研究課題/領域番号 |
25220202
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 春男 京都大学, 防災研究所, 研究員 (20164949)
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研究分担者 |
田中 淳 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (70227122)
平田 直 東京大学, 地震研究所, 教授 (90156670)
立木 茂雄 同志社大学, 社会学部, 教授 (90188269)
渡辺 研司 名古屋工業大学, 工学研究科, 教授 (90361930)
田村 圭子 新潟大学, 危機管理本部, 教授 (20397524)
三谷 泰浩 九州大学, 工学研究院, 教授 (20301343)
林 勲男 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 准教授 (80270495)
木村 玲欧 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00362301)
鈴木 進吾 国立研究開発法人防災科学技術研究所, レジリエント防災・減災研究推進センター, 主幹研究員 (30443568)
井ノ口 宗成 静岡大学, 情報学部, 講師 (90509944)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 減災 / 防災 / 社会系心理学 / 認知科学 / 地理情報システム(GIS) |
研究実績の概要 |
平成27年度は、被害軽減を実現する行動科学メカニズムの解明と対応行動実現のための態度・知識・技能の改善方法の提案に向けて、引き続き以下の5つの課題について研究を推進した。 (1)人間の認識世界における意思決定メカニズムの解明に関して、東日本大震災、阪神・淡路大震災、伊豆大島土砂災害等を事例にした被災者調査の分析・比較により判断・態度・行動変容の時間的変遷のフレームの検証を行った。また釜石市の被災者インタビューのビデオならびにテープ起こしを活用し、被災時の被災者の避難行動と感情分析を実施した。 (2)行動変容の定量的測定法の開発に関して、阪神・淡路大震災の激甚被害体験者は、カーネマンのプロスペクト理論の予想に反し、リスク追求バイアスの影響を受けなかった。この事実を踏まえて、防災・減災行動の定量的評価軸の探索・確認の見通しが得られた。 (3)従来の防災分野の知見の再整理に関して、5つの行政区に対してリスクコミュニケーション・地域防災マップの作成を行い、 GeoPortalの設計・試作を行った。また地域経済活動の事業継続に不可欠な企業間、官民間の協議体制、情報共有の仕組みの構築と演習を実施した。 (4)複雑で多分野にわたる被害を予測する仕組みの構築に関しては、過去の地震について、地震・津波・台風等が複合した影響を考察し、総合的な知の体系化をはかった。 (5)総合的な被害想定を実現する知のMashUpシステムの構築に関して、多様な津波ハザードについての影響評価シミュレーターおよび災害医療対応シミュレーターを開発した。また津波災害における「個人の避難行動」を対象として、理学・工学から得られた成果を集約した情報基盤の構築と、社会発信ならびに個人の防災行動力向上を目指し、津波避難計画策定支援ツールを開発するとともに、ウェブページで公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で設定した5つの課題についての進捗状況は以下のようにまとめられる。 (1)人間の認識世界における意思決定メカニズムの解明に関して、計画通り、過去の災害被災地へのアンケート・インタビュー調査を分析・比較検討することによって、災害発生が行動・態度に与える変容の時間的変遷が明らかになり、災害種別によって意思決定の規定因は安定した構造は見出されていないが、共有因子も見出された。津波避難、その後の避難生活実態を「被災者の感情分析」という観点で分析が計画通り進み、他機関・組織による避難行動に関する調査結果を入手し、データの補充を行うことができた。 (2)行動変容の定量的測定法の開発に関して、H27年11月の兵庫県民防災意識調査から、「確実な損失に対するリスク回避」についてプロスペクト理論が、阪神・淡路大震災未経験者では「リスク追求的バイアス」が中程度以上のリスクには働くが、震災で大きな被害を経験した者は、リスク認知と回避が予想に反して正のリニアな関係になることを発見した。 (3)従来の防災分野の知見の再整理に関して、これまでに作成した地域防災マップをまとめるGeoPortalの設計・試作が完了し、地域型BCMの京都BCPに実装し、地域の経済活動に不可欠な金融機能維持のための情報共有の体制が構築できた。 (4)複雑で多分野にわたる被害を予測する仕組みの構築に関しては、異なるハザードが複合する災害の例が少なかったが、海外の例を整理することで体系化できる可能性が得られた。 (5)総合的な被害想定を実現する知のMashUpシステムの構築に関して、マルチハザードのうち地震津波災害についての知の統合としてのシミュレーターを開発できた。ウェブページで公開した津波避難計画策定支援ツールは、住民からのアクセスが2,000を超え、多くのメディアに取り上げられ、一定の社会発信成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
被害軽減を実現する行動科学メカニズムの解明と対応行動実現のための態度・知識・技能の改善方法の提案に向けて、引き続き以下の5つの課題を設定して研究を推進する。 (1)人間の認識世界における意思決定メカニズムの解明に関して、計画に従い、過去の災害事例から明らかにしたモデルをもとに社会実験・分析を行い、態度変容・行動変容の理論化を目指す。とくに、送り手への信頼に関わるリスク認知と特定信頼に関わる命令規範を核に、意思決定モデルの精緻化を図る。これまでの分析結果を活用し、被災者の感情の観点から全体フレームへのインプットを計画するとともに、避難行動に関する当該地域の文化との関係性を明らかにする。 (2)行動変容の定量的測定法の開発に関して、「リスク選択志向」対「リスク回避志向」に関する尺度項目を含む兵庫県民防災意識調査の現在もデータ解析を進めている最中である。 (3)従来の防災分野の知見の再整理に関して、今年度は,GeoPortal上にどのように地域防災マップを掲載し,運用するかの検討を行い、金融機関の連携体制協定の締結、インフラ事業向け演習・ワークショップ実施を通じた研究の集大成を図る。 (4)複雑で多分野にわたる被害を予測する仕組みの構築に関しては、引き続き国内外の過去の災害事例の収集と体系化を進める。 (5)総合的な被害想定を実現する知のMashUpシステムの構築に関して、火山、洪水、台風に関する知の統合としてシミュレーターを開発する。同時に理工学の知見集約に加え、社会科学の観点から人間行動にかかる知見を集約し、統合的な情報集約基盤を強化するとともに、社会発信を推進し、利用者の行動変容把握に取り組む。
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