研究課題/領域番号 |
25220607
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 進 京都大学, 工学研究科, 教授 (10208358)
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研究分担者 |
浅野 卓 京都大学, 工学研究科, 准教授 (30332729)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / 熱輻射 / 熱光発電 |
研究実績の概要 |
本研究では、電子系と光子系の両状態制御により、物体からの熱輻射を望む波長に望む線幅で集約する技術、熱輻射を動的かつ超高速に制御する技術など、熱輻射を自在に制御・利用するための新技術や概念の構築を目的としている。 本年度は、GaAs/AlGaAs量子井戸のサブバンド間遷移を利用した中赤外域熱輻射光源について、昨年度実現した複数のフォトニック結晶の集積化による波長切り替え可能な光源を発展させて、単一発光面から異なる2波長を出射可能な熱輻射光源の設計・作製を行った。具体的には、1つの基板に異なる井戸幅をもつ複数の量子井戸層を積層し、各量子井戸が単一のフォトニック結晶の基本モードおよび高次モードと相互作用するように構造設計を行った。その結果、中赤外域の離れた2波長(8.1, 10.8μm)を単一発光面から独立に出射可能な光源の実証に成功した。 また、Siのバンド間遷移を用いた近赤外域光源については、昨年度作製に成功した光源のより詳細な特性評価および理論解析を行い、解析結果とよく一致する、近赤外域に集約された熱輻射スペクトルを実証した。さらに、近赤外熱輻射光源の面積拡大による高出力化に向けて、サファイア基板やMgO基板上にSiフォトニック結晶を設けた光源の作製プロセスの開発を行い、大きさ1cm2を超える大面積光源の作製に成功した。 さらに、黒体リミットを超えて熱輻射強度を引き出す概念・手法の開拓に向けて、光源と受光素子を近接させ、近接場光成分を利用して熱輻射を増強する手法を検討し、その一般的な解析手法の導出に成功した。加えて、光源・受光素子の薄膜化と中間透明基板の挿入が、近接場熱輻射スペクトルの狭帯域化の鍵となりうることを発見した。さらに、その実験的実証に向け、パラレルキネマティックステージを利用して光源と受光素子(+中間透明基板)を波長以下の距離まで近接させるための系の構築に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述のように、本研究では、電子・光子系の両状態制御により、物体からの熱輻射を、エネルギー損失なく、望む波長に望む線幅で集約する技術、熱輻射を動的かつ超高速に制御する技術など、高温物体からの熱輻射を自在に制御・利用するための新技術や概念の構築を目的としている。 GaAs/AlGaAs量子井戸を利用した中赤外光源については、昨年度までに、当初の予定に掲げていなかった熱輻射の電気制御に取り組み、温度変化に依存しない熱輻射の超高速変調や、フォトニック結晶の集積化による高速波長切替動作の実証に世界で初めて成功していた。本年度は、本技術をさらに発展させることで、単一発光面で離れた2つの赤外波長を独立に出射可能な光源の開発に成功した。本成果は、狭帯域熱輻射光源の赤外センシングへの応用を促進する重要な成果であるといえる。 また、Siを利用した近赤外光源については、昨年度実証したロッド型Siフォトニック結晶構造の詳細な特性評価と理論解析を行うとともに、不要放射の比較的少ない赤外透明基板を利用した大面積熱輻射光源の作製に成功した。これらの成果は、太陽光や地熱等の熱エネルギーを利用した高効率な発電(熱光発電)の実現につながる成果であり、幸いにもその成果が米科学雑誌Science Advancesに掲載されるなど大きな注目を集めた。 さらに、黒体リミットを超えて熱輻射強度を引き出す概念・手法の開拓についても、当初は想定していなかった「薄膜熱輻射光源・受光素子を高屈折率透明中間基板を介して近接させる」という新しい制御手法により、特定の帯域の熱輻射のみを黒体限界を超えて引き出して利用できることを発見した。これは、上記の熱光発電の出力パワー密度・変換効率をさらに大幅に向上しうる重要な成果であると位置づけられる。 以上より、全体として本研究課題は当初に掲げた目標以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、今年度に基礎実証および大面積化に成功したSiフォトニック結晶に基づく近赤外熱輻射光源について、支持基板から生じる長波長熱輻射のさらなる抑制と、動作温度の向上による高出力化を検討する。今年度の検討では、支持基板としてサファイア基板およびMgO基板の利用を検討したが、前者は長波長の輻射損失が無視できず、後者は長波長の輻射損失の抑制の観点からは優れているものの、SiとMgOとの共晶が生じる温度(~800℃)以上で動作させる点に課題があった。本年度は、SiとMgOの間に薄い酸化膜層を挟んだ光源構造の作製プロセスを確立し、輻射損失を抑制しつつ1000℃程度まで動作可能な大面積光源の開発を目指す。さらに、フォトニック結晶自身にも耐熱性酸化膜コーティングを行うことで、現状の最高動作温度1000℃よりも高温で使用可能な近赤外熱輻射光源を実証することを目指す。 黒体リミットを超えて熱輻射強度を引き出す概念・手法の開拓に関しては、今年度に見出した熱輻射制御法を核として、理論および実験的検討を行う。理論面では、フォトニック結晶の回折効果や光禁制帯効果を取り入れた熱輻射制御の解析法を構築し、特定の波長域に近接場熱輻射を集約することのできる具体的な光源構造設計を行う。実験面では、上記理論的検討で設計した構造を試作し、黒体リミットを超える熱輻射伝達法の基盤技術の構築を目指していく。以上を通じて、高温物体からの熱輻射を自在に制御・利用するための、新しい技術・概念の構築の纏めとする。
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備考 |
京都大学野田研究室
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