研究課題
本プロジェクトでは、試料部最低到達温度500mK、及びエネルギー分解能50μeVという前例にはない性能を持つ角度分解光電子分光装置を開発する。H25年度は、新装置開発の指針となる全システムの設計図を完成させた。プロジェクト成功への鍵となる主要パーツは以下の3つで、それぞれ極限的性能が求められる。(1) ヘリウム3クライオスタット: 熱負荷の無い状況下で300mKの冷却性能を基本として、現実的熱負荷条件下(約10meV)で、500mKの到達温度を達成可能な冷却機構を設計。(2) 光電子アナライザー: 光電子スリットに対して垂直方向に飛び出す光電子をも収集し、運動量空間イメージング技術の劇的な高度化をもたらす新型電子レンズを搭載する。また、その性能を最大限に発揮する検知器を選定すると共に、電子レンズ制御とそれをリンクするソフトウェアの開発。(3) 磁気シールド搭載真空チャンバー: 目標となる分解能を達成する上で、低エネルギーレーザー光源の活用が不可欠であるが、その代償として、固体内から飛び出す光電子の運動エネルギーが低くなり、外部磁場に対して極めて敏感な光電子観測を求められる。我々は、試料チャンバー内への地磁気の混入を極限まで防ぐため、チャンバー内部に搭載するミューメタルシールドの設計を見直し改良。以上のような装置開発が着実に推進する中、H25年度の経費で購入した主な物品は上記(3)の磁気シールド搭載真空チャンバーである。ガウスメーターによる性能試験から、試料部における内部磁場は地磁気(約0.5G)の1万分の1程度であり、侵入磁場をほぼ完全にシャットアウトすることに成功した。そのほかにも、超高真空を作り出すポンプシステムの導入と、次年度に開発予定のヘリウム3クライオスタットを搭載可能な駆動ステージ一式、及びその冷媒となるヘリウム3ガスを購入した。
1: 当初の計画以上に進展している
装置開発を掲げる本プロジェクトにおいて最重要となる装置全体を俯瞰する設計図がキックオフとなるH25年度の早い段階で完成した。また、具体的装置性能を掲げた上で、各主要パーツの極限的性能の達成へ向けて、同時並行的に開発をスタートできた。特に、H25年度の経費で納入した磁気シールド搭載真空チャンバーの設計及び開発は当初の計画通りに推進でき、それを具現化した実際の性能特性は予想を遥かに上回った。以上のことから、本プロジェクトはおおむね順調に進展しているものと判断できる。その他の高分解能を達成する光電子分光や極低温を達成するクライオスタットの設計も順調に進展している。これらの試みはいずれも世界で最初のものである。
次年度以降に導入するヘリウム3クライオスタット及び光電子アナライザーにおいて、設計通りの性能を達成する事がプロジェクト成功への鍵を握るため、以下のような推進方策を取る。ヘリウム3クライオスタットに関しては、目的の冷却能力を確保することはもちろんの事、外界からの熱侵入を如何に押さえるかが肝となる。光電子分光測定では、試料に光を照射し、真空中へ放射される光電子を観測する。そのため、入射光と光電子用の窓がそれぞれ必要となり、それらを通して入り込む外部からの熱輻射が試料部の冷却を妨げる。また、室温と接するクライオスタット先端部からの熱伝導も考慮する必要が有る。我々はこれまでに、これらの熱流入を最小限に抑える技術を駆使することで、ヘリウム3に比べて冷却能力に劣るヘリウム4を用いたクライオスタットながら試料部において1Kの到達温度を達成している。本プロジェクトでは、新たに導入するヘリウム3クライオスタットに、これまで蓄積してきた技術を融合させ、さらなる改良をも施すことで、試料部の到達温度500mKを目指す。光電子アナライザー関連では、先進性を加味して、従来のCCDカメラではなくCMOSカメラを検知器として導入し、さらにはペルチェ冷却をも整備することで、暗電流と読み取りノイズを極限まで切り捨てた、次世代の高速フレームレート光電子カウンティングシステムを開発し、分解能50μeVクラスでの測定技術を確立する。計画通りに、”見えなかった物を見る”装置開発が成しとげられた暁には、物性研究に革新がもたらされるものと確信している。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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