研究課題/領域番号 |
25220709
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿野田 一司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20194946)
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研究分担者 |
賀川 史敬 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, その他 (30598983)
伊藤 哲明 東京理科大学, 理学部, 准教授 (50402748)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 分子性物質 / 可制御性 / 誘電性 / 電荷ガラス / ディラック電子 / スピン液体 / モット転移 |
研究実績の概要 |
1)強誘電性と電気伝導;擬1次元物質TTF-QCl4が電子分極性強誘電体からイオン分極性強誘電体にクロスオーバーする圧力領域で、強誘電を担う電荷移動と分子2量体化が分離し、電荷とスピンが解放されることを電気伝導とNMRの測定によって明らかにした。また、擬2次元イオン性モット強誘電体M2P-TCNQF4を8GPaまで加圧することで、室温での電気抵抗が5桁、電荷ギャップが1/5に減少することを見出し、分極性モット転移の実現まであと一歩と迫った。 2)電荷ガラス;一連のθ型BEDT-TTF塩について電荷ガラス形成能や電荷クラスタサイズの系統性を調べ、幾何学的フラストレーションが強い物質ほど、高い電荷ガラス形成能を示すことを明らかにした。また、電荷ガラス化しないとされていた物質についても、1000 K/sを超える速度で冷却することで電荷ガラス化に成功した。さらに、電荷のガラス状態と結晶状態を可逆的に制御し、強相関電子相変化メモリの原理実証を行なった。 3)強相関ディラック電子;α-(BEDT-TTF)2I3が電荷秩序相からディラック電子相に転移する臨界圧力近傍で、電荷秩序相側で電荷励起がギャップレスとなること、一方、ディラック電子相側で電気抵抗の低温での増大が臨界圧に向かって増強されることを見出した。それぞれ、理論で予言された端電流の存在とディラック電子への電子相間効果を示唆する結果である。 4)スピン液体;スピン液体が量子臨界的なモット転移を示すことを明らかにすると共に、ドープされたスピン液体の候補物質が加圧によって非フェルミ液体からフェルミ液体に量子相転移する可能性を指摘した。また、最近新たに合成された三角格子系モット絶縁体κ-H3(Cat-EDT-TTF)2の磁性を調べた結果、低温まで磁気秩序が形成されないことを見出し、この物質がスピン液体的基底状態を持つ第3の物質であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、上記「研究実績の概要」に記した4つの項目において領域横断型の研究を目指している。平成26年度、それぞれの項目において、計画を上回るペースで研究が進展した。下記、項目毎に記す。 1)強誘電性と電気伝導;研究対象としたTTF-QCl4においては、これまで電荷自由度とスピン自由度は、強誘電相における欠陥として現れるに過ぎなかったが、圧力を用いることでそれらが動的に解放されることが明らかになり、誘電体の研究が電気伝導性と磁性という異なる領域に跨る横断的研究へと発展する突破口を得た。 2)電荷ガラス;平成26年度以降の研究目標として、“theta-ET 塩における電荷ガラス相の制御と巨大応答の創出”を掲げていたが、平成26年度に電荷ガラス相を用いた強相関電子相変化メモリの実証に成功しており、抵抗で2ケタ程の変化を可逆的にスイッチさせることに成功した。これは当該目標に資する成果であり、したがって当初の計画を上回るペースで研究が進展していると考えている。 3)強相関ディラック電子;有効質量ゼロのディラック電子は、グラフェンをはじめとして、いくつかの物質で見出されているが、本年の成果は、圧力をパラメータとすることで、電気伝導に対する電子相関の効果を初めて明らかにした。強相関ディラック電子系と呼ぶべき研究領域の創成に向けての基礎固めが着実に進んでいる。 4)スピン液体;三角格子Mott絶縁体における量子磁性相とその融解は、物性物理の根幹問題であるが、現実に知られている量子磁性相を示す物質の数が非常に限られていることがこの分野の発展を大きく阻害していた。この状況に対し、平成26年度は新たなスピン液体候補物質を見出すことに成功した。これはこの分野の研究を大きく加速させる重要な成果であると考えられ、当初予想していなかった成果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の成果を踏まえ、各項目について以下の方針で研究を推進する。 1)強誘電性と電気伝導;電子型強誘電体とイオン型強誘電体のクロスオーバー領域に現れる高い電気伝導度とスピンの活性化が、それぞれ中性/イオン性ドメイン壁的励起、ソリトン的励起であるとの仮説のもと、これを検証することに注力する。また、これに並行して、中性イオン性量子臨界点を有する電荷移動錯体において、量子臨界挙動をドメイン壁ダイナミクスの観点から明らかにする研究をスタートさせる。 2)電荷ガラス;相変化メモリの動作速度を律速している、電荷の結晶化ダイナミクスの温度依存性を測定し、臨界冷却速度との相関を明らかにすることで、強相関電子相変化メモリの学術基盤を整備し、さらに動作特性の優れているメモリの創出を狙う。また、金属物質の電荷ガラス化を試み、電荷フラストレートした状況でのガラス化と量子性の競合に新しい研究領域の可能性を探りたい。 3)強相関ディラック電子;電荷秩序相からディラック電子相への転移に関する研究において、電子輸送特性から核磁気共鳴実験へと重心を移しスピン自由度の振る舞いを知ることで、ディラック電子の質量生成機構に切り込む。さらに、伝導面に垂直な磁場下量子極限状態における対称性の破れを臨界圧近傍で調べ、質量生成をランダウ量子化という新しい視点から探る。 4)スピン液体;昨年度の研究によりκ-H3(Cat-EDT-TTF)2も古典的磁気秩序を伴わない量子力学的基底状態を取ることを明らかにした。このような三角格子Mott絶縁体系のバラエティーが増えたことを活用し普遍的物理を抽出すべく、今後は、これらのフラストレートMott絶縁体に圧力印加して現れる電子状態(含超伝導)を各物質に対し調べ、類似点・相似点を洗い出し、三角格子Mott転移近傍における電子状態の包括的議論を展開する。
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