研究課題/領域番号 |
25220604
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
千葉 大地 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10505241)
|
研究分担者 |
上野 和紀 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (10396509)
小野 新平 一般財団法人電力中央研究所, 材料化学研究所, 主任研究員 (30371298)
好田 誠 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00420000)
塚崎 敦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50400396)
|
研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
|
キーワード | スピントロニクス / 電界効果 / 強磁性金属 / 非磁性金属 |
研究概要 |
本申請の根本にある狙いは、電気的に材料の機能開拓を可能にする手段-電界効果-を、材料の枠を超えて活用し、省エネ・高効率な利用展開・材料間の融合的新機能の創発を図るものである。その広い目的の中で、本申請では磁性体に注目し、中でも身近な金属の磁性を電界効果で自在に操る手法を確立し、その背景に眠るサイエンスの理解と応用展開を目指す。具体的には、1.電界効果により金属元素の電子数を変化させ、磁性が変化するメカニズムを理解すること、2.天然には磁石として存在しない金属を電気的に磁石にすること、3.磁場や電流に頼らない次世代の電気的磁気記録手法を確立すること、4.ナノ構造の新奇形成手法への展開を図ることを目指す。H25年度は、1・2をメインに実験を進めた。具体的には、これまで取り組んできたCo超薄膜以外の3d遷移金属における電界効果の調査や、金属超薄膜の電子状態・磁気状態の調査、Pd(非磁性金属)における電界効果、電子数変調量の増大などのテーマに取り組んだ。 結果、3d遷移金属強磁性体における電界効果のケミカルトレンドを得ることに成功し、放射光測定によりこれら金属の電子状態の観測を進める体制が整った。また、電界印加時の金属表面のリバーシブルな酸化還元反応の可能性を議論できる段階に近づいた。 非磁性体の磁石化については、強磁性近接効果によりPd中に誘起された磁気モーメントの電界変調に成功した。また、キャパシタンスの大きなイオン液体のテストや、誘電率の大きな固体絶縁膜の利用を積極的に進め、非磁性体を金属化するための電子濃度の巨大変調への道を整備した。 計画は順調に遂行されており、適宜当初計画の枠を超えた新たなサブテーマにも果敢に取り組んでいる。また、独自の測定系の自作や理論家との議論も進め、特色を保ちつつ深みのある研究へと発展させるべく努力と配慮を継続して行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H25年度の当初計画は、細かい項目で見ると、①これまで取り組んできたCo超薄膜以外の3d遷移金属における電界効果の調査、②Co超薄膜の電子状態・磁気状態の調査、③Pd(非磁性金属)における電界効果、④電子数変調量の増大、であった。 ①・②は電界により強磁性金属の磁性が電界変調可能であるメカニズムの理解に関する実験、③④は非磁性金属の磁石化に関する取り組みである。①に関しては、Fe、Ni超薄膜について実験を行い、ケミカルトレンドを得ることができた。②に関しては、XMCD測定のプロと組むことにより、Coの電子状態の観測を進めた。また、Co表面の酸化状態について、電界印加時のリバーシブルなCoの酸化還元反応の可能性を議論することができた。③については、強磁性近接効果によりPd中に誘起された磁気モーメントの電界変調に成功した。④に関しては、キャパシタンスの大きなイオン液体のテストや、誘電率の大きな固体絶縁膜の利用を分担者とともに積極的に進めた。成果の公開については、順次準備を進めており、H26年度中には間に合うと考えられる。 一方で、非磁性体が電界印加で磁石化した際に、それを証明するには慎重な実験を行う必要がある。迅速な評価と、学術的な結論を下すためには、高感度な磁化測定だけではなく、光学的な手法を駆使することが大変有用であると考えられる。H25年度は、上記4つの主テーマに加え、強磁性薄膜の磁気光学効果(ファラデー効果)を観測する実験系の自作構築を分担者と共に行い、強磁性体における磁性の電界効果の光学的観測に成功した。 特許化を睨んだ研究も他2件ほど進めており(成果が形になった段階で公開予定)、分担研究者・連携研究者と、当初計画の枠を超えた共同研究が大きく進展しそうな強い感触を得ている。 以上のことから、当初の計画を超える進展があったと自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、非磁性体を含む様々な金属の磁性を制御し、その機能を開拓することを最大の目的としている。最もシンプルな例は、電界を用いてCuから電子を1個抜くと、Ni(強磁性体)になるか?といった問いに答えることである。この誰もが分かりやすいシンプルな例は、そのテーマが持つ素朴さより実際の中身は極めて困難ではないのか?、と誰もが予想することである。我々チームは総力を上げて、このようなテーマに果敢に挑戦することで結束している。チームの特色は、材料科学に対する知識の広いバックグラウンドにある。各々がその専門分野の知識を発揮し、皆で融合することで、困難な課題を解決する糸口を探る体制が整っている。やや欠如していると感じている点は、理論家のサポートと分析技術関連の専門家との連携である。H25年度はこれらの専門家との信頼関係の構築にも目配りをし、いくつかの機会を利用したり、積極的に設けることにより、コミュニケーションを図ってきた。次年度以降はこれら各専門家との実質的な連携を行い、研究の深度をさらに上げる努力をしたい。 経費の使用方法についてであるが、H25年度は欲しい成果を得るための測定系の自作にもかなりの経費を割いたつもりであるが、一定程度の一般的な装置の購入に頼らざるを得ない面があった(もちろんこれらの装置は現状フル稼働で有意義に使用しており、購入にあたっては最大限の要望を盛り込んで選定を行った)。本研究が更に発展するために、次年度以降は独自性のある装置の購入比率を上げたい。また、我々だけでは行えない実験を障壁なく遂行するために、共同利用設備の使用をより加速させたいと考えている。これらにより、より有効な経費の利用を進めたい。
|