研究課題/領域番号 |
25220601
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
仙場 浩一 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 上席研究員 (50393773)
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研究分担者 |
水落 憲和 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (00323311)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 巨視的量子系 / 共振器量子電磁力 / 超伝導量子ビット / 回路QED / スクイージング / ダイヤモンド / NV中心 / スピン |
研究実績の概要 |
H27年度は、超伝導人工原子・LCプラズモン系に於いて、相互作用エネルギーが結合系の最大エネルギーである深超強結合 (Deep Strong Coupling : DSC) を初めて実現し、DSC系の遷移スペクトル分光解析に成功した。これは、巨視的量子系を使えば、質的に全く新しい基底状態をも実現可能であることを示唆する重要な成果である。(arXiv:1602.00415v1, 米国物理学会, 応物学会招待講演で発表) NICTグループは高精度スペクトロスコピー用の透過型・反射型マイクロ波測定系を立上げ上記成果を得た。また、固体中スピン・光子系の実験で必要となる希釈冷凍機へのレーザー光導入へ向けて光源等の準備を進めた。NTTグループ(連携)では、マイクロ波共振器と結合した約4500個の超伝導磁束量子ビットを作製し、集団増強効果を含んだ透過スペクトル測定結果を解析中である。研究分担者である大阪大学グループ(H28.1~ 京大グループ)では、ダイヤモンド中の集団電子(NV)スピンと他の量子系との量子結合(相互作用)の増強を図るため、N-V軸を結晶軸に対して1つの方向のみに揃える事に取り組んだ。これまで量子結合の増強に必要なNV中心濃度の高い条件においては方向制御の割合が低いという課題があったが、今回、1立方センチメートルあたり1E15という比較的高濃度において、75%以上という制御ができたことを実験的に示した。NII理論グループ(連携)では、電子スピン集団にスクイーズ状態を生成する方法について新たな知見を得た。コヒーレント状態からのスクイージングで、集団スピン系では光のスクイーズド状態には見られない状態が生成される。大阪市立大グループ(連携)では、室温から極低温領域で安定な基底三重項分子スピンを設計・合成し、ホスト結晶内に分散させた試料の作成に成功した。試料のスピン物性をESR分光法で測定し、量子化学計算でスピン状態を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、5年計画の4年目までに測定系の準備を整え、最終年度までに超強結合領域での未知の現象を明らかにする予定であったが、5年計画の3年目であるH27年度に作製した、超伝導人工原子・LCプラズモン系 試料に於いて、相互作用エネルギーが結合系の最大エネルギーである深超強結合 (Deep Strong Coupling : DSC) 領域の実現に世界に先駆けて成功した。量子Rabiハミルトニアンを用いたDSC系の遷移スペクトル分光の解析から、基底状態を含む結合系のエネルギー固有状態は、qubit 状態とプラズモンの Fock 状態とで構成されたシュレディンガー猫状態であるという解釈が強く支持される。この新種の基底状態は、マイクロ波(プラズモン)が超伝導人工原子の基底状態に纏わりついた一種の超放射状態とも解釈できることから、強結合分野における永年の懸案であった Dicke 相転移に関する No Go 理論や、非常に強い結合領域で重要となる電磁相互作用におけるベクトルポテンシャルの非線型項(A^2 項)問題に関しても実験的証拠を提供できる見込みである。 大阪大学グループでは、ダイヤモンド中の集団電子(NV)スピンと他の量子系との量子結合(相互作用)の増強を図るため、N-V軸を結晶軸に対して1つの方向のみに揃える事に取り組み、比較的高濃度において、高い配向性を実現した。H28年1月より、京都大学に異動したが、装置の移動をH27年度末に行い、H28年度の研究準備を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
超強結合によるシュレディンガー猫状態の生成と吸収スペクトル測定および解析に成功したように、当初の目標を超える研究の進展があった。今後は、この新奇な状態を必要に応じて生成するための試料・実験 環境を改良し、他のアプローチよりも早く 実験で実現された Q1「超伝導人工原子」⇔B1「LCプラズモン」の DSC領域 に関しては、基底状態を含む超強結合系励起状態の物理的な性質を世界に先駆けて明らかにすることに集中する。 NICTグループは、H28年度内を目途に、現在準備中の時間領域測定系と量子極限増幅 (Josephson Parametric Amplifier) 技術を希釈冷凍機測定系に実装する。これらを用いて時間領域測定、さらに、量子相関測定を行い「超強結合によるシュレディンガー猫状態」に関する定量的な実験的証拠を蓄積することを試みる。並行して、当初計画で想定した非断熱的に相互作用の大きさ(g) を変化させることによる分光法に挑戦する。この方法は、超強結合によるシュレディンガー猫状態で生成される 量子ビットともつれ状態にあるマイクロ波を外部の回路へ取り出す一つの方法も提供する。また、より系統的な測定が可能なように試料のコヒーレンス特性等の改良を試みる。また、H28年度, 最終年度 Q1「超伝導人工原子」⇔B3「スピン集団のスピン波」 のアプローチに関しては、京大グループが作製に成功したN-V軸が1つの方向のみに揃ったNVダイヤモンド、あるいは、大阪市立大グループが作製に成功した分子マグネットを用いて超強結合実現を目指す。 京大グループは、方向制御の更なる高配向化と高濃度化を行い、更に並行して既に作製に成功した、N-V軸が1つの方向のみに揃ったNVダイヤモンドを用いて、レーザとスピン集団の強結合の実現を目指して低温で作動するレーザ顕微鏡を用いた実験を進める。
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