研究課題/領域番号 |
25220602
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
片浦 弘道 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 首席研究員 (30194757)
|
研究分担者 |
田中 丈士 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (30415707)
藤井 俊治郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能化学研究部門, 主任研究員 (80586347)
平野 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (90613547)
|
研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
|
キーワード | カーボンナノチューブ / 分離技術 / 半導体 / スペクトロスコピー |
研究実績の概要 |
12種類の単一構造CNTの光学異性体分離に成功し、それらの円二色スペクトルから、CNTのバンド構造を得ることに世界で初めて成功し、Nature Communicationsに発表した。さらに、これまでCNTの光学異性体の純度を評価する事ができなかったが、特殊な分散剤を用いる事により、右巻きと左巻きのCNTで異なる波長に円二色スペクトルが観測される事を見出し、それを使って純度評価可能である事を示した。この成果は、フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会で報告し、飯島賞を受賞した。また、(9,4)および(10,3)の大量分離とそれを用いたマウスの血管造影の論文をNature Communicationsに発表した。さらに、カーボンナノチューブが褐色脂肪細胞に選択的に蓄積されることを見出し、その基本的な原理解明を他の科研費課題と合同で行い、その成果をScientific Reportsに発表し、プレスリリースを行った。褐色脂肪組織は、脂肪を燃焼して熱を発生させる事ができる組織であり、その活性化が、メタボリック症候群の治療に有効であると期待されているが、これまで褐色脂肪組織を簡単に造影する手法が無かった。CNTを用いて簡単に近赤外造影できる本成果は注目を集めている。単一構造分離の自動化も進化させ、15種類の単一構造CNTを自動で分離するプロトコルを完成させた。CNT分離用ゲルの開発も開始した。これまで分離に使用するゲルについては、市販品を用いていたが、市販品はCNT分離用に開発したものでは無いため、CNT分離に最適化されていなかった。そこで、市販品に類似の構造を持つゲルで組成を最適化したところ、市販品よりはるかに高い吸着性能を有するゲルの開発に成功した。ゲルの吸着能が改善されると、カラムサイズを小さくすることが可能で、分離コストの大幅な低減が可能となり、産業応用上極めて有益である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は円二色性スペクトルからCNTのバンド構造導出と単一構造CNT大量分離技術に関する論文をNature Communications誌2報(オープンアクセス)で報告し、これらの成果を世界にアピールすることが出来た。多種の単一構造CNTを一気に分離する世界初の技術開発はほぼ完了し、具体的な分離作業を開始するとともに、試料提供も開始した。本分離技術は、光学異性体も分離可能であることから完全な構造制御と言うことができ、単結晶作製の原料の準備は整ったと言える。マクロなレベルでのCNTの配向技術があと一歩のところにあるので、擬似的な単結晶作製成功目前と考えている。また、CNTを近赤外蛍光マーカーとして用いる応用は、当初の計画に無かったものだが、血管造影だけでなく、褐色脂肪組織の選択造影が可能になったことから、極めて有望な用途となりつつあり、大きな成果の一つと言うことができる。なお、本研究課題で雇用したポスドクが大学の助教に就職した。これは本科研費が順調に成果を上げている事を評価いただいた結果と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
単一構造CNTの分離プロトコルの改良を続けるとともに、実際に大量分離を行い、試料提供を進め、研究の進展を狙う。SWCNTの単結晶作製およびそれを用いた精密物性測定に取り組む。また、世界初の光学異性体純度評価法など、新たな成果をハイクラスジャーナルへ投稿し、広く世界に発信しアピールするとともに、世界的な共同研究協力体制を強化・拡充する。近赤外生体イメージングの技術も、新たな展開が期待される事から、広く共同研究体制を構築して推進していく。また、分離用ゲルの開発は、新たな産学官の連携プロジェクトに発展可能な課題であるとともに、日本発の分離技術であるゲルクロマト法の普及と産業応用を加速する事にもつながるため、最終年度で重点的に行う予定である。
|