研究課題
本研究は、環境中親電子リガンドによるセンサータンパク質の化学修飾を起点とした親電子シグナル伝達の活性化と破綻および活性イオウ分子(RSS)が本シグナル伝達を制御することを立証し、環境中親電子物質の毒性メカニズムを解明し、その健康リスクを軽減するための分子基盤を提供することを目指している。A431細胞もしくはマウス初代肝細胞を1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)に曝露すると、HSP90/HSF-1およびAkt/CREB/Bcl-2シグナル活性化(低濃度)および細胞毒性(高濃度)が活性イオウ分子(Na2S4)を曝露することで共に抑制された。その原因が環境中親電子物質のイオウ付加体によると考え、FT-ICR/MSおよびLC/MS/MS解析を行った。特に1,4-NQとNa2S4との反応生成物については、分取用カラムクロマトグラフィーで単離・精製し、最終的に600 MHz NMRおよびCOSY解析により生成物の構造決定に成功した。SH-SY5Y細胞をMeHgに曝露することで、レドックスシグナル伝達のひとつであるPTEN/Aktシグナルが低濃度曝露では活性化、高濃度曝露で破綻することを見出した。安定同位体希釈法を用いたLC/MS/MSによる活性イオウ分子(システインパースルフィド、グルタチオンパースルフィドおよびそれらのポリスルフィド)の定量法を確立し、マウスの各種臓器および培養細胞中の活性イオウ分子を定量した。また、MeHgをマウスに投与して、各種臓器中活性イオウ分子量の変動を調べた。ニンニクのヘキサン抽出画分を順相カラムクロマトグラフィーにより分離し、複数のフラクションに活性イオウ分子を含有する低分子が存在することが明らかとなった。活性イオウ分子産生酵素であるcystathionine γ-lyase(CSE)のトランスジェニックマウスの作成に成功した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、環境中親電子物質によるレドックスシグナル伝達変動および細胞毒性について検討した。1,4-NQおよびカドミウムの低濃度曝露によるHSP90/HSF-1およびPTEN/Aktシグナル活性化には、センサータンパク質であるHSP90およびPTENの反応性システイン残基への共有結合が関与していることが示された。これまで得た研究成果を総合すると、種々の環境中親電子物質はPTP1B/EGFRシグナル、Keap1/Nrf2シグナル、HSP90/HSF-1シグナルおよびPTEN/Aktシグナルのようなレドックスシグナル伝達をセンサータンパク質の化学修飾を介して引き起こすことが明らかとなった。一方、種々の環境中親電子物質と活性イオウ分子を反応させると、それぞれのイオウ付加体が生成することを確認している。特に、1,4-NQについては600 MHz NMRにより本生成物が2-[(1,4-dioxonaphthalen-2-yl)sulfanyl]-3-hydroxynaphthalene-1,4-dioneであることを見出した。培養細胞を用いた実験より、本生成物は1,4-NQのような細胞内タンパク質の化学修飾能、PTEN/Aktシグナル活性化および細胞毒性を示さないことから、活性イオウ分子は1,4-NQを捕獲・不活性化することが示唆された。CSE欠損マウスがMeHgやアクリルアミドに対して高感受性であることから、予定していなかったCSEトランスジェニックマウスの作成を実施した。得られたマウスの各臓器中でCSEは高発現していた。平成28年度は、本研究課題に関する11報の論文(原著および総説)を刊行した。以上の研究成果により、現在までの研究状況は概ね順調であると言える。
本年度は最終年度であることから、当初予定課題に加えて、検討が十分でない環境中親電子物質(鉛)によるセンサータンパク質の化学修飾を介したレドックスシグナル伝達の活性化を調べる。また、CSEトランスジェニックマウスが作成できたので、これを用いての実験も展開する。さらに、MeHgのイオウ付加体の生体運命に関する検討も行う。1)ウシ血管内皮細胞を鉛に曝露して、Keap1の化学修飾を介したNrf2活性化とそれに起因する下流遺伝子群の転写誘導および活性イオウ分子の効果を調べる。2) ニンニクのヘキサン抽出画分と環境中親電子物質をマウスに同時処理して、環境中親電子物質の毒性低下効果を調べる。同時に臓器中あるいは尿中から当該物質のイオウ付加体を検出する。一方、ニンニクのヘキサン抽出画分を分取用カラムクロマトグラフィーで単離・精製し、可能であればLC/MS/MS、FT-ICR/MS、GC/MSおよび600 MHz NMRにより構造決定を試みる。得られた精製品を用いて、環境中親電子物質による培養細胞でのレドックスシグナル伝達活性化能や細胞毒性に対する当該物質の効果を検討する。3)野生型、CSE KOおよびCSEトランスジェニックマウスの各種臓器中および初代肝細胞中の活性イオウ分子量をそれぞれ定量する。つぎに環境中親電子物質を曝露して、活性イオウ分子量の変動と行動変化や中毒症状との関係を調べる。4) 親電子物質のモデル化合物としてMeHgを用い、RSSを介した代謝物であるビスメチル水銀サルファイド(MeHg)2Sが、生体内でさらにRSSと反応して排泄される可能性について検討する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (45件) (うち国際共著 19件、 査読あり 43件、 オープンアクセス 26件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (105件) (うち国際学会 36件、 招待講演 31件) 備考 (2件)
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