研究課題/領域番号 |
25220711
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 義朗 京都大学, 理学研究科, 教授 (40226907)
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研究分担者 |
高須 洋介 京都大学, 理学研究科, 助教 (50456844)
藤本 聡 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10263063)
段下 一平 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (90586950)
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研究期間 (年度) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 冷却原子 |
研究実績の概要 |
申請者のグループがこれまで世界をリードしてきた2電子系原子の量子気体研究の成果を踏まえて、光格子中2電子系原子気体を用いた量子凝縮相に関する独創的な物性研究を格段に発展させることを目的とする。具体的には、イッテルビウム(Yb)原子量子気体のハバードモデルを実装し、「トポロジカル量子物理」、「量子磁性」、「新奇超流動現象」、「非標準型格子の特異なバンド構造」、「不純物問題の量子シミュレーター」、などの研究を行う。さらに、「量子気体顕微鏡」の開発により、光格子の超高空間分解能「その場」観測を実現し、量子凝縮相の研究における全く新しい可能性を開拓する。 本年度の研究実績として、上記の研究目的に向けて、概ね順調に研究を進めることができ、具体的には、まず実験面では、1)準安定状態と基底状態の混合フェルミ粒子系の超低温の実現、2)スピンポンプ実験系の考察、3)光格子中超低温実現のための準備実験に成功、4)量子相転移への2体ロスの非自明な影響の解明、5)フェルミ粒子の平坦バンドへの導入法の開発、6)非平衡ダイナミクスの実験と理論的説明、などのような成果を得ることができた。 理論面では、ワイル・フェルミオンに特徴的なカイラル異常に起因する新規量子輸送現象を理論的に提唱し、確立した。トポロジカル織目構造が生み出す創発的電磁場によって、平衡流が生じ、カイラル異常が実験で観測可能な現象として実現されることを明らかにした。この結果は電荷を持たない原子気体にも応用できる可能性がある。 イタリアのLENSの実験グループが行った、光格子中一次元Bose気体の二重極振動の減衰を解析した。新たに導出した計算公式を用いて、二重極振動の減衰率を計算した。結果として、実験結果と定量的な一致を示した。これによって、光格子量子シミュレータで超流動トランスポートを調べるという応用の道を切り拓いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験面での進捗状況として、準安定状態への励起時の加熱とロスの効果を抑えて低温を実現した。また。また、フェルミ同位体171Yb原子の内部自由度を用いた、スピンポンプの実験系の考察を終えた。さらに、光格子中でのフェルミ同位体173Ybの超冷却を実現するための方策として、スピン自由度の活用や、2層構造の光格子による、エントロピーの再配分法の検討を本格的に行い、実際にスピン4成分系の準備、および2層正方格子の実装に成功した。また、2体ロスの効果を制御された形でボースハバード系に導入し、実験と理論で協力して、量子相転移に対する影響を明らかにした。さらに、空間断熱通過法を新たに開発して、平坦バンドのみにフェルミ粒子を効率よく導入する新しい手法を開発した。また、光格子中ボース気体およびフェルミ気体における格子深さのクエンチ後のダイナミクスに関して実験を行い、1次元系については理論分担者(段下)の理論と定量的な一致を見た。さらにp-波超流動の可能性に向けて7Li原子のレーザー冷却に成功した。そして、空間光変調機を量子気体顕微鏡に導入して、光ポテンシャルに高い操作性をもたせることができるようになった。 次に、理論面での進捗状況として、フェルミ粒子の波数空間における非自明なトポロジーに起因する新規現象を探索してきたが、ワイル・フェルミオンに関するトポロジカルな量子輸送現象について格段に理解が進行し、ワイル超流動状態や、ワイル磁性状態等に展開する端緒を得ることができた。今後の研究の飛躍的発展に繋げて行くことができる成果が得られた。 また、H28年度に実験グループと理論グループの協力が加速し、制御可能な二体散逸項を持つBose-Hubbard模型の量子シミュレーションに成功した。ここでの二体散逸項の導入法は光会合技術を利用した一般的なものなので、Bose粒子系以外の様々な系に応用可能である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を総合的にまとめ目的を達成する。主に実験面の具体的方策として、まず、2軌道SU(N)の系における軌道型フェッシュバッハ共鳴を駆使することや、ボース・フェルミ混合原子気体におけるボソン誘導フェルミ粒子間引力相互作用により、トポロジカル超流動の実現をめざす。また、光格子中でのエントロピーの再配分を行うことでフェルミ同位体173Ybの光格子中での超冷却を図る。さらに、光格子中ボース気体およびフェルミ気体における格子深さやブロッホ振動現象を利用した系のクエンチ後のダイナミクスに関して実験を行い、理論分担者(段下)がその理論的解釈をサポートする。また、非標準型格子の特異なバンド構造については、上記項目と同様な方法で、冷却の問題の解決を図る。さらに、Yb原子の基底状態と準安定状態の間のフェッシュバッハ共鳴を利用した「アンダーソン直交崩壊」などの観測、および、2軌道SU(N)の系における局在不純物の実装を追求する。量子気体顕微鏡については、超流動・モット絶縁体転移などを観測するとともに、量子フィードバック制御などの新しい可能性を追求する。 主に理論面の具体的推進方策として、これまでの結果を発展させ、ワイル超流動状態における、超流動秩序変数の織目構造に起因する新規なカイラル異常現象を探索する。さらにまた、冷却原子系におけるマヨラナ粒子の非アーベル量子統計を実現するためのスキームを理論的に探索し、完成させるとともに実験との共同研究を推進する。 より一層、実験と理論の連携を推進する。具体的には、相対論的超流動体のHiggsモードの観測、新規冷却技術の開発、時間依存相関関数の観測、新奇量子磁性相の実現に関して協力する。最終年度ということもあり、できるだけ多くの成果を論文にまとめるよう努める。
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