研究課題/領域番号 |
25220710
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 祐司 京都大学, 理学研究科, 教授 (50199816)
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研究分担者 |
芝内 孝禎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (00251356)
笠原 成 京都大学, 理学研究科, 助教 (10425556)
花栗 哲郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (40251326)
寺嶋 孝仁 京都大学, 理学研究科, 教授 (40252506)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 重い電子系 / 超伝導 / 人工超格子 / 量子臨界 / 2次元 / スピン密度波 / BCS-BECクロスオーバー / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
本年度は、重い電子系超伝導体の人工超格子の量子臨界制御の実験に成功した。CeRhIn5は常圧でスピン密度波転移を示す重い電子系物質であるが、これをf電子を含まない通常金属であるYbRhIn5でサンドウィッチし、原子層の厚みまで薄くすることに成功した。このような系では、スピン密度波転移の温度が厚みを薄くすることに夜2時原価により、減少して行き、3原子層程度の厚みでほぼ消失した。さたに3原子層人工超格子に対し磁場を印加することにより、精密な量子臨界性の制御を行えることを示した。この結果は、Phys. Rev. Lett誌に掲載され、いくつかの国際会議で招待講演になった。また、人工超格子の長文のレビュー "From Kondo Lattices to Kondo Superlattices" を Rep. Prog. Phys.誌に発表した。さらに重い電子系超伝導体CeCoIn5を2種類のことなる化合物YbRhIn5とYbCoIn5でサンドウィッチした、重い電子系トリコロール超格子の作製に初めて成功した。この系では、空間反転対称性をグローバルに破ることが出来、いわゆるラシュバ相互作用を導入できることを、上部臨界磁場の測定から示した。さらにこの系では磁場を面に平行にかけたときに、上部臨界磁場の異常な振る舞いが観測され、これが理論的に予測されていたヘリカル超伝導相の可能性があることを指摘した。またMBEで成長した薄膜のSTM観察にも成功している。 これらとは他に、本年度はFeSe系超伝導体における、高磁場相、超高圧力相、BiS2二次元層を持つ超伝導体に関する研究の他に、パイロクロア構造を持つ量子スピン系酸化物における、極低温婦ピン励起におけるフェトン、モノポール励起の研究でも大きな成果をあげた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定であった、バルクでは作製が不可能であった重い電子系化合物の人工超格子の作製に成功し、量子臨界性の人工制御やエキゾチック超伝導の実現に成功した。さらに分子線エピタキシー法(MBE)とトンネル顕微鏡(STM)を結合させた薄膜における研究では、清浄かつ平坦な表面の作製に成功し、STMによる局所的な電子状態の観察にも成功した。これにより、CeCoIn5の非磁性不純物まわりの電子状態の観測に成功しただけでなく、CeをLaに置き換えたいわゆるKondo-Holeの観測にも成功した。Kondo-Holeの観測は世界初の成果である。またSTMにより直接観測された非磁性不純物のまわりの電子状態は、これまで核磁気共鳴等の非常に多くの実験から指摘されていた、電子状態、磁気状態とは大きく異なりこれはこの分野に大きな進展をもたらすものであると考える。 さらに、FeSe系の実験においては、FeSe化合物が、これまでのいかなる超伝導体においても実現できなかったBCS-BECクロスオーバー領域にあることを示すことが出来、これは超伝導全般の分野における大きな発展であると間あげる。 またパイロクロア酸化物では、絶対零度でも量子ゆらぎのためにスピンが秩序化しない量子スピン液体状態が実現している可能性が示唆されていたが、我々は熱伝導測定によりこの系では、量子電磁気学との対応から生じる磁気モノポール励起やフォトン励起が存在することを示した。これらは、スピン系における新しい素励起の発見である。 以上、計画はほぼ順調に進んでいるだけでなく、当初予想しなかった様々な半券をすることが出来、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究をさらに発展させていくだけでなく、新しい実験にチャレンジしたい。特に、重い電子系超伝導体CeCoIn5とスピン密度波を基底状態として持つ重い電子系化合物CeRhIn5を交互に積層させた、ハイブリッド人工超格子の作製を行い、d波超伝導体とスピン密度波の界面を通じた相互作用の研究を行う。特にこのような薄膜に高圧をかけスピン密度波の量子臨界揺らぎの超伝導に与える影響についての研究を行いたい。さらに、CeCoIn5にNdをドープした系では最近、Q相と呼ばれる超伝導と反強磁性が空間的に共存したエキゾチックな状態が出現することが知られているが、このような系を作製しSTMにより可視化したいと考える。またCeCoIn5を原子層だけ積んだ薄膜においてはトポロジカル超伝導状態の実現が理論的に予想されているが、この検証実験も行いたいと間あげている。 またFeSeの研究では、SeをSにおきかえた系の超伝導状態の研究を継続して行いたい。この系ではネマティック電子状態と超伝導の関係が大きな問題となっているが、Sドープによりネマティシティを変化させることが出来る。我々は特に超伝導ギャップ関数の異方性がS置換によりどのように変わってゆくかを研究したい。 量子スピン液体の実験も引き続き行ってゆきたい。特にキタエフスピン液体状態が実現されると考えられているRuCl3に対して、熱ホール効果の測定を行いマヨラナエッジ電流が存在するかを解明したい。
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