研究課題/領域番号 |
25220103
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
熊谷 嘉人 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00250100)
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研究分担者 |
赤池 孝章 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20231798)
蕨 栄治 筑波大学, 医学医療系, 講師 (70396612)
石井 功 慶應義塾大学, 薬学部, 准教授 (90292953)
西田 基宏 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 心循環シグナル研究部門, 教授 (90342641)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 親電子物質 / シグナル伝達 / 環境応答 / 化学修飾 / 活性イオウ分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、環境中親電子リガンドによるセンサータンパク質の化学修飾を起点とした親電子シグナル伝達の活性化と破綻および活性イオウ分子(RSS)が本シグナル伝達を制御することを立証し、環境中親電子物質の毒性メカニズムを解明し、その健康リスクを軽減するための分子基盤を提供することを目指している。 A431細胞もしくはマウス初代肝細胞を1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)に曝露すると、HSP90/HSF-1およびAkt/CREB/Bcl-2シグナル活性化が認められ、RSS産生酵素であるCSE/CBSのノックダウンで増強した。血管内皮細胞におけるカドミウム(Cd)曝露によるHSP90/HSF-1シグナルも同様で、CSE/CBSのノックダウンで増強し、CSEの高発現で低下した。一方、ポリスルフィドであるNa2S4を1,4-NQもしくはCdと同時曝露すると、細胞内タンパク質の親電子修飾および当該シグナル活性化が減弱したことから、RSSが環境中親電子物質の侵入前に細胞外でも捕獲・不活性化することが示唆された。 また、アセトアミノフェン(APAP)の親電子代謝物であるN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)の肝毒性におけるCSEおよびRSSの寄与について検討した結果、APAP投与による肝傷害は、野生型マウスと比較してCSE欠損マウスにおいて顕著に見られた。一方、RSSのひとつであるNaHS前処理により、CSE欠損マウスにおけるAPAP肝傷害は有意に抑制された。さらに、APAP投与マウスの尿、肝および血清をUPLC-MS/MS解析したところ、NAPQIにシステインのポリスルフィドならびにグルタチオンパースルフィドのようなRSSが反応したAPAPのイオウ付加体の同定に世界で初めて成功した。これらの知見は、生体内で産生された親電子物質の解毒にRSSが関与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は、環境中親電子リガンドによるレドックスシグナル伝達変動における、今まで未知であったRSSの役割を培養細胞レベルで明らかにすることを計画しており、それを実行した。 親電子有機物質のモデルである1,4-NQによるHSP90/HSF-1およびAkt/CREB/Bcl-2シグナル、親電子金属のモデルであるCdによるHSP90/HSF-1シグナルの活性化がCSE/CBSのノックダウンおよびポリスルフィドであるNa2S4の同時曝露に起因するRSS量の変動により制御されることを示した。また、親電子物質のイオウ付加体についてESI-MSおよびFT-ICR-MSで解析した結果、種々の活性イオウ分子はMeHgだけでなく、1,2-NQ、1,4-NQ、Cdおよびアクリルアミドにおいても、それぞれ構造の異なるイオウ付加体が検出できた。 さらに、平成28年度に行う予定であった個体レベルでの検討も前倒しで行い、APAPの親電子代謝物であるNAPQIおよびMeHgによる毒性は、生体内のRSS量によって制御される可能性を見出した。 平成27年度は、本研究課題に関する22報の原著論文を刊行した。 以上の研究成果により、現在までの研究状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画である個体レベルでの環境中親電子物質曝露による有害性に対するRSSの役割に加えて、RSSによる環境中親電子物質の捕獲・不活性化で生じたイオウ付加体の生体内運命の解明を新たな課題として検討する予定である。すなわち、平成28および29年度は、1)環境中親電子リガンド曝露によるレドックスホメオスタシスの破綻、2)天然成分を利用した環境中親電子物質のリスク軽減、および3)環境中親電子物質のイオウ付加体の生体運命に関する検討を行う。 1) 環境中親電子リガンド曝露マウス中のRSS量の変動を安定同位体希釈法で定量し、曝露量依存的なRSSの減少の程度を調べる。 2) 天然成分として、ニンニク中RSSに着目し、当該成分を単離・精製した後にCSE欠損マウス、Nrf2/CSE二重欠損マウスおよび野生型マウスに投与し、RSS量の差異に起因した環境中親電子リガンド曝露時に見られる用量依存的な生体影響の変動を観察する。 3) 親電子物質のモデル化合物としてMeHgを用い、RSSを介した代謝物であるビスメチル水銀サルファイド(MeHg)2Sが、生体内でさらにRSSと反応して排泄される可能性について検討する。
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