研究課題
本年度は以下の研究について大きな進展があった。(1)これまでに、肝細胞癌の悪性度ならびに予後に関与する特異的糖鎖(仮称:G3560、G2890)が存在することを報告してきたが、この悪性度のうち浸潤能と糖鎖がどのような関連性を持つか検討した。その結果、高浸潤能のHLEはu-PAの産生が高く、G2890が高値である一方、低浸潤能のHepG2はu-PAの産生が低く、G2890が低値であった。(2)腎細胞癌の診断と生命予後因子としての臨床的有用性を明らかにした。この成果は平成26年度日本泌尿器科学会賞を受賞した。一方、進行性前立腺癌においても、3本鎖、4本鎖のN-グリカンの発現が去勢抵抗性獲得過程におけるバイオマーカーとして有用であること、さらに、前立腺特異抗原(PSA)のN-グリカンの癌性変異を利用した新規アッセイ法を開発し、従来のPSAによる前立腺癌診断能力を遥かに凌駕することを示した。(3)消化器病領域については、新たにSweetBlotが設置され、実サンプルでの一斉解析を開始した。その結果、肝細胞癌での糖鎖発現パターンを確定し、論文として発表した。また、分子標的薬であるソラフェニブ投与前の血清を、多数例で網羅的に解析し、(m/z3195/1914)が最も予後を反映するマーカーであることを明らかとした。また、高齢化に伴い増加している、非ウイルス性肝細胞癌の原因となる、非アルコール性脂肪性肝炎の糖鎖パターンを明らかとした。膵癌については、膵管内乳頭粘液性腫瘍の発現パターンの解析を行い、悪性化との関連を報告した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度計画していた3つの研究実施項目、①大規模糖鎖解析拠点(今年度は岡山大学医学部にてSweetBlotが稼動)の整備、②患者検体の収集と臨床情報の整理、および③大規模糖鎖解析の継続等、それぞれについて目標としていたクライテリアを達成できたと判断する。既に収集された各々の多様な疾患領域での大規模グライコミクス研究をさらに大きく進展させた。
(1)肝細胞癌の浸潤能と特異的糖鎖の発現を検証するために、u-PAの発現を抑制・亢進させ、糖鎖の変化を検討する。(2)3本鎖、4本鎖のN-グリカンの発現が去勢抵抗性の指標になることを示唆する結果が得られたので、今後は症例数を増やしてvalidation studyを行う。さらに、背景にある糖転移酵素レベルの解析を行い、去勢抵抗性獲得メカニズムにおける糖鎖構造変異の意義について検討する。また、予備検討によって、血清N-グリカンの網羅的解析が腎移植後の拒絶反応予知因子の検索に有用であることが明らかになったので、今後は腎移植に関しても検討を進める。(3)大腸癌診断への応用の可能性について、さらに詳細な解析を進める。また、プレリミナリーな検討で、若年発癌患者に特徴的な糖鎖発現パターンがあることを示唆する所見が得られており、多数例での検討を行う予定である。また、免疫グロブリン分画の糖鎖発現パターンを利用した消化器癌診断の可能性についても言及する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 4件)
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