研究課題
本年度は以下の各項目において大きな進展があった。① 血清N結合型糖鎖の網羅的質量解析による各種悪性腫瘍のバイオマーカー探索を新たに、精巣腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管癌を対象に拡大して実施し、各々の癌に特徴的な糖鎖発現における顕著な変化を数種類同定した。また、同様の方法で腎移植後の抗体関連拒絶反応を早期に予測する診断マーカーを開発した。② これまで解析が遅れていた大腸癌の血清糖鎖解析結果を公表するとともに、進行食道癌についても、新たに網羅的血清糖鎖解析に着手した。また、様々な消化器癌で、免疫グロブリン結合糖鎖のアガラクトシル化が普遍的に生じていることを初めて明らかとし報告した。アガラクトシル化のメカニズムとして、癌細胞株の培養液清中に、B細胞のガラクトース転移酵素発現を抑制する因子が存在することを見出しており、現在癌診断への応用を視野に入れ、この因子を同定中である。③ 全自動血清糖鎖プロファイル解析装置による糖鎖解析により、根治的な肝切除を受けた肝細胞癌患者において、特定の糖鎖が予後・再発予測に関連していることが判明したため、肝癌細胞株において浸潤能の変化と糖鎖構造変異の関係を調べた。HLEは細胞外マトリックスの破壊に関連するurokinase type plasminogen activator (u-PA)の産生が高く、浸潤能はu-PA産生能に応じて、HLEは高浸潤能を有した。高浸潤能肝癌細胞株HLEにおいてu-PAをノックダウンすると、グライコブロッティング法による糖鎖の網羅的定量解析では13種類の糖鎖発現量が低下していた。
1: 当初の計画以上に進展している
血中バイオマーカーは疾患の早期発見や進行度、治療効果等を簡単・迅速に判定する際に極めて重要な分子である。昨年度までに神山(北大医)と能祖(岡山大医)が担当する膵臓癌、膵炎、肝細胞癌、肝炎、潰瘍性大腸炎、大腸癌さらに自己免疫性膵炎等の消化器疾患領域、大山(弘前大医)が担当する腎細胞癌、腎炎、前立腺癌等の泌尿器疾患領域に焦点を絞り、健常者の糖鎖プロファイルとの比較に基づいて有意な変動の認められた疾患糖鎖情報を収集してきた。我々は既に、肝細胞癌・膵臓癌・大腸癌と腎細胞癌や前立腺癌において高感度で疾患・病態特異的なバイオマーカー候補の抽出に成功している。また、3つの研究拠点では信頼性の高い血中糖鎖発現プロファイルデータベースの構築を目指して蓄積された各疾患ごとの糖鎖発現プロファイルデータから、疾患特異度や進行度などを含めた多角的な臨床統計調査を行ってきた。その結果、既に各疾患に特異的で臨床的に有望な糖鎖マーカーが見出されており、その診断性や新たな創薬研究への可能性等の臨床意義の検証を進めて実用化に向けた研究に進展している。
①疾患糖鎖構造データベースの構築本研究課題では患者血清糖タンパク質糖鎖の発現プロファイルを用いた疾患早期発見・診断技術の実用化に必須の疾患糖鎖構造データベースの構築を最終年度(平成29年度)までに達成すべき第一の目標としている。この目標を達成するため、医師を含む臨床研究チームとの強力な連携により厳密に管理された患者検体を用いた大規模網羅的糖鎖解析および臨床情報に基づく新規バイオマーカーの探索を進めることを推進してきた。特に消化器癌と泌尿器癌及びそれらと深く関係する疾患に焦点を絞りバイオマーカーとして有望な糖鎖構造情報の獲得に成功してきた。これまでに蓄積された全ての疾患ごとの糖鎖発現プロファイルデータおよび各疾患に特異的(特徴的)で臨床的に有望な糖鎖マーカー情報を含むヒトの血清糖タンパク質の全糖鎖構造プロファイルを収納した世界初の疾患関連ヒト血清糖鎖データベースの構築を実現する。また、最終年度においてはこれらのデータベースを高次活用する新たな診断・治療薬の研究開発を一層加速する。②診断薬・治療薬開発を目指す実用化研究への展開本研究課題で得られた多くの知見は、癌をはじめ多くの疾患特異的なバイオマーカーによる診断技術開発に留まらず、様々な疾患と生体内の糖鎖構造変化の関係、特に免疫バランスや恒常性維持とメタボライトとしての糖鎖構造の変調がそれらの疾患発症と進展のメカニズムとどの様な関係にあるのかについての基本的理解を深めることに大きく貢献する。最終年度ではこれらを実証するために、遺伝情報の翻訳後修飾の本質的な意義を追求する「基礎生物学」や疾患特異的糖鎖を担持するタンパク質の「動的エピトープを標的とする抗体医薬品の研究開発」等に発展させる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 3件、 査読あり 19件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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