研究課題/領域番号 |
25220708
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安藤 陽一 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (90371286)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 物性実験 / 半導体物性 / 表面・界面物性 / 低温物性 / MBE |
研究実績の概要 |
本課題の2年目である平成26年度は、トポロジカル絶縁体・超伝導体に関する試料作製とそれを用いた物性解明を行い、以下の主要な成果を得た:(1)トポロジカル絶縁体と普通の絶縁体の超格子構造が自然に形成されている(PbSe)5(Bi2Se3)6の層間にCuを電気化学的に挿入することにより、新しい超伝導体Cux(PbSe)5(Bi2Se3)6を合成した。さらにこの超伝導体の比熱が、超伝導ギャップにノードが存在する場合に特徴的な振舞いを示すことを発見し、この物質では非従来型超伝導状態が実現している可能性が高いことを明らかにした。スピン軌道相互作用が強い物質でギャップノードを持つ超伝導状態が存在すれば、その表面にはマヨラナ粒子が現れるので、この新超伝導体はマヨラナ粒子を研究する新たな舞台を提供する。(2)トポロジカル絶縁体の表面状態におけるフェルミ準位を電界で制御してヘリカルディラック粒子特有の物性を調べるためには、効率的な電界制御が可能なゲートを表面にダメージを与えずに形成することが必要である。しかし通常の方法でトポロジカル絶縁体上にゲートを形成すると、表面状態の電子移動度が劣化してしまうことが大きな問題となっていた。我々はAl2O3キャッピング層とCat-CVD法によるSiNx誘電層の低温蒸着を組み合わせることにより、表面の劣化なしにゲートを形成し、効率的な電界制御が可能であることを初めて実証した。
また外部の研究協力者と共同で以下の主要な成果も得た:(3)トポロジカル絶縁体にスピンを注入するとその方向に依存した電圧が現れる現象を、マイクロ波によるスピンポンピングによって実証し、また強磁性体からの電流注入によってスピンの方向に依存する磁気抵抗が現れることも実証した。(4)トポロジカル絶縁体と金属超薄膜の間で「トポロジカル近接効果」が起こることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トポロジカル・ジョセフソン接合における微弱な超伝導電流を極低温で観測するための超低ノイズ測定系の構築や、バルク絶縁性の高いトポロジカル絶縁体超薄膜試料の成膜条件の確立など、難しい実験に挑戦する一方で、デバイス作製技術の構築も並行して行った。これにより、本課題が目指しているブルークスルーを達成するための準備が着実に整いつつある。また、マヨラナ粒子を観測するための有望な舞台となる新しい超伝導体を発見するなどの重要な研究成果を既に得た。
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今後の研究の推進方策 |
本課題で作製するトポロジカル絶縁体・超伝導体の高品質単結晶と高品質薄膜を活用した高度な測定を行い、新奇な物性の解明を推進する。特にこれらの高品質試料をデバイスに加工し、表面スピン流、トポロジカル超伝導近接効果、トポロジカルバンドの混成効果、などの物理の解明に注力する。
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備考 |
なお今年度は、研究成果を社会・国民に発信するため、2014年10月29日(水)に大阪科学技術センターにおいて一般大衆向けに開催された大阪科学賞記念講演会の中で「注目の新材料『トポロジカル絶縁体・超伝導体』:その概念と研究の進展」と題した講演を行い、国民との科学・技術対話を図った(参加者約100名)。
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