研究課題/領域番号 |
25220207
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊地 和也 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70292951)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 化学プローブ / in vivoイメージング / MRI / 蛋白質ラベル化 |
研究実績の概要 |
本研究では緻密に設計された化学プローブを用い、細胞内生体分子あるいは個体内細胞動態を時間と空間を制御して可視化し機能解明を行うことを目的としている。特に(1)in vivoにおける細胞動態や酵素活性を可視化するMRI・蛍光プローブ開発、(2)細胞内蛋白質の特異的修飾法の開発の高機能化とその手法を用いた細胞機能解析に取り組んでいる。 本年度、(1)で示したMRIプローブの開発においては、酵素活性をin vivoで可視化するプローブの設計に着手した。これまでにわれわれは常時性緩和促進(PRE)効果によるMRIシグナルの制御原理を見出し、生体内バックグラウンドが少なく、高感度で観察が可能なナノ粒子型19FMRIプローブFLAMEを開発してきた。これらの知見を組み合わせ、FLAMEの表面にカスパーゼ-1酵素基質を修飾し、さらにその先にPRE効果を示すGd3+錯体を付加した粒子を作製した。このプローブは酵素反応によりシグナルが増大し、マウス体内での免疫応答を可視化することに成功した。 (2)で示した細胞内蛋白質の特異的修飾法の開発においては、変異体βラクタマーゼ蛋白質をタグとして用いた修飾法を利用した蛍光プローブを開発し、1分子イメージングへと応用した。細胞膜透過能を維持しつつ、細胞内の標的蛋白質を鮮明にイメージングするために最適なプローブの合成に成功し、免疫系のシグナル伝達分子の相互作用を1分子レベルで解析することができた。 さらに、蛋白質修飾に用いてきたpH応答型色素を利用し、骨組織で骨を溶かす役割をしている破骨細胞の活性をin vivoイメージングすることを試みた。骨組織への送達能、および長時間観察に耐えうるレーザー光耐性を付与することで、破骨細胞の活性と動きを長時間にわたって追跡するイメージングシステムを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MRIプローブの開発においては、これまでに培った知見を活かし酵素活性に応答してシグナルが増大する19FMRIプローブの作製を行った。このプローブは酵素カスパーゼ-1との反応後にGd3+錯体部分が解離することでシグナルがONとなるよう設計されている。実際に作製したプローブはin vitroの酵素反応でシグナルが増大するだけでなく、in vivoにおいても免疫応答に由来するカスパーゼ-1の活性化を検出することに成功した。バックグラウンドの少ない19FMRIにおいて生体内の酵素活性を検出した例は本成果が初めてである。 また、当初では蛋白質ラベル化プローブを用い、1分子イメージングだけでなく、オートファジーによって引き起こされる蛋白質の低pHオルガネラ移行をイメージングを行う予定であった。しかし、長時間安定に細胞内の低pHオルガネラを観察できるプローブの設計に問題が生じたため、合成したpH感受性色素をin vivoイメージングへ応用することにした。その結果、pH応答型色素に骨組織特異的送達能を有するビスフォスフォネート基を導入し、電子吸引基の導入により光安定性を付与させた蛍光プローブ類の開発に成功した。この蛍光プローブをマウス体内に投与し、蛍光蛋白質由来の赤色で破骨細胞を、プローブ由来の緑色で低pH領域をイメージングすることで、長時間にわたって破骨細胞の動きに伴い骨を溶解する過程を生体内で観察することに成功した。よって、本年度の成果は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
19FMRIプローブの今後の推進計画に関しては、これまでに開発した高感度19FMRIプローブ、シグナル増大型19FMRIプローブを用いてin vivoにおける特定疾患に高発現している酵素の活性を検出する。標的とする酵素として、関節リウマチ、炎症性疾患において破骨細胞、マクロファージから分泌されることで高活性を示す酵素カテプシンKを選択する。ナノ粒子型19FMRIプローブの表面をカテプシンK基質で修飾し、シグナルをクエンチさせるGd3+錯体を付加させたプローブを作製する。市販の酵素を用いてin vitroにおけるカテプシンKの活性検出を行い、シグナル増大比が大きくなるように修飾量や基質の検討を行う。カテプシンKは分泌型の酵素であり、炎症部位にデリバリーできれば細胞内へのプローブのデリバリーは必要ないと考えられる。そこで、関節炎誘発マウスの炎症部位に19F MRIナノプローブを皮下注射し、MRIを用いてカテプシンK活性の19F MRI検出を行う予定である。 今後は前年度得られた破骨細胞活性を可視化する蛍光プローブの成果を受けて、波長の異なる赤色の蛍光で活性化をイメージング可能な蛍光プローブの開発に着手する。赤色蛍光プローブの開発により、生体内の自家蛍光の影響を低減し、緑色蛍光蛋白質でラベルしたマウスに対しても使用が可能となる。特に破骨細胞の酸放出の機能に関わるプロトンポンプ複合体に緑色蛍光蛋白質をタグ化した遺伝子改変マウスを用いることで、酸を放出している蛋白質分子の局在と活性の時空間的な相関を解析していく。
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