研究課題/領域番号 |
25220605
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木村 崇 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80360535)
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研究分担者 |
河江 達也 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30253503)
原 正大 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (50392080)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 純スピン流 / 磁気相転移 / 磁性酸化物 |
研究実績の概要 |
磁性絶縁体への純スピン流注入技術の開発に関して、磁性酸化物であるNiO 薄膜上に横型スピンバルブ素子を作製して、Cuチャンネル中に生成された拡散スピン流が、実際にNiO に吸収されるかを調べることで、スピン吸収効果を評価した。その結果、純スピン流の著しい減衰が観測され、磁性酸化物においても、拡散型の純スピン流は効果的に吸収されることを見出した。また、スピン注入下のNiOのスピン状態の変化を、交換磁気異方性を用いて評価し、注入するスピン流の増大に伴い交換磁気異方性が低下する現象を確認した。本現象は、反強磁性へのスピン注入効果を表す極めて重要な結果である。更に2つの強磁性体薄膜をNiOを介して接続し、両磁性体からのスピン流の往来により強磁性共鳴が同期し、ダンピング定数が著しく低下する現象を発見した。 また、放射光(XMCD)を用いて、金属磁性体電極/磁性酸化物界面の磁化も評価し、磁性酸化物界面の磁化は強磁性的な振る舞いを持つことを確認した。更に、ナノサイズの磁性酸化物ドットの相転移を検出するべく、高感度な相転移磁場センサを作製した。本技術は、従来の電気抵抗測定に比べて、著しく界面敏感であるため、様々な物性を得ることができる。バリスティックな伝導電子の軌道が磁場に敏感に変化することを用いて、磁場変化を極めて高感度に測定可能であり、実際にそのセンサを用いて、ナノ磁性体の微小な磁区構造変化が検出可能であることを示した。この他、純スピン流吸収効果を用いて相転移を検出する新奇な手法を開発し、実際に超伝導体の相転移を検出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、これまで予定していた3つの課題、①高効率な純スピン流生成源の開発②磁性絶縁体への純スピン流注入技術の開発③磁性酸化物の相転移特性評価技術に関して、分担者と共同で、実現済みであり、最終課題の④スピン流注入による相転移制御に関しても、一定の結果を得ている。 これまでの研究期間中、20篇を超える学術論文を出版しており、最近においては、関連の成果に対する招待講演の数も急増しており、すべてに出席できない状況ではあるが、国際的に関心を集めることができていると期待している。 この他、磁性酸化物を介したコヒーレント磁気共鳴、高効率な熱スピン注入やワイヤレススピン注入技術など当初予定ではない、様々な現象が本課題の副産物として得られている。 これらの事実より、研究代表者、分担者ともに、各役割を当初予定通り実行できており、最終目標達成に向けて、順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
既に強磁性電極を用いた磁性酸化物の相転移制御に成功しており、当初目標であるスピン流制御による相転移を実現できたと考えている。しかしながら、実用化を目指すには、更なる歩留まりの向上に加えて、より大きな抵抗変化を確実に得る素子作製プロセスを確立する必要があり、時間の許す限り、プロセス最適化を行いたい。加えて、抵抗変化や磁気相転移に関しては、まだまだ改善の余地があると考えている。特に、交換バイアスに関しては、もっと大きな変化を誘起できる可能性もあり、他の物質利用を含めて検討している。 また、NiO や GdO 以外の物質においても、効率的なスピン注入相転移の実現を目指す。特に、インドのグループにおいて、FeSiナノロッドを安定して作製可能な状態になったので、この物質への純スピン流注入効果を調べ、スピン注入磁気相転移の観測を試みる予定である。 ここで、各種物質において、磁気相転移や圧力誘起相転移などを、分担者・河江を中心にして実験を実施し、より効果的に相転移を引き出せる物質・構造を探求する。また、相転移デバイスにおいて、相転移に伴うスピン状態の変化は、現時点、交換相互作用を介して確認しているが、分担者の原により、超高感度な磁化測定技術が確立されたので、本技術を用いて、相転移に伴う磁性酸化物のスピン状態変化の直接観察を行う。また、更に、既に初期実験を済ませている放射光を用いた磁性酸化物層のスピン構造変化も実施する予定である。
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