研究課題/領域番号 |
25220204
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
前田 瑞夫 独立行政法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 主任研究員 (10165657)
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研究分担者 |
宝田 徹 独立行政法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 専任研究員 (30336010)
藤田 雅弘 独立行政法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 専任研究員 (50342845)
金山 直樹 独立行政法人理化学研究所, 前田バイオ工学研究室, 研究員 (80377811)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 核酸 / 細胞・組織 / 生体材料 / ゲル / ソフト界面 |
研究実績の概要 |
1.DNA担持ナノ粒子組織体の動的構造制御: 二重鎖DNAで修飾した金ナノ粒子を、ローリングサークル増幅法で調製した鋳型DNAの上に等間隔で数百個配置して、長鎖の糸ビーズ状ナノ構造体を作製した。鋳型DNAへの固定に架橋型人工核酸(LNA)を用いると、構造体の収率が向上した。さらに、各粒子に担持された二重鎖DNAの末端塩基対合に依存して、全体構造が劇的に変化することを見出した。二重鎖DNAが完全相補の場合は円盤状に収縮した構造を示し、末端一塩基ミスマッチの場合は線状に伸展した構造をとることが透過型電子顕微鏡で確認された。 2.刺激応答性を示すDNA担持ハイドロゲルの開発: ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)とDNA、ならびに反応性の官能基を有するモノマーを第三成分として導入した共重合体を創製し、DNAが表層に密生したコアシェル型のナノゲルの構造物性相関についての研究をおこなった。ナノゲルはPNIPAAm成分の水和・脱水和を駆動力とした構造の温度応答性を示す。疎水性低分子化合物をゲル内部へ包接する能力を有し、構造転移に応答して包接分子を放出する様子が捉えられた。 3.DNA界面の特性解析に基づく細胞培養基板の開発: DNA界面の表層近傍にアゾベンゼン(Azo)を導入し、DNA界面の特性を光刺激によってスイッチングすることに成功した。この光応答性DNA界面では、Azo部位の構造(trans or cis)を反映してDNA界面の表層構造が局所的に変化し、完全相補的な塩基配列のDNA界面でもAzo部位のcis体への光異性化により末端ミスマッチ配列のDNA界面と同様の界面特性に変化することを、当該DNA界面で覆われた金ナノ粒子の光刺激に連動した分散挙動変化から実証した。また、このDNA界面特性の光スイッチングは可逆的であり、5サイクル以上繰り返し誘起することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.DNA担持ナノ粒子組織体の動的構造制御: DNA担持金ナノ粒子の線形多量体(50個以上)を構築する方法を当初の計画より早く確立することができた。また、末端塩基対合に依存した構造変化を誘起することに成功した。これらの成果は、塩基対形成を外部刺激で制御すればナノ構造体の形状を操作できることを強く示唆しており、動的構造変換の端緒を開くことができた。 2.刺激応答性を示すDNA担持ハイドロゲルの開発: DNA―高分子コンジュゲートに反応性モノマーを第三成分として導入することで、温度応答して構造が変化するナノゲルの作製に成功するとともに、低分子化合物の取り込みと放出がそれに応答していることを実証するなど、狙いどおりに研究が進展した。 3.DNA界面の特性解析に基づく細胞培養基板の開発: 当初の計画どおり、外部刺激(光刺激)に応じて界面特性が変化する動的DNAブラシ界面の構築法をほぼ確立することができた。以降、このような刺激応答性DNAブラシ構造を異種材料とくに生体材料との界面へ展開することで、タンパク質吸着や細胞接着の可逆的スイッチング、さらにはパターン化が可能になるものと期待される。 4.その他の成果: 当初の計画以上の進展として、分散媒側に一塩基が突出した二重鎖DNA担持金ナノ粒子が安定に分散することを系統的に実証し、ジデオキシ鎖終結法で一塩基伸長されたオリゴ核酸をサンプルに用いるSNP精密タイピングが可能であることを示した。一方、新たに金ナノロッドに着目し、異なる配列の一本鎖DNAを両末端面と側面にそれぞれ選択的に固定した。側面DNAの相補鎖と、両末端面DNAの末端ミスマッチ鎖を加えると、ナノロッドが側面で接して横に並び、逆に側面がミスマッチで両末端面がフルマッチの場合は両末端面で接して縦に並ぶことを見出した。これはDNAによるナノ構造体の動的制御につながる計画以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
1.DNA担持ナノ粒子組織体の動的構造制御: 当初は、DNA担持金ナノ粒子からなる糸ビーズ状構造体を収縮させて、ロッド状構造体に変換することを計画していた。しかし昨年度までの研究で、線状構造からアイランド状(円盤状)構造という予想外の大きな構造変化が生じることが明らかになった。そこで今後は、「DNA担持ナノ粒子組織体」という、より包括的な観点から構造変換法を洗練させ、バイオ材料開発に応用することを目指す。 2.刺激応答性を示すDNA担持ハイドロゲルの開発: 温度に応答するナノゲル構造物性相関を分子レベルで解明すること、とりわけナノゲル内部の包接分子のダイナミクスとの相関解明が今後の主な目的となる。これまでに確立したナノゲル生成法やDNA密生相の特異性をうまく組み合わせた新規ハイドロゲル創製へ展開していく。 3.DNA界面の特性解析に基づく細胞培養基板の開発: DNA界面と異種材料間に働く相互作用、特にDNA界面とタンパク質間に働く相互作用にフォーカスする。末端構造の異なるDNA界面上へのタンパク吸着挙動を、水晶振動子マイクロバランスなどを用いて追跡し、DNA界面の表層構造とタンパク質の吸着特性の相関を明らかにする。 4.その他の取組み: DNAナノ粒子の表層構造に依存した非架橋凝集現象の分子メカニズムを解明するため、本年度、光ピンセットシステムを導入した。これを用いて、レーザートラップした2つのDNAナノ粒子間に働く力(粒子間力)を直接計測し、DNA界面構造との相関を明らかにする。
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