研究課題
環拡張ポルフィリンは大きな環状共役分子であるが、これらを用いて、芳香族性や反芳香族性の発現限界に挑戦する研究を展開中である。40πノナフィリンニッケルロジウム複核錯体を合成し、これが世界最大の二重捩じれヒュッケル反芳香族分子であることがわかった。次に、44πデカフィリンに還元的にパラジウムを配位させることにより、46πデカフィリンパラジウム錯体を当時世界最大のヒュッケル芳香族分子として合成した。この錯体を酸化すると44πデカフィリンパラジウム錯体が得られるが、最初に速度論的生成物としてヒュッケル反芳香族分子が生成し、長時間放置すると世界最大のメビウス芳香族分子に変化することがわかった。ルビリン型の50πドデカフィリンのプロトン化体の合成とその結晶構造に成功し、世界最大のヒュッケル芳香族分子であることを明らかにした。環縮小ポルフィリンであるサブポルフィリンの化学でも大きな進展が見られた。サブポルフィリンのβ位にスルホキシドを導入することにより、ボウルキラリティとスルホキシドのキラリティにより、2個のジアステレオマーが存在すると予想され、実際にB-メトキシ体とB-フェニル体でジアステレオマーの単離に成功した。これらの化合物のジアステレオマー間の相互変換を詳しく調べたところ、B-フェニル体では、相互変換は全く進行せず、B-メトキシ体ではアルコール中で相互変換が進行することが分かった。これらの結果から、B-メトキシ体のボウル反転は、SN1型の機構で進行することが強く示唆された。サブポルフィリンB-ハイドライドの合成に成功し、適当なルイス酸存在下で、ベンズアルデヒドを還元する能力があることがわかった。また、サブポルフィリンメゾオキシラジカルが非常に安定な中性ラジカルである事を発見した。サブポルフィリンを有機色素とした有機太陽電池の光電変換効率が非常に高いことを発見した。
1: 当初の計画以上に進展している
環拡張ポルフィリンの研究が予想を超えた展開を示している。芳香族性分子や反芳香族性分子をどれくらい大きなπ電子系で実現できるかは、有機化学における重要な課題である。環拡張ポルフィリンは、環状共役構造と柔軟な構造を持ち、大きな芳香族分子の発現に理想的な分子群である。しかもピロール由来の窒素原子がアミンあるいはイミンの形で存在し、これらが酸化反応や還元反応に応じてプロトンの授受を行って、分子全体の中性を保つため、非常に多彩な電子状態を発生できる特徴を持っている。それに加えて、プロトン化や脱プロトン化も可能であり、カチオン状態やアニオン状態も発生させることができる。我々の研究により、世界最大のヒュッケル芳香族分子、ヒュッケル反芳香族分子、メビウス芳香族分子、メビウス反芳香族分子が合成されている。現在、これら世界記録を凌駕する分子の研究も進展中であり、今後の展開が楽しみである。また、サブポルフィリンの研究も非常に進んでいる。サブポルフィリンB-ハイドライドの世界初の合成に成功し、この化合物はルイス酸存在下で還元能力を持つことも明らかにした。この成果は、Nature ChemistryとJACSでハイライトとして取り上げられた。また、サブポルフィリンメゾオキシラジカルが極めて安定な中性ラジカルであることも発見した。更に、サブポルフィリンが色素増感太陽電池用の色素として有望であることが分かってきた。
環拡張ポルフィリンを用いた芳香族性や反芳香族性の発現限界を更に広げることに挑戦する。これまで合成した分子を超える大型の芳香族性を達成しうる分子として[64]テトラデカフィリンと[72]ヘキサデカフィリンがある。両方の分子ともに、中性状態の結晶構造解析に成功しているが、多重の分子内水素結合により、球状のコンフォメーションを取っており、非芳香族分子である。これらの分子は非芳香族分子特有のブロードな吸収スペクトルを示す。[64]テトラデカフィリンをテトラブチルアンモニウムフルオライドで脱プロトン化すると、1145 nmに巨大な吸収バンドを示し、芳香族性分子が生成していることが示唆される。今後、この脱プロトン化体の結晶構造解析を進める予定である。また、[72]ヘキサデカフィリンは、72π共役分子で、プロトン化や脱プロトン化や金属錯化により、芳香族分子の生成を試みる。サブポルフィリンの化学の進展として、B-ペルオキシドサブポルフィリンが有望である。B-O-Oの構造を持つ化合物の例は、これまであまりないが、サブポルフィリンのアキシアル位にペルオキシ結合を持った化合物が化学的に安定であることを発見した。この化学を進めたい。また、サブポルフィリンメゾオキシラジカルの化学の展開として、TPP型ポルフィリンのメゾオキシラジカルも化学的に安定であることを発見した。サブポルフィリンに基づく色素増感太陽電池の効率向上も目指す。
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