研究分担者 |
川島 秀一 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (70144631)
林 仲夫 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30173016)
高橋 太 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10374901)
石毛 和弘 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90272020)
前川 泰則 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70507954)
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研究実績の概要 |
2次元ユークリッド空間内での移流拡散方程式はケラー・シーゲル方程式系の極限方程式と考えられ, その解は総質量(解の積分値)が保存されるため規格化すれば確率密度と見なせる. 解の各種モーメントが有限の仮定の下で臨界値未満の場合に, 時間大域可解性と有界性(減衰評価)が知られていたが, モーメントの重みをほとんど無くした場合の時間大域挙動は明確で無かった. これまで空間遠方の重みを軽減して時間大域的可解性について考察してきたが, 初期条件として臨界値総質量を8\piとした場合を含めた, 時間大域的存在を永井敏隆氏と共同で初めて証明した. この場合, 初期条件として8\pi 未満の測度も許容し, 前述の確率測度としての解釈も可能となる. 同時に初期条件がL^1となる場合が臨界状況に対応するが, 重み付きL^2空間では一次モーメントがL^2有界となる設定が臨界状況となる. 黒木場正城氏と共同でこのような臨界重み空間での初期値問題の可解性と時間大域可解性, および有限時刻での解の爆発を示した. 他方, 2成分を持つ2次非線形シュレディンガー方程式の初期値問題の適切性の限界を考察し, 係数に対する質量共鳴・質量非共鳴, 質量相殺の各条件に応じて, 臨界空間をソボレフ・スケールおよびより微細な分離が可能なベゾフ・スケールで与え, 非共鳴状態の場合, スケール変換の臨界スケール空間で, また質量相殺 1:1 あるいは質量共鳴1:2の場合には, それぞれs=1/4, s=0が適切性を得る臨界空間であることを, 岩渕 司氏, 瓜屋航太氏と共に示した. これは対応する共鳴-非共鳴状況に応じて解の時間大域的漸近挙動が異なることに対応して背後に擬等角変換による構造が隠れていることを示したことになり, 擬等角変換不変則が成立しない2次元においてもその構造が大きく関与することを意味する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨界型問題である2次元移流拡散方程式の初期値問題の可解性については質量臨界を含む時間大域解の存在を初期条件を測度を含む条件に対して示した. これに2次元移流拡散方程式の大域的適切性の結果はほぼ完成されたと思われる. また, ラマン分光をモデルとする2次元連立非線型シュレディンガー方程式の時間大域的挙動と時間局所的な挙動に対する質量係数の役割を明らかにした. これは従来単独の非線型シュレディンガー方程式の異なる2次の非線型項に対する漸近挙動が連立非線型シュレディンガー方程式の係数の条件(質量共鳴・質量相殺, 質量非共鳴)に応じて現れることが明らかとなった. このことはこのモデルの数学的構造の豊かさを物語る発見で意義深い. これらの成果はいずれもそれぞれの問題における臨界空間, あるいは臨界状況における特異な状況を取り出した成果であって, 当初に見込んでいた臨界問題に対して一定の成果が挙がってことを表す. また移流拡散方程式の大域的研究においては一部臨界指数を超えた成果も出つつあり, 臨界構造の理解に大いに寄与する優臨界研究に対する大きなステップにいたる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
移流拡散方程式の臨界問題に対する時間大域的適切性の研究は, ほぼ完成の域に達した. 次のステップとして圧縮性粘性流体からの導出によって自然に現れる, 退化型移流拡散方程式の解の漸近挙動や, 大域可解性の問題に研究を進める. また3次元以上の半線形移流拡散方程式の解の挙動はこの問題が優臨界問題となるため, 多くのことが未解決である. この方向の研究も試みる. 非線型シュレディンガー方程式の漸近挙動に対しては質量共鳴の場合の豊富な挙動の出現が期待される. これまでに知られていない挙動の研究を行う. さらに圧縮性ナビエ・ストークス方程式の臨界可解性において重要な役割を果たす, 臨界最大正則性の評価を放物型方程式に対して行う. これらの研究に関連して, 放物型方程式の臨界最大正則性, 分散型方程式の臨界時空評価(いわゆるストリッカ-ツ評価)の臨界における拡張や, 各種変分汎函数に対する臨界函数不等式の開発と適用を試みる.
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