作製することを第一の目標としている。具体的には、(1)突然変異が生じると細胞が生きたまま光る(GFP陽性となる)システムを個体レベルで達成する。(2)これを用いて、既存の系とは全く異なり、より直接的に体細胞突然変異リスクを評価することが可能な実験システムを確立する。最終的には、組織の再構築の場である組織幹細胞と、それから派生する分化して機能する細胞に対する環境・放射線リスク評価を個体を構成する全ての細胞についてin vivo、in situで可能とし、内在する分子メカニズムや遺伝的背景の影響研究へと踏み込む。(3)世界共通のin vivoリスク評価系としてのモデル動物を確立し、実用化レベルまで検査法を整えた後、広く配布する。本年度は、作製したモデルマウスシステムの応用のひとつの可能性として、生殖幹細胞のin vivoおよびin vitro放射線誘発突然変異検出のシステム構築を始めた。また、モデルメダカシステムも完成し、放射線の影響の有無を検証する実験に着手した。少なくとも、体細胞のモザイシズムは発生の段階から観察できることを確認した。同時に、モデル動物の遺伝的背景を改変する目的でのTALEN-CRISPR システムの導入もマウス、メダカで行い、いくつかの修復遺伝子変異系統を作製した。組織幹細胞における突然変異成立メカニズム研究の材料は揃った。
2: おおむね順調に進展している
体内で生じる突然変異を生きたまま、ライブでとらえる(突然変異細胞が光る)事が可能なマウス系統(HPRTdupGFPマウス)の作製に成功した。このマウスでは少なくとも、肝臓、膵臓、小腸、肺、脾臓リンパ球、甲状腺上皮、精原細胞などで生じた突然変異細胞が蛍光顕微鏡下と凍結組織切片で観察できることが確認された。また、フローサイトメーター解析では、組織由来の変異細胞を生きたまま検出、分離が可能であった。マウス系統の確立を報告する論文をPlosOne 誌にて発表した。また、胎児被爆の影響を染色体レベルで解析した結果をRadiation Research誌にて発表した。マウスの商業的用途としては、日本国内特許を取得してある。研究用途としては広く配布する事を目的として公共の変異マウス資源バンク(例えば国立医薬基盤研究所バンク、理化学研究所生物資源バンク、アメリカジャクソン研究所マウス資源バンク)に寄託する予定である。第二世代ノックインマウスとして、がん抑制遺伝子p53に変異が生じると細胞が光るマウスも作製され、有効性を検証するところまで到達した。メダカで作製したHPRTdupGFP システムは機能し、突然変異で細胞が光る事を確認した。p53のLOH発生に依存した癌の発生をモニターするシステム(Mit-xmrk/p53(+/-))が実用段階に入った。体の中で生じる突然変異細胞の全ゲノム解析のシステム構築も引き続き行った。分化した体細胞と、未分化組織幹細胞の突然変異成立過程の相違について、in vitro, in vivoでの実験システムを構築しつつある。生殖幹細胞の培養と移植実験に着手した。
マウスシステムHPRTdupGFPマウス:放射線や環境変異原被ばくによる組織幹細胞および生殖幹細胞の突然変異誘発リスクを評価することを目的として、マウス精原幹細胞の培養とマウス精巣への移植実験を行う。これにより、体細胞と生殖細胞では突然変異成立のメカニズムがどの様に異なるか、明らかとなると期待している。HPRTdupGFPの復帰突然変異をマーカーとして、変異細胞の全ゲノム解析も視野に入れている。p53-GFPマウス:In vivo発がんのモデル実験を行う。放射線発がんよりも結果が早く得られる化学発がんの実験系を試みる。まずは、DMBA投与によって生じるがんがp53の変異を介して光るか否か検証する。メダカシステムHPRTdupGFPメダカ:28年度にトランスジェニックメダカが完成した。今後、放射線の影響を測定する。p53、ATM、 BRCA1、Rev1アリルを欠損したメダカと交配することにより変異細胞の検出感度上の有無を検証する。生殖細胞変異測定。精原細胞と減数分裂後の精細胞の変異頻度の比較を行う。Mit-xmrk/p53(+/-)メダカ:今後の作業:近交系Mit-xmrkとp53(+/-)を交配して目的メダカを作製する。発生メラノーマと放射線によるp53アリルのLOHについて解析する。本研究の総括:マウスとメダカを用いて、放射線や環境変異原で誘発される体細胞、生殖細胞突然変異を個体レベルで測定するモデルシステムの完成、リスク評価への応用について有用性を評価する。
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