研究課題/領域番号 |
25220501
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田中 愛治 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (40188280)
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研究分担者 |
川出 良枝 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (10265481)
古城 佳子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30205398)
西澤 由隆 同志社大学, 法学部, 教授 (40218152)
齋藤 純一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60205648)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 熟議 / Deliberative Poll (DP) / 討議型世論調査 / Mini Publics (MP) / ミニ・パブリックス / 熟慮 / CASI世論調査 / 外国人労働者受け入れ |
研究実績の概要 |
本研究にとって平成28年度は、平成27年度後半に開始した一連の調査を継続し、全てを完了すべき最も重要な年度であったが、期待以上の成果が上がった。 平成28年4月に、前年度の同年3月実施の全国Web調査の回答者を対象に追跡調査を全国の有権者対象に実施し、「外国人労働者受け入れ」に対する意識を調査した。 前年度の平成28年1月~3月に静岡全県民から無作為抽出した10,000名に対して実施した郵送調査の回答者4,279名を対象に、平成28年4月にアンケート調査を実施し6月に実施予定のMP(意見交換会)への参加の意向を訊ねた。MP参加に関心の高い回答者723名中、338名が平成28年6月6月18日(土)・19日(日)・25日(土)・26日(日)に静岡大学で実施したMPに参加を表明し、331名が実際にMPに参加した(欠席者は7名のみ)。 平成28年4月~5月のMPの準備期間に、MPの進行・手順のマニュアルを作成し、職業経験のあるモデレーターに委託し、模擬MPを5月に2回、早稲田大学で実施した。初回の模擬MPには、日本におけるDP(討議型世論調査)の第1人者である曽根泰教・慶應義塾大学教授に見学してもらい、注意点をご教示いただき、万全の準備を整えた。 平成28年9月に、同年1-3月実施のCASI調査の回答者のうち同意を得られていた533名に対し追跡郵送調査を実施し、372名の有効回答を得た。追跡調査により、CASI調査での熟慮の後の世論調査の半年後の意見変化の程度を探った。その後、平成29年1月に、MPの追跡郵送調査を、平成28年6月のMP参加者331名と参加に関心を示した392名を対象に実施し、MP後の意見変化を探った(有効回答は567名)。 平成28年10月-12月に静岡全県民から無作為抽出した3,000名にCASI調査を実施し、MPとの比較を可能にした(有効回答は1261名)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、本研究が当初から目標としてきたMP(ミニ・パブリックス)の実施に成功し、CASI調査も実施し、MP参加者の熟議による意見変化と、CASI調査回答者の熟慮による意見変化の比較分析が可能になった。その過程で、主に3つの点で当初の期待以上の成果があがったと考えられる。 第1に、本研究チームには、熟議型民主主義理論とMPの理論的研究の専門家は含まれていたが、DPやMPの実施経験のある者は皆無だったので、MPの実施には不安があった。しかし、MPを準備する段階でモデレーター業務委託先との勉強会を通して、MPとしての意見交換会の1グループの人数を、DPの15名よりも減らして、モデレーターが正確に参加者個々人の発言回数を記憶できる人数である概ね8名に絞るという方式を確立できた。その方式に沿ったMP実施の独自のマニュアルを作成できた。 第2に、MPの準備をする上で、DPの経験豊富な曽根泰教教授をお招きし、アドヴァイスをいただけたことにより、DPで護られてきた意見交換会のマナーをMP参加者に十分に周知できた。さらに、曽根教授より「これで、初めて我々が実施してきたDPと科学的に比較可能な形で熟議を導入した世論調査の別の方法が確立できると思う。」という高い評価をいただいた。 第3に、静岡県の有権者1万人を対象に郵送調査を実施し、その回答者4,297名にアンケートを送りMP参加への関心を聞き、肯定的な回答者723名に参加可能な日時を探る第2回目のアンケートを送った結果、338名の参加予定者を得た。MPの直前の週に郵送とそれをフォローする電話で、MPの日時の再確認をしたところ、実際のMPでの欠席者は7名のみであった。曽根教授は、DPでは概ね1割から2割の欠席者がでると述べていたので、我々のMPは予想を大きく上回る成功を納めたといえる。調査対象を全国から静岡県に絞ったことも有効であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度末までで、本研究が計画していたCASI調査、MPなど全ての調査を予定通り完了できたので、最終年度となる平成29年度は、本研究の研究代表者の下に研究分担者、連携研究者、研究協力者の力を結集し、これまでの4年間の研究成果を発信することに努める。 まず、平成29年9月23-24日開催の日本政治学会でMPの理論に関わる報告とCASI調査による熟慮過程における思考の深化を科学的に測定するRQI(Reasoning Quality Index)を用いた研究報告を行なう予定。 次に、同年10月に刊行予定の政治学専門誌『レヴァイアサン』に論文を4本寄稿する予定。(1)田中愛治、西澤由隆、齋藤純一、清水和巳「熟慮と熟議-市民のニーズを探る方法の模索-(仮)」、(2)今井亮佑、日野愛郎、千葉涼「熟議による市民の思考の深まりを測定する-Reasoning Quality Index(RQI)の試み-(仮)」、(3)遠藤晶久、三村憲弘、山崎新「熟議による思考深化のメカニズム-反論提示による態度変化-(仮)」、(4)横山智哉、稲葉哲郎(一橋)「異なる意見を持つ者への情報提示が態度変化に与える影響(仮)」を発表する予定。 更に、平成30年3月の刊行をめざして、本研究成果の全体像をまとめる書籍の執筆に入る。書籍は、序章と終章の間に6章が入り、研究代表者の編著の下で研究分担者全員が執筆をし、連携研究者と研究協力者でCASI調査とMPの実施に携わったメンバーも全員筆を執ることになる。そのために、平成29年4月に戦略を練る会議を開き、出版社との書籍刊行の交渉を始めた。7月に執筆メンバー全員での研究会を開き、8月に実証的な部分を執筆するメンバーでの研究会を開催する予定。更に、9月下旬に本研究に関わった全メンバーによる全体会で,刊行すべき書籍の最終稿を提示し議論を深めて、年度内刊行をめざす。
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備考 |
早稲田大学政治経済学術院の政治学研究科と経済学研究科は2003-07年度の21世紀COE拠点「開かれた政治経済制度の構築」と2008-12年度のグローバルCOE拠点「制度構築の政治経済学」を通して過去20年間協働作業を続けてきた成果として、熟慮を導入できる世論調査の方法として全国レベルのCASI世論調査方式を世界で最初に実施し、その方法論を確立した。
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