研究課題
下部マントル領域の弾性波速度測定に関しては、多結晶体ガーネットの合成手法の開発を更にすすめ、粒径数十nmの透明なナノ多結晶体の合成に初めて成功した。このような試料は通常の超音波法とともに、GHz超音波法やブリルアン散乱法にも利用可能であり、大きな進歩である。一方、企業との共同開発による新超硬合金アンビルのテストを行い、40GPaを越える圧力発生が可能であることを見出した。これに超音波法を組み合わせ、35GPa領域での弾性波測定が可能であることを確かめた。焼結ダイヤモンドアンビルを用いた40GPa領域での実験では、超音波の散乱による減衰の問題を解決する必要があることが分かった。弾性波測定に関しては、ガーネットについてはalmandineの測定により、主要な端成分の測定を20GPa領域まで終了した。引き続きbridgmaniteの測定圧力温度領域の拡大を行うとともに、パイロライトを用いた弾性波速度測定を開始した。本年度はマントル遷移層領域までのデータ収集を行ったが、次年度以降に下部マントル領域での測定も行う予定である。2種類の天然コンドライトを用いた50 GPa域までの融解実験を行った。これらの結果、リキダス相の圧力変化において興味深い結果を得るとともに、主要元素の珪酸塩鉱物とFe-Ni(-S)間の分配挙動について分析を行いつつある。ヒメダイヤを利用した高温・発生に関しては、2段式ダイヤモンドアンビル装置を用いた新たな超高圧発生技術の開発に取り組むとともに、内熱加熱方式の開発を開始した。一方で、高圧下でのX線吸収実験において、多結晶体であるヒメダイヤはブラッグ反射によるノイズを回避できる点で、単結晶に比べて非常に有利なことが明らかになり、この点を生かしたFeなどの局所構造に関する研究が開始された。
2: おおむね順調に進展している
高精度な弾性波測定用の超高圧下での高品質な多結晶体試料合成に関しては、構成粒子のナノ化に初めて成功する技術開発において大きな成果が得られた。この手法による試料合成は様々な手法による高圧相の弾性波速度測定に新たな道を拓くとともに、従来困難であった「透明ナノセラミックス」の合成手法として、物質科学関連分野においてもインパクトがある新手法である。焼結ダイヤモンドを用いた40GPa領域での弾性波速度精密測定は、アンビルの粒界での超音波散乱により、測定系に大きな改良を加える必要があることが判明した。一方で、新たに開発された超硬合金アンビルの利用により、この圧力領域までカバーできる可能性がでてきており、当初の技術目標はこの方向で達成できる見込みである。ヒメダイヤを用いた温度圧力領域の拡大に関しては、大型合成装置の数か月間に渡る故障・修理などのため遅れを生じているが、小型ヒメダイヤを用いた超高圧発生や、高圧下X線吸収実験において重要な成果があがった。パイロライトおよび構成鉱物の弾性波測定に関しては、順調に進展しており、当初の目標は十分達成可能であると考えられる。また、下部マントル条件下での焼結ダイヤモンドアンビルを用いた相関係精密決定に関しても、着実に成果があがりつつある。一方で、コンドライトを用いた融解実験及びそれに伴う融解関係や元素分配についても、成果があがりつつある。しかし特にタギッシュレイクの炭素質コンドライトを用いた実験では、揮発性成分や酸素雰囲気の制御など解決すべき問題が残されており、特に元素分配の測定に関しては今後更に検討が必要である。
弾性波速度測定に関しては、引き続き焼結ダイヤモンドを利用した測定技術の開発を進めるととともに、本年度テストを行った新超硬合金アンビルの本格利用を開始し、両方の技術を用いて40GPa領域での高圧相の弾性波測定精密決定技術の確立を行う。これらにより、下部マントルにおいて重要なMgSiO3-bridgmaniteの弾性的性質の詳細や、これに対するAl及びFeの影響を精密に決定し、地震波速度モデルと比較することにより下部マントルの化学組成を制約する。下部マントル領域における、相関係の精密決定に関しては、焼結ダイヤモンド及びヒメダイヤを用いた高温高圧発生技術の開発により、できる限り高い圧力領域までの実験を行う。特にパイロライト、MgSiO3-Al2O3系、MgSiO3-FeSiO3系の相関係の精密決定を重要課題として推進する。一方で、ヒメダイヤを用いた高温高圧発生技術の開発も、多アンビル型装置及びダイヤモンドアンビル装置を用いて行い、焼結ダイヤモンドでカバーできない領域の相補的実験を目指す。コンドライトを用いた融解実験に関しては、焼結ダイヤモンドアンビルを用いたより高温領域の発生のための技術開発を行うとともに、特に親鉄元素の共存相間の分配に関して50-60 GPa領域までの決定を行う。得られたデータを基に、マグマオーシャンの深さや地球形成時の後期集積物の必要性や量に関する制約を目指す。
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すべて 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 4件、 査読あり 20件、 オープンアクセス 11件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (31件) (うち招待講演 6件) 備考 (1件)
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