研究課題
諸刃の剣である活性酸素種(ROS)のうち、「悪玉」活性酸素種を選択的に消去する「レドックス高分子」を設計し、新しいバイオマテリアルとして革新的医療技術の開発を目指してきた。諸刃の剣である活性酸素種(ROS)のうち、「悪玉」活性酸素種を選択的に消去する「レドックス高分子」を設計し、新しいバイオマテリアルとして革新的医療技術の開発を目指してきた。レドックス高分子を表面処理剤として用いることにより血液や組織の接触活性化を抑制し、再生医療用足場材料、細胞分離材や血液透析膜用の材料を作り出した。さらに吸着能を創り込み腹膜透析や生体吸着剤への展開を行った。一方、レドックス高分子によるレドックスポリマードラッグの概念を構築した。ここでは自己組織化能を創り込み、レドックスナノ粒子による治療やイメージングを進め、さらにインジェクタブルゲル化機能を創り込み、歯周病、関節炎やレドックス能を有する薬物リリースデバイスへ展開した。具体的にはレドックスインジェクタブルゲルを開発し、これまでに無い手術後臓器癒着防止用スプレーの開発、潰瘍性大腸炎起因性大腸がんへの抗酸化ナノ粒子治療、すすめ、良い成果を得た。さらに抗酸化ナノ粒子の皮下投与でUVB障害保護や放射線保護材としての評価を試み、極めて高い保護効果を発揮することを確認した。トランスジェニックマウスによるアルツハイマー病への経口投与が効果を発揮することも確認した。本研究ではさらに、マクロファージに応答して一酸化窒素を発生するナノ粒子を設計し、そのROS消去粒子との併用効果をin vivoで検討した。NOを発生するとともにROSを消去する事で、毒性の強いパーオキシナイトレートへの移行を抑制し、NOによる高い効果を発揮することを確認することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本申請の研究では活性酸素種(ROS)を消去するポリマーを中心に新しい抗酸化ナノメディシンの設計を推進してきた。高分子化することでこれまで問題であった正常細胞内の電子伝達系や他の酸化還元反応を破壊することを回避し、効果的な抗酸化剤となることをゼブラフィッシュや齧歯類、イヌ等の動物を用いて実証した。ここで本研究では本来想定していなかった一酸化窒素発生型ナノ粒子の設計を行い、これが投与量依存的に血管新生やアポトーシス誘導に高い効果を発揮することを実証した。さらにはROS消去型ナノメディシンとの併用で、その効果が著しく増加することを実証した。これはROS消去によってNOの消費が抑制される事をin vivoで実証した初めての例である。このように当初抗酸化ナノメディシンでスタートしたプロジェクトはその当初計画よりも大きく進展した。
現在進めている材料に関しては材料メーカーや生体機器メーカーとの連携により新しいバイオディバイスの構築を図るとともに、さらに新しい設計を進め、レドックス材料の基盤を固めていく。抗酸化ナノメディシンは従来の「薬」に比べて副作用が著しく低く、様々な酸化ストレスに関連した疾患に有効であるものの、これまでの薬と全く異なる概念のため、安全性評価や臨床前段階の準備に莫大な費用がかかるため、なかなか既存製薬企業で進めることが困難である。しかしながら認知症薬や放射線保護剤など今後極めて重要な薬剤開発は時間がかかっても一歩一歩進めていかなければならない課題であるので、公的な支援やベンチャー起業などを通して進めていくことを期待している。
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